第19話メルウちゃんは関係なかった…
「そ~~と、そ~~とだよぉ、わたし~」
私は今空に向かい浮上している。
そしてあの時と同じぐらい集中しているかも。
「そ、そう、焦んなくていいから、ゆっくり行こうよぉ~~」
こんなに集中したのはこの世界で人間姿の横たわるメドを見た時。
そしてお風呂上がりのメドをマジマジと見た時。
ノースリーブのメドのパジャマの隙間を横目で見た時。
そしてアドの先端を凝視した時。
私は今それぐらい集中している。
だって集中が切れると何処に飛ぶか分からないもん。
なので私は亀の歩みで上昇を続けている。
「あれ?一回浮いちゃうとそれほどでも……」
それでも分かったことがある。
一度浮くと、それほど集中しなくても大丈夫な事だった。
なので私は余裕が出来て、周りを見渡してみる。
高度は大体100メートルくらいだろうか。
「この世界は広くて暖かくてきれいだねっ!なんだか空気も美味しく感じるね」
周りを見れば深い緑の自然が一面に広がり、
見上げれば真っ青な空がどこまでも続いている。
遠くに並ぶ古そうな建屋も、小洒落た古民家に見えてくる。
私が元住んでいた、喧騒やコンクリートに囲まれた街とは大違いだ。
「あ、海だっ!」
左を見ると遠くに空とは違った深い青の景色が広がって見える。
「海と言えばやっぱり水着だよねっ!街に行けば売ってるかな?水着!」
メドはやっぱり白スクで決まり。
アドは競泳?いや、意外と元気っ子はビキニかな?
それに良いもの持ってるし。
「でもメドは白ワンピも似合いそうかな?可愛い胸に合うし、いや、やっぱり白ビキニ?それだとあらぬ隙間が出来ちゃったりして、ぐふふふ」
なんて妄想しながらノロノロと空を進んで行く。
多分時速5キロ。亀よりははるかに速い。
「あ、街が見えたっ!」
景色を楽しんでいるうちに、視界の先に大きな街並みが見える。
このまま街の中に降りたいけど、飛行魔法は珍しいって勇者一行の女の人が言ってたから手前で降りて歩いて行こう。何か聞かれても面倒だしね。
「お、あそこがいいねっ!」
私は眼下の街の門の数キロ先に小さな森を見付ける。
門の前には長い大きな道があるけど、目立ちそうだし諦めよう。
「ううう、浮くよりも降りる方が緊張するね……」
浮く分にはかなりの距離の猶予があったけど、
ただ降りる時は数十メートルしか余裕がない。
地面に潜れれば別だけど。
「ここも集中して、ゆっくり、ゆっくり降りようね――――」
私は杖に乗りながら慎重に高度を下げていく。
スゥ――
「だ、大丈夫、良い感じっ、でも落ちてもケガしなさそうだよね」
私の体はもちろん、着ている衣装も杖もメルウちゃん特製のもの。
このまま地面に叩きつけられてもきっと大丈夫。
何なら飛び降りてもOKなくらいだ。
「………………いいや、それは無理だよ」
いくら頑丈だからって、いくらケガしないって言っても、
ビルの上から落ちたい人なんていないだろう。
理屈的には問題なくても、感情がそれを否定する。
恐いから落ちたくないよって。
なので私は浮く時よりも、降りる事に時間をかける。
スゥ――――――――
「い、いい感じっ!で、でもこういう時って大体邪魔が入るんだよねっ」
例えば、
メルウちゃんとか、メルウちゃんとか、メルウちゃんとか。
なので私はいつメルウちゃんに声を掛けられてもいいように、地面を見ながら魔法の制御と意識を脳内に集中する。これでいつ来ても慌てることなく対処できる。はず。
『グゥアッ!!』『グゥアッ!!』
『グゥアッ!!』『グゥアッ!!』
ほらね?
早速メルウちゃんが来たよ。
しかも訳わかんない雄たけびを上げちゃってさ。
余程私の気を引くのに必死なのかな?
『でも、もう少しじらそうかな?少しは私の立場を上に向けないとね。なんでもハイハイ出ちゃダメだよね?それにしてもメルウちゃんは――――』
きっとご飯を食べ終わって話し相手が欲しいんだよね。
そして私に飽きると直ぐお昼寝タイムに入るんだよね。
「それだけの為にわたし呼ばれるんだね?毎回……」
ガッ!
「へ?」
ヒュ―ンッ!
「お、おおおっ!何だか分かんないけどもの凄く早く飛んでる!」
突然周りの景色が流れるように変わって行く。
そして下を見ると街の入口の上空まで来ている。
「ちょ、ちょっと待って街を通り過ぎちゃうよぉっ!?」
『グゥアッ!!』
「ん?なんか帽子が引っ張られてる?」
私はグイと首を上げ、真上を見てみる。
するとそこには、
『グゥアッ!!』『グゥアッ!!』
『グゥアッ!!』『グゥアッ!!』
と真上に1匹と、その周りに3匹の大きな鳥がいた。
「うぴゃぁっ!!」
な、何、なんなのっ?
どういう状況なのっ!?
私はもう一度見上げてみる。
「あああっ!」
どうやら真上の1匹に前足で帽子を掴まれているようだった。
『グゥアッ!!』『グゥアッ!!』
『グゥアッ!!』『グゥアッ!!』
「ヤ、ヤバいっ!絶対巣に持ち込んでわたしを食べる気だっ!」
わたしは「えいえいっ!」と杖を振るが相手が巨大すぎてどうにも届かない。
それにしても、何で杖を握ってたんだろう?さっきまで乗ってたよね?
なんて考える暇なんてない。
このままでは、エサになるどころか、
何も知らない世界でメドたちともはぐれてしまう。
「よ、よしこうなったらっ!『ふぁいあーうぇあー』」
私は火を自身に纏う魔法を唱える。
これなら熱くて鳥さんも前足を離すだろうと。
ぶぅわっ!
『ア、アギャァッ!?』
ぱっ
「よ、よし珍しくうまくいったっ!!」
『グゥアッ!!』『グゥアッ!!』
『グゥアッ!!』『グゥアッ!!』
バササッバササッバササッバササッ
「みんな飛んで行ったね!良かったよっ!」
私は落下に身を任せながら、鳥さんが逃げていくのをみて安心する。
それにしても、私を食べようだなんて許せない奴だ。
私を食べていいのはメドだけなのに。
そしてメドを食べるのは私だけなのに。
もう少しで傷物にされるところだったよ。
「今度会ったら少しお仕置きが必要だねっ!」
私は遠くに飛び立つ鳥の魔物を見て、そう熱く心に決めるのだった。
文字通りその身を燃やしながら。
「あっ!?わたし飛んでないっ!!」
ヒュ――――――――ン
「と、止まれないぃぃぃぃ――――っっっっ!!!!」
ドガァァ――――――ンッッッッ!!!!
「あぎゃぁっ!!」
そしてそのまま何処かの屋根を突き破り
無事?メドたちがいるであろう、
街の中に到着するのであった。
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