第26話楓奈 vs ENDの戦い 



 『グウオォォォォッ――――ッッッ!!!!』



「い、急がなくちゃっ!」


 そんな言葉と心とは裏腹に、牛歩の様に空に浮いていく。

 頭上で旋回している巨大な黒いドラゴンENDに向かって。



 『グウオォォォォッ――――ッッッ!!!!』



 そうこうしている内に、また地面に向けて咆哮する。

 だがそれは、地面というよりはメドとアドに向けられているようだ。


 その先にはメドがアドを抱いて固まっているからだ。

 そして咆哮するENDから目が離せないでいた。


「メド、それにアドも……」


 抱き合いながらも小さな体が小刻みに震えてるとわかる。

 視線もENDを映しているようで、どこか虚ろな瞳になっている。

 恐らく目に映るものが、現実だと思いたくはないんだろう。


「こ、このままだと二人が怖くて、どうにかなっちゃいそうだよっ!」


 もしかしたらお漏らししちゃうかもしれない。

 恐怖でちょっとだけ出ちゃうかもしれない。


「………………そ、それは、そんな事、わたしは――――」


 許すことは出来ない。


 もちろん嫌いではないが、それは状況にもよる。


『そう言えば、あの時はお漏らししちゃったねっ! 二人ともぉ!』


『む。フーナさま意地悪。くふふ』

『フ、フーナ姉ちゃんそれは言わない約束だろっ! あははっ!』


 なんて後からの笑い話になればいい。


「でも今回は違う。きっと後からそんな話をしたら、二人はまた怖い事思い出しちゃうかもしれない。だから早くENDを倒して二人を安心させるんだっ」



 『グウオォォォォッ――――ッッッ!!!!』



「う、うるさいっ!」


 『早くオレの元に来いっ!』て

 ENDがメアドの二人に言ってる気がする。


 いや実際はそう言ってるんだろう。

 仕切りに同じ方向に鳴き声を上げてるんだから。


「も、もうダメだっ! これ以上怖い思いさせたくない」


 私は覚悟を決めてもう少し急ぐことを決意する。

 着くのを待ってたんじゃ、メアドも街の人もどうにかなってしまう。


「よ、よし、行くよっ! 『ふらぁ―いっ!!』」


 乗っている杖を両手で強く握り力を込めてそう叫ぶ。


 途端


 ビュンッ――!


「わっ!!」


 ドゴオォ――――ンッ!!!!


 『ウゴオォッ!!』


 勢いあまってENDの巨大なお腹に激突してしまった。

 やはり制御ができなかったようだ。


「そ、それでもいいやっ! 『ふらいっ!』」


 私はお腹にめり込んだままフライを唱える。


 ギュンッ!!


『ッ!? ウゴゴゴゴォォォ――――ッ!!!!』


 そしてそのままENDを連れて行く。


 どのみち話し合いをするにも、もし戦闘になった場合でも

 街がもっと混乱するし、危険が及ぶ可能性が高いからだ。


「それにこれ以上メアドの二人に怖い思いさせたくないから」





「よしっ! ここまでくれば。ってあれ?」


 私はお腹に埋もれながら地面に視線を向ける。


「ここならこれ以上何があっても大丈夫だよねっ!」


 適当に街から離れたつもりが都合のいい場所に来たのでホッとした。



『もうここで満足か? ならさっさと離れるがいい』


 ビタ


「えっ? しゃべれる!?」


 ペチンッ


「ぎゃぁっ!?」


 無理やりにフライの進行を止められ、尚かつ指先を器用に使い

 お腹の私を巨大な指で強く弾き飛ばす。


 ビュンッ!


 ズドォォォ――ンッ!!!!


「うぎゃっ!!」


 そしてそのまま私は地面にめり込んで停止する。


『さすがに一撃で死んだか。メルウと一緒にいるから、どんな強者かと思えばそこまで警戒する必要もなかったか。せいぜい飛行魔法が得意な人間だったか』


 「フン」とつまらなさげにそう吐き捨て

 巨大な黒い翼を羽ばたかせてクルリと振り返り街へ向かう。



「『まじっくうぉーる』」


 ガンッ


『なっ!? これほど巨大な壁を一瞬でだとっ!?』


 ENDは自身を遮る壁にぶつかり、すぐさまその状況を把握し、

 驚愕したまま後ろを振り向く。


「いったいどこに行くのっ! ここからは逃がさないからねっ! メドもアドもあんたの事キライみたいだからここでわたしが倒すからっ!」


 私は地上から杖を突きつけENDに啖呵を切る。


『はんっ。まだ生きていたとは。人間にしてはしぶとい奴だ。Aランク相当の頑強さではないのか? まぁ我が本気を出せば粉々になるがな』


 首ごと体を振り向き、鋭い視線と圧倒的な威圧を全身から放つ。


「ううっ」


 こんなもの戦わなくても分かる。

 メドやアドとは違う存在のドラゴンだと。

 今までとは次元の違う存在なんだと。


『ううっ! こ、怖いっ! なんでかおっかないっ! メドたちと同じように、震えが止まらない。目の前の存在が信じられないよ……現実味がないよっ!』


 両手の長い袖のまま自身の体を抱きしめる。

 アイツを前にしてなんの温もりもない事が不安になる。

 なので必然的に自分の体を抱きしめる。ブルブルと震えるその体を。


「あれ?」


 私は違和感を感じて、体中をサワサワしてみる。

 ついでに私の周りの状況を確認する。


 今私がいるのは、最初にメドと戦ったところの近く。

 森を焼いて、焼け野原と化してしまった、元山の中。


 そう。

 ドラゴン姿のメドが元々住んでいたところだ。



『どうした辺りを見渡して。あそこまで我を挑発しておきながら怖気づいたか。ならさっさと魔法を解除しろ。そうすれば見逃してやる。矮小な人間をいたぶる趣味もないのでな』


 石ころでも見るような、そんなどうでもいい目をしている。

 感情も何も感じられない。そんな目だ。


「あ、あの、ここって何処だか知ってる? 随分と変わっちゃったけど。それとあなたにとってメドとアドはどんな仲間なの?」


 話が通じると判断してそう聞いてみる。

 これは大事な事だから。


『メドとはメルウの事か。ならアイツは我の子孫を残す為の選ばれた存在だ。それとメルバはただの小間使いだ。それ以外に存在する価値もない弱いドラゴンだ』


「そ、それじゃここは何処なの答えてないよねっ!」

『ここだと? ただの荒れた土地ではないか』


 ギョロと周りを見渡しつまらなさそうに答える。


「あ、あっちの方のお屋敷は? メドが住んでたところは覚えてるの?」


『ああ、それぐらいは覚えている。適当に屋敷を与えて置けばその気になるからな。我の言う事もすんなりと聞き入れるだろうからな』


「そ、それじゃ最後に聞いていい? メドを好きとかじゃないの? 自分の子供産ませたいんでしょう? 幸せにしたいんでしょっ!」


『スキ・シアワセ、とな? そんな感情が何になる。我らには必要ない。そんなものでアイツが抵抗するなら、その意志ごと砕いてやる。心を折ってやる。それで万事丸く収まる。それに文句があるのか?』


 「ギン」と最後の質問と同時に

 射殺しそうな視線を私に浴びせてくる。



「ふぅ。良かったお前が悪い奴で」

『は? 何を言ってるんだ。お前は』


 私は溜息と同時に、抱いていた腕を解いて胸を張る。

 違和感が確信に変わったから、もう自分を抱く必要がない。


 だって、最初から私は怖くなかった。

 体が震えてるのは錯覚だった。

 だから私はなんの温もりも必要ない。 

 コイツに立ち向かえる強い意志があるから。


 私は「スゥ~」と息を吸い込む。


「だって、お前がメドを大事にしてたらボコボコに出来ないじゃないのっ! メドの元の家もメドの気持ちもメドも大事にしないなら、お前はメドにもアドにも要らない存在だっ! だからわたしが退治してやるから覚悟しろ黒トカゲ野郎っ!!」


 そして二度目の啖呵と挑発をENDに向けて放ったのであった。


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