第33話フーナの煩悩と謎の存在




「ここが、フーナとメドたちが住む屋敷なのね? 随分とそれ以外が荒れてるけど、何かあったの? 植木も花壇も台無しじゃないの」


 着いて早々、開口一番口を開いたのはパンツだけを履いた、黒い少女のエンドだった。


 そのエンドとの戦いも終わり、今はみんなでお屋敷に帰ってきたところだ。

 これで一応、女神の願いの一つは叶えた事になる。



「うん、つい最近、他のドラゴンに襲われてね、それでその戦いに巻き込まれちゃったんだよ。お屋敷は魔法で覆えたけど、お庭は守れなかったんだ」


 パンツ一丁でお屋敷を眺めるエンドに説明する。


 ってか、ENDの時の記憶ないの? 

 これ壊したのアドだよ? ENDの仲間だったじゃん。



「そうなのね、なら我は、この庭園を少しづつ治す事にするわ。タダでフーナたちの世話になるのも気が引けるし、色々と迷惑もかけてたから」


 髪を梳かす仕草のまま振り向き、提案するエンド。

 その辺りの事情はメドが許してたはずだけど、やはり気にかかるのだろう。


 なら、気のすむままにエンドにやらせてみよう。

 それで罪悪感が少しでも薄れるなら私も嬉しいし。



「うん、ならエンドはお庭係だねっ! きれいなお花とか植木とかお願いねっ!」

「我に任せなさい」


「で、メドはお金の管理をして欲しいから、お財布係ねっ!」

「ん、わかった。フーナさま」


「で、最後のアドは、…………」

「がうっ!」


 チラと、メドと手を繋いでいる、元気っ娘ロリ巨乳ドラゴンのアドを見る。


「がうっ?」


 プルルンッ


『じゅるる…………』


 じゃなくて、アドって私の事嫌いじゃなかった?

 いつも威嚇されてたし、噛みつかれたし。



「がう、どうしたんだ? フーナ姉ちゃん」


 そんなアドは、私に見られて不思議そうに小首を傾げている。



「ん、何でもないよ~。それじゃアドはエンドと一緒にお庭の係ねっ! ただ植物だけじゃなく、花壇とか噴水とかテラスとかを作って欲しいんだっ! できる?」


「がうっ! 俺に任せてくれっ! フーナ姉ちゃんっ!」


 そんなアドは、快活に返事をしてドンと胸を叩く。 


 プルルンッ!

 プルルンッ!


 その際に、アドのたわわなものが生き物の様に揺れ動くが、私はなるべく見ない事にした。


 だって、理由はわからないけどせっかく仲良くなれそうなんだもん。

 煩悩満載な目で見てたのがバレたら、また嫌われそうだからね。



「それじゃ、お屋敷に入ろうか? エンドの服もそうだけど、お屋敷も案内したいからね」


 2階建ての洋風のバルコニー付きの大きな屋敷に目を向ける。


 アドとの戦いで、お屋敷以外はメチャクチャだけど、これはこれから直していけばいい。

 土地は多少凸凹だけど、それは整地すればいいし、アドたちに任せよう。



 そうして、私、メド、アド、エンドの4幼女は、これから共同で住むことになるであろう、拠点となるお屋敷に帰ってきた。



『あ、そう言えば、まだ私の係を決めてなかったよ』


 メドはお財布、アドとエンドはお庭。


 なら、私は……


 チラ


 戦いで汚れたみんなの後ろ姿を見る。


『ぐふふふふっ――――』


 これはもう決まってるよねっ!

 キレイキレイしなきゃだよねっ!


 小さい体も、汚れた下着もきれいにするんだっ!


 だから私は、お風呂兼、お洗濯係、一択だよ。





 2階に続く、両脇の螺旋階段の上には、未だにENDだったドラゴン状態の絵画が飾ってある。

 これをメドに送った時には、もう女神の力に操られてたんだろう。


 中央通路の踏み心地のいい、柔らかな真紅の絨毯を歩いてロビーを抜けると、その先はこのお屋敷の大広間になっている。


 中は落ち着いた色合いのチェストや、その上に飾られた、凝った形の置き時計。

 きれいな花を飾った花瓶や、何かを模した彫像などがあり、いずれも高級そうな調度品が陳列していた。

 

 部屋の中央には、真っ白なクロスで覆った長テーブルが伸びており、その先にはレンガ造りの大きな暖炉があった。部屋の両脇には大きな窓が備えてあり、差し込む陽の光だけで部屋の中は明るかった。


 ここの部屋だけでも、私の元世界のアパートの10倍ぐらいある。

 って、言っても1LDKだったけどね。



「ふぃ~、やっと帰ってきたね。あ、この紅茶美味しいねっ! ふぅ~」


 私は椅子に座り、湯気の立つ紅茶で喉を潤し、一息吐き出す。

 

『はぁ~!』


 ああ~! 生き返る~。

 街に買い物に行っただけなのに、色々巻き込まれて疲れちゃったよ。


 まぁでも、買い物もできたし、アドとも仲が近付いたし、エンドも仲間になったから損得で言えば、圧倒的に私のプラスだ。

 しかも女神の願いの一つも叶えたし。



「ん」

「がう」

「ふぅ」


 寛ぐ私を見て、右隣にはメドが、その隣にはアド。左隣にはエンドが座った。

 そして私と同じように、温かい紅茶に口を付け一息ついている。


 何だかんだ、中身がドラゴンでも疲れちゃったよね。


 

「ん、フーナさま。エンドの服用意する。裸じゃ可哀想」

「え? あ、そうだね」


 目を瞑って、さっきまでの出来事を回想していると、メドが立ち上がり声を掛けてくる。 

 その隣にはエンドが並んでいる。どこかで着替えるんだなと思う。



「あ、でもちょっと待ってっ! エンド、そのまま腕を頭の後ろに回してみてっ!」


 立ち去り際の後ろ姿のエンドを呼び止めて、そんなお願いをする。



「? うん、わかったわ。これでいいのかしら?」


 エンドは小首を傾げながら、お願いの通り、手を頭の後ろに回しながら振り返る。



『ぶふぅ~~~~っ!!!!』

「?」


 い、いいねぇ~っ! いいよぉ~! エロ可愛いねっ!

 女児パンツ一張で、振り向きポーズを決める日焼け幼女っ!


 こんがりと焼けた黒い肌に、白のパンツが映えるっ!

 


「はぁ、はぁ、はぁ~」

「?」


 これは今のうちに目に焼き付けておかないと、死んでも死にきれないよっ!

 って、言っても一度死んでるんだけどねっ!



「つ、次は、胸を隠した仕草で、上目遣いで、はぁ、はぁ――――」

「ん、風邪ひくから、もう行く」

「そう? よろしくね、メルウ」


 メドは相変わらずの無表情のまま、エンドの手を引いて部屋を出て行ってしまう。

 私はまだ脳内に焼き付けていないのに。



「えっ!? あ、ちょっと――――」

「がう、フーナ姉ちゃん、どうしたんだ? モグモグ」

「あ、アド、何でもないよ。気にしないで…… って、何食べてるの?」


 血走った目の私に声を掛けたアドは、気付いたらモグモグしていた。

 それって、ケーキだよね?



「がう、甘くて美味しいぞっ! 人間はいつもこんな美味しいの食べてるのか?」

「う、うん。いつもじゃないと思うけど、それ、いつからあったの?」


 満面の笑みでケーキを頬張るアド。


「がう? フーナ姉ちゃんがメド姉ちゃんと話してる時にはあったぞ。モグモグ」

「え? そうだっけ?」

「うんっ!」

「………………」


 アドは特に気にした風もなく、高級そうな丸皿の上のケーキを続けて口に運ぶ。



『え? アドはそう言うけど、だって――――』



 さっきまではなかったよ?

 何かおかしくない?



 そもそもこの部屋に入って来た時には、既に湯気の立つ紅茶が用意してあった。

 今も切り分けたケーキが、各席の前にナフキン付きで、準備してある。



『そ、そう言えば、これって、今思い起こすと――――』


 他にもおかしな事があった。



 アドを迎えた、初めての朝も朝食が用意してあった。

 しかも食後のお茶までついてきた。

 あの時は、何も気にしないで食べちゃったけど……



『そもそも、このお屋敷って、一体誰が管理………… えっ?』


 私は目の前の光景に目を見張り、思考を止める。


「な、な、な、…………」


 そして声にならない呻き声を上げる。


 更に――――



「なんじゃ、こりゃ~~~~っ!! なんでさっ!」



 更に我を忘れて、辺り構わず絶叫を上げる。

 何がどうなっているのか理解できない、追いつかない。

 

 だって……


「え? え、え、なんで?――――」



 だって、私の目の前には、

 空だったはずのティーカップに、湯気の立つ紅茶が注いであったからだ。



 それはこの屋敷に、私たち以外の何者かがいる事を示していた。


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