スライム討伐編

第31話女神のメルウちゃん




「グヘヘヘヘヘ~~、ジュルッ!」


 女神のような光の抜け殻が昇天した後。

 白ENDの代わりに、黒髪の幼女が横たわっていた。


 私は全てのマジックドームを解いて、そっとホバーで地面に降ろす。



「な、何だかわからないけど、いいよね? これきっとご褒美だよねっ!」


 憎き敵だった筈の白END。

 元々はエンシェントドラゴン。


 なのに今は私の目の前で、すっぽんぽんで意識を失っている。


 その目の前の幼女に、不思議と嫌な感じはしない。

 まるでさっきの光の女神と一緒に、嫌なものも昇天したみたいだ。



 小さな手足や体躯は、私やメドたちよりも小さい。

 もちろん、そこに女性としての膨らみなど皆無だ。


「ぐふっ!」


 一番その体型に近いのは私かもしれない。

 メドは少しだけ出てるし、アドは反則的な爆乳。


 まぁ、私はあってもなくてもどっちでもいいんだけど……



「じゅるり……」


 萌え袖で口元を拭い、まずその容姿を眺めてみる。



 長髪のボサボサした黒髪に、長く黒いまつ毛。

 若干釣り目がちな瞳と、薄く細い唇。


 真っ白なメドとは違い、こんがり焼けた健康的な素肌。

 まるで夏休みに真っ黒に日焼けした子供みたいだ。


 その姿は白ENDの姿の時とは正反対だった。



「よし、それではご褒美を頂こうかっ!」


 観察は終わったとばかりにその黒い幼女に手を伸ばす。


「うへへへ~~っ!」


 何がなんだかわからないけど、いただきます。


 ぐぐっ


「んんっ!? 引っ掛かって脱げない~っ!」


 帽子を脱いでコートに手を掛けるが、途中で引っ掛かって頭が出てこない。

 相変わらず、この無駄に大きな衣装のせいで苦労する。



 ん?


 何で服を脱ぐのかって?


「むががっ! そ、そんなに決まってるじゃないっ! 相手が裸ならそれに合わせるのが礼儀ってもんだよっ! むぐぐぅ~っ!」


 今更ながら前ボタンを外せば良かったと後悔する。

 焦って頭から脱ごうとした己の行為に。


「むふ~っ! もういい加減にっ!」


 それでもジタバタと服を脱ぐために努力する。



『フーナお姉さん、さっきから何やってるの?』

「へ?」


 脳内に、見知った声が響き渡る。


「メ、メルウちゃんっ?」

『そうなの。さっきは途中で電波が途切れてゴメンなの』


 肯定の返答と同時に、謝るメルウちゃん。

 その際に、このテレパシーって電波なんだと気付く。



「むぐぐ、メルウちゃんさっきはどうして? それに今は何で話せるの?」

『うん…… フーナお姉さんがエンドを倒したから通信が出来るようになったの』

「や、やっぱりENDは倒したんだっ! じゃ、この黒い幼女は?」


 どうやらあれで倒したって事で間違いないようだった。

 なので、この幼女の正体についても聞いてみる。



『それもエンシェントドラゴンなの。元々の姿の』

「え? 元々……」


 メルウちゃんの発言に驚き、オウム返しで聞き返す。


『そう、それが元々の姿なの……。今までのエンドは、言ってみれば乗り移られた偽物の姿なの。昔に追放された女神たちの力が宿った……』


「えっ!? 女神の力が宿ったぁっ!!」


 衣装を頭に被りながら絶叫を上げる。


 確かにあのENDは黒や白に色が変わったり、手足が巨大になったり、それと私の魔法の効き目が薄かった。


 きっとその理由が、今メルウちゃんが言った内容が根本の原因なんだろう。

 女神が宿ってるって事で、私の魔法がある程度相殺されていたのだろう。



「な、なんでそんな事になったのっ!?」

『それはまだ話せないの。もう少し手伝って欲しいの……。そしたらきっと』


 それきりメルウちゃんが黙り込む。


 通信は繋がっている。

 けど、長い沈黙と静寂が私とメルウちゃんの距離を離す。

 心の距離が今まで以上に遠く感じる。



 それでも私は――――



「あまり気にしないでいいよ、メルウちゃん。わたしを生き返らせてくれたのもメルウちゃんなんだからね。何だかんだ感謝してるし、メドたちとも会えたし。だから話せる時になったら、その時は教えてね?」


 そう優しく慰めるように声を掛ける。


 見えないけど、だってメルウちゃんの……


『ぐす、あ、ありがとうなの、フーナお姉さん…… あたちは…… ううう、』


 その泣き顔が思い浮かぶから。

 小さい体で涙を堪えようと、必死なのが伝わったから。


 だから私はメルウちゃんを受け入れる。


 だって私は世の幼女たちの味方だから。



※※




「それで1個目の女神の願いは達成でいいんだよね?」

『うんなのっ! フーナお姉さんは凄いのっ!』


 メルウちゃんはさっきの涙を振り払うように元気に返答する。

 うん、まるで可愛い笑顔が浮かぶようだね。やっぱ幼女はこうだよね。



「それで次は何するの?」

『うん、次も討伐系なの。もう予習してあたちのお姉さんに聞いておいたの』

「討伐って? またおっかない奴?」

『違うの。次はスライムなの?』

「へ? スライム? ってあのねばねばした奴?」


 某有名ゲームの固形ではなく、きっとゼリー状の方だろう。


『? きっとそうなの。最強生物から最弱生物なの』

「え? あ、うん、そう言えばそのギャップが凄いね?」


 エンシェントドラゴンから、次はスライム退治って……

 でもある意味最強って言われる所以もあったような……



「それで、そのスライムさんって、何処にいるの?」


((フーナさま~っ!))

((フーナ姉ちゃんっ!!))


 追加情報をもらおうとしたところに、後ろから名前を呼ばれる。


「えっ?」


 その聞き覚えのある、声の正体は――――


「メドとアドっ! 無事だったんだねっ! ……ごめんメルウちゃん、後で連絡するね」

『わかったなの』


 後ろを振り向き、愛しの幼女二人に返事をする。

 メルウちゃんにも小声で謝りながら。


「んん?」


 だけど、暗闇が見えるだけで、可愛い二人の姿が見えない。


「ふむむ~っ!」


 だってそれはそうだろう。



「フーナさま、なんでお尻丸出し? それとその子供は?」

「わははっ! フーナ姉ちゃん、なんだよっ! そのお尻の痣はっ!」


「っ!!!」


 ずっと服が脱げないままメルウちゃんと話していたのだから。



「むぐっ! メドとアド、脱がすの手伝、じゃなく着るの手伝ってよお~っ!」



 そうして、無事なメドとアドと合流できたのだった。


 後はこの黒い幼女の処遇をどうするか、だよね。

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