第32話黒い幼女と新しい仲間




「ううん…………」


「起きそう。フーナさま」

「フーナ姉ちゃんっ!」


「え?」


 横たわる黒の幼女が目覚めそうだと、メドとアドが教えてくれた。


「え、え? ちょっと待ってっ! わわっ! 痛ぁ~っ!」


 そんな私はちょうど片足を上げてパンツを履いてる最中だった。

 無駄に長いローブが邪魔で中々履けなかった。そして転んだ。



「んしょ。これでノーパン生活もお別れだね。で、どんな感じ?」


 転んだままでパンツを履き終えた私は、黒い幼女に近付く。


「うう」


 パチッ

 

「あっ! 目が開いたよっ! わたしわかる? あなたのお姉ちゃんだよっ! そしてあなたはいつも一緒にお風呂に入ってたのっ!」


 目覚めたと同時に、一気に捲し立て、偽情報を流し込む。

 それがあたかも事実の様に。そして刷り込みをするように。


「フーナさま…………」

「フーナ姉ちゃん…………」


 それを見て、メドとアドにジト目で見られたけど、今は気にしない。

 この大事な瞬間は、この一度だけかもしれないからね。


 私はチャンスを逃がさず、それを生かす幼女なのだ。



 ところが――――


「嘘ね」

「え?」


 目覚めた幼女から発せられた言葉と声は、予想と違っていた。


「あなたはフーナ。そして我はエンド。随分と迷惑を掛けてしまったみたいね」


 長く黒い髪を指で梳かしながら、少し落ち着いた声と仕草で頭を下げる。

 幼女と見た目とのギャップが凄い。



「え? わたしはお姉ちゃんだよ? いつもお風呂してたよ?」

「違うわ。あなたが我を開放してくれたのよ。姉ではないわ」


 チラと視線を向けながら、少し大人びた口調で否定する。


「………………」


 何だろう?


 メドともアドとも違うタイプだ。


 一番小さいのに、声は大人っぽいし、仕草はエロっぽい。


 メドは、無口ジト目で繊細可憐な美少女だ。

 アドは、元気系ロリ巨乳のお色気担当。


 そして、この黒の幼女はお姉さん系。

 これでは私と被ってしまう。



「あ、あのぉ~、エンド。あなたって今までの事覚えてるの?」


 さっきの起き抜けの会話で、迷惑が云々って言ってたんだよね。


「覚えているわ。我は昔に、我を取り込もうとした者を喰ったわ。激戦の末に勝利して、そこから現在までの記憶は断片的であやふやだけど……」


 ここでふとメドたちに視線を向ける。


「あなたはメルウ。そしてメルバね? ごめんなさい。我の失態のせいで、二人には長い時間迷惑を掛けたわ」


 真摯な眼差しで、ゆっくりと深く頭を下げるエンド。

 迷惑って言うのは、メドとアドへの今までの仕打ちの事だろう。



「ん。エンドは操られてた? ならいい。アドは?」

「ん~ メド姉ちゃんがいいなら、俺もいい」


 二人は顔を見合わせて何でもないように答える。


「え? メドとアド?」


 そんなんでいいの? それで許しちゃうの?

 今までの恨みつらみとかないの?


 正直私は心中複雑なんだけど。


 二人の今までの扱いと、今回の戦いでもケガさせたし。


『ん~、そうは言っても、本人たちが気にしないならわたしの出る幕じゃないんだよね? それこそ自己満足の類になっちゃうし』


 それに今ので再認識したけど、ドラゴンって種族は意外と細かい事には拘らない。

 長い寿命のせいなのか、元の体に相応しい程の大雑把なのか、その両方か。


 メドが簡単に、私にお屋敷と財宝を譲ってくれたのも、きっとそう言う事なんだろう。損得や後先よりも、種族の頂点としてのあらゆる力を持っている余裕の表れなんだろう。


 なら、種族としての根本的な価値観が違う私は口を挟めない。

 二人がいいなら、それで良しとしよう。



 なので…………


「ほら、エンド。これ履いて? そしたらみんなでお屋敷に帰ろうよ」


 そんな黒い幼女に私は優しく手を差し伸ばすだけだ。

 それにエンドは色々と好みの範疇だし。幼女でお姉なんて珍しいし。



「え? フーナも我を許してくれるの? それとこれは?」


 戸惑いながらも受け取り、渡した物を繁々と眺める。


「うん、メドとアドがそれでいいなら、わたしもいいんだ。で、それはパンツだよ。だってあなた丸裸なんだもん」


 チラチラと艶めかしい全裸のエンドを見ながら優しく微笑む。

 ああ~、癒される。



「い、いや、我はそういう意味で言ったのではないのだけれども…… フーナ、パンツ以外の物はないのかしら?」


「え? ないよ。あの街でそれしか買ってこなかったもん」 


 そう答えて、色とりどりの大量の女児パンツを収納魔法から取り出す。


 むしろ、それを買いに街に行ったんだもん。

 パンツパーティー開催の為に。



「違うフーナさま。フーナさまがそれしか服ないからって買いに来た」

「そうだぞ、フーナ姉ちゃんっ! メド姉ちゃんそう言ってたぞっ!」


 カラフルなパンツたちを見て、ジト目で抗議するメドとアド。


「べ、別にいいでしょっ! パンツだって着れるんだもんっ!」

「ちょ、フーナ、一体何をっ!?」


 私はスポっとエンドの頭にパンツを被せる。

 ついでに首元と、手首足首にはカチューシャのように巻いておく。



「ほら、これなら服には………… 見えないね? やっぱり」


 カラフルで可愛いけど衣服には無理があった。

 平らな胸もお腹も出ちゃってるし。



「フーナ、我になにを着せるのよっ!」

「え?」

「我がエンシェントドラゴンって事を忘れたのかしらっ! ならもう一度勝負してどちらが上かわからせてやるわっ!」


 ガバと立ち上がり、怒りをあらわにするエンド。

 どうやらパンツの衣装が気に入らなく、それが逆鱗に触れたらしい。


 まぁ、実際私も嫌なんだけどね。



「我はドラゴン族最強の誇り高きエンシェントドラゴンっ! さぁフーナ、我に恥辱を与えた事を後悔させて……………… あれ? なんでなのよっ!?」


 パンツまみれで立ち上がり、両手を空にかざしているエンド。

 何故か、その体勢のままプルプルしている。我慢してるのかな?



「…………なに? 今度はおしっ――――」

「あれぇ? ドラゴンの姿に戻れないわっ!」


 何やらフンフンと全身に力を入れてるっぽいけど、ただのガクブルにしか見えない。



「ん、エンドは魔力を大量に失ってる。きっとフーナさまに退治されたものと一緒に抜けて行った。だからだと思う」


「え?」


 見かねたエンドにメドがそう説明してくれた。

 それを聞いて、首だけ動かしてメドを見るエンド。


「そ、それは本当かしら? メルウ」

「ん、ワタシにはそう感じた。白い光と一緒に飛んでいった」

「ううう、何てこと………………」


 メドの話を聞いて落ち込むエンド。

 その説明にも納得できたんだろう。



「なぁ~んだ。ちょっとだけびっくりしちゃったよっ! ENDに戻れないなら、エンドはただの幼女じゃないっ! 焦って損しちゃったよっ!」


 下を向き、肩を落とすエンドの頭をポンポンと叩く。


「うりゃぁっ!」


 グッ

 ブンッ!


「え? ごふぅっ!」


 短い掛け声とともに、私の体が地面に叩きつけられる。

 その衝撃で地面に半径20メートル程の亀裂が走る。


 どうやらエンドが、頭を撫でる私の手を取って投げ飛ばしたようだ。



「痛たたっ! って、全然強いじゃないっ! 嘘つきっ!」


 立ち上がり、エンドを睨みながら文句を言う。


「フーナさま、姿は人間でも中身はドラゴン。元に戻れなくても人間より圧倒的に強い。これでもいつもの100分の1以下だと思う」


「そ、そうなんだ」


 私とエンドのやり取りを見てそう教えてくれるメド。

 っていうか、もう少し早く教えて欲しかった。



「ん~、それじゃ、これ以上ここにいても何もないから、お屋敷に戻ろうよ。エンドもそれでいいでしょ? それか他に行くとこあるの?」


 仕切り直しとばかりに、みんなに振り向き話題を変える。


「わ、我も一緒にいくわ。色々と落ち着きたいし……」

「ん、フーナさまの言う通りにする」

「がうっ! 俺も帰りたいなっ!」


 三者三様の返事を聞いて、私たち幼女4人はお屋敷に戻る事にした。

 新しい仲間になるであろうエンドを迎えて。



 因みにエンドは空は飛べたので、アドだけはメドに抱いてもらっていた。

 私もかなりフライを使えるようになったので、悲しいけど一人で飛んでいく。



『うふふっ! この世界に来てどんどんハーレムが広がっていくよっ! このままいけば友達100人じゃなくて、可愛い幼女100人も夢じゃないねっ!』



 前を飛ぶ、小さなお尻たちを眺めて、煩悩満載な私だった。

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