第2話 秋の祭り会場って浴衣だと寒そうだよね

「おお、来たな」

 誰が来たって?

 そんなの決まっている。ケイリだ。俺はケイリを待っていたんだから。

 ……まあ、もしここで俺が誰か別の人に声を掛けていたら、それはそれで面白いんだろうけど。


 ケイリは桃色を基調とした浴衣を着ていた。

 浴衣の中には桜の木が優雅に描かれているのだが、秋なのになぜかその恰好は紅葉の街並みと美しく調和していた。

 ……ちなみに俺の服装については一切触れません。センスが無いんで。悪しからず。


「あ、アクト君。早いね」

 まあ、レディを待たせたらいけないって母さんにバチクソ刷り込まれたからな。

 あっちなみに、俺も親も中国地方出身じゃないぞ。ただ、バチクソ面白いから使ってるだけだ。

「そういうケイリは、時間ぴったりに来たな」

 そう、只今の時刻は、午後4時27分39秒です。ケイリが来たのがホントに3秒前くらいなので、ピッタリに来たということが出来るでしょう。

 ……と、俺は素直に感心してそんなことを口走らせてしまったのだが、ケイリにはその俺のセリフが、待ち合わせ時間ギリギリに来て他人を待たせた気を使わない奴、と皮肉ってるように聞こえたらしく、頬を膨らませていた。

 それはもう、すっごく、膨らませていた。顔の表面積が3倍ぐらいに膨れ上がってるような錯覚に囚われる位には。

「そんなにギリギリじゃないもん!約束の時間よりも0.37294秒も早くここについたもん!」

「いやそれもう誤差だろ!?」

「誤差ですって!じゃあアクト君は、1+1の答えは2、だから四捨五入して0だな、って本気でそう言うわけ!?」

 ああ、もう面倒くさいよこの数学オタク。0.37……なんだっけ?秒なんて誤差どころかピタリ賞扱いでいいと思うんだけど……

 でもこのままだとケイリが不服そうにしたままなのが容易に想像できるので、

「はいはい、申し訳ございませんでした。あなたは確かに約束の時間よりも早く来ました」

 と、自分でも驚くほど感情のこもってない棒読みで言ってみた。

 するとケイリは……

「うん。分かればよろしい」

 ……なんか凄く満足気だった。

 ちょっとチョロ過ぎないかこいつ。将来が不安になってきた。

 まあ、上機嫌になったようなので一先ずは良しとしよう。


「それじゃ、アクト君。今日は思いっきり楽しもうね!」

 ああ、満面の笑みが眩しい。俺如きじゃ下手したら今日中に浄化されるかもしれない。

 全く、さっきくだらない事(なんて面で言ったら腹掻っ捌かれかねないが)でキレていた奴とは思えないな。

 まあ、その笑顔見せてくれるんだったら、いいかぁ〜。

 あれ?俺ってこんなキャラだっけ?

 ってアッブネェ。気づけてよかった。シャキッとしないと。俺というキャラが消えかかってたよ全く。

 あいつの笑顔化学兵器だよ。人のキャラをブレさせる力がふんだんに詰め込まれてるよ本当。戻せ戻せ。

「そうだな。じゃ、さっさと会場に行っちまうか」

「そうだね。……っと、そうだアクト君、今日いくら持ってきたの?」

「そうだなぁ、まあ、大体5000円位だな」

 まあ、1日分なら妥当な金額じゃないか?

「ふ~ん、結構持ってきてるんだね」

「そういうケイリはいくら持ってきてるんだ?」

「200円」

「ふ~ん、200円ね……って、200円!?少ないな!そんなんで足りるのかよ!」

 お金を軽んじるわけでは無いが……200円で何ができるんだ?たこ焼きさえ買えないじゃないか。

「大丈夫。お金がなければ稼げばいいんだよ」

「?……どういう事だ?」

「まあまあ。行けば分かるよ」

 果たしでどうするのか、俺には全くもって見当もつかなかった。

 だが、ケイリが考える事だ。今までの行動則上、ヤベェ事になるのは間違いないな。うん。

 まあ、この旅路が波乱の幕開けをするんだろうということは、今の俺にとって想像に難くはなかった。


 もうすぐ、俺たちの祭が始まる。

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