第18話街へ行こうっ!



 この世界に来て初めての朝。



 私は大きなベッドの隅っこで膝を抱えて寝ていた。


『う~ん、ムニャムニャ、メドぉ――――』


 う~ん、あれ?でもよく考えたら来たのって朝方だったような?

 薄暗かったし。

 だったら初めての朝じゃなかったのかも……でも、


 まぁ、いいや。


 そんな事よりも私は今、やっとメドと結ばれ……


『グフフ、ムニャムニャ、メドぉっ、そ、それは私のっお――』


「がう――っ!!」


 ガバッ!


「うひゃっ!!な、何っ!何で獣の叫び声がっ!!」


 私は耳元での突然の咆哮に、勢いよく起き上がる。


「おはよう。フーナさま」

「へっ?あ、メドわたしのお――――」

「がぶっ!」

「あっ痛ぁっ!!」

「こら、アド。朝ごはんはまだ」

「わかった。メド姉ちゃん」

「ふぅーふぅー、痛たたっ」



 そんなこんなで、この世界に来て、

 記念すべき初めての朝の目覚めは騒がしいものとなった。


 でもいい意味でだよ?物凄く。


 こんな美幼女たちに起こされる事なんて、現実ではなかったからねっ!

 私は幸せだよっ!! もう死んでもいいよぉ!



 あ、そう言えば一度死んでるんだった。




※※※




 そんな自虐ネタはさておき、私たち3人は1階の食堂に移動した。


 そこで誰が作ってるか分からない謎の料理を食べ終えて、今は食後のお茶を啜りながら、これからの事を話しあっている最中だ。


 

「ユーアさま。なぜ裸で寝ていたの?」


 メドが持っていたカップを置きながら私に目を向ける。


 何故って、それはすぐ脱ぐから必要なかったんだよ。

 メドも私もね!


 なんてことは言えないので、


「わたしこれしか服持ってないんだもん」


 と袖の長い腕をぷらんと上げる。


 相変わらずプラプラしている。

 両腕を結べるくらいに。



「だったら今日は街に行く。そしてフーナさまとアドの服を買う」

「へ? で、でもわたしお金持ってないよ!」


 そう。私は今無一文。


 そもそも死んじゃって、メルウちゃんと会った時は幼女で素っ裸だったし、今着ているメルウちゃん特製装備の下も素っ裸。よく考えたらパンツも履いてなかった。


 そこには夢も希望もお金もなかった。

 ついでにおっぱいもなかった。

 返して欲しい。利子付けて。



「ん、それは心配ない。ワタシ持ってるから」


 そう言い、メドは腰のポーチから布袋を出す。

 「ジャラリ」と何やら重そうな音がした。


「え、いいのメド?」

「ん、構わない。フーナさまはワタシのご主人さま」


 おおっ!!


 美幼女に養ってもらう幼女。いいねっ!!


 「なんならお金は体で支払うよっ!!」

 それならもっとWINWINな関係になれるよねっ!!

 良いアイディアだねっ!

 その方がお互い幸せだよねっ!!



「それは却下」


 といつものジト目で私を見るメド。


「や、やだなぁっ!冗談だよぉ!それじゃよろしくねメドっ!」

「ん」


 そんな訳で、食事が終わった後は初めての街に行くことに決まった。


『あれ、メドって私の心が読めるの?主従関係ってそういうもんなの?』


 なんて気になりながらも、私たちは屋敷の外に移動した。




※※※



「それじゃ乗って。フーナさま」

「な、何でっ!?」


 メドはナンパ男よろしく、地面からちょっと浮き親指を出して「クイ」と後ろを指差す。因みにアドは先に乗( メド )車していた。


「ちょっとメド、来るときはお姫さま抱っこだったよね?な、なんで今度は背中に乗るのぉ!そしてアドは何で乗ってるのぉっ!?」


 幼女の背中に幼女二人が乗るっておかしくない?

 そんなんで街に行ったらちょっとした事件だよっ。


「ん、だってアドは人間の姿でまだ飛べない」

「へっ? そ、そうなのアド?」

「がるるっ!!」

「うわっ!」


「だからワタシの背中に座る。これなら二人乗れるから」


 と、また親指で「クイ」と背中を指差す。

 今度は首も一緒だった。


「な、何でアドは人の姿じゃ飛べないの?」

「ん、多分滅多に人間の姿にならなかったから慣れてないだけ」

「へ?ならメドは?」

「ワタシは頻繁になってた。お屋敷もあったし」

「あ、ああそうなんだねっ!」


 う~ん、なら仕方ないのかな?

 私一人じゃ飛べない気もするし。


「そ、それじゃメド失礼するねっ」


 私はオドオドしながらメドの背中に手を伸ばす。

 だってアドを刺激したらガブッってやられそうだもん。


『そ~~~~っとだよ。そ~~~~っとね』


「ガブッ!!」


「あ、痛たぁっ!!」


 ほらねっ!


「うう、ちょっと待っててメド。わたし飛べるかどうか練習するから」

「ん、わかった。フーナさまなら大丈夫」

「あ、ありがとうメドっ。よしっ!」


 私はメドに応援されて気合をいれ…………ちゃダメだ。

 きっと宇宙まで飛んでいく。多分だけど。



『ひっひっふぅ~~ひっひっふぅ~~~~』


 私は下を向き、何処かで覚えた深呼吸をする。

 心を落ち着かせるために。


『ひっひっふぅ~~ひっひっふぅ~~~~』

『それラマーズ式なの。妊婦さんがやる呼吸法なの』


「はっ!な、何っ!?メルウちゃん?」


 私は脳内に聞こえた甲高い声にびっくりする。


『おはようなの。フーナお姉さん』

「お、おはようっ!どうしたのメルウちゃん?」


 ドキドキ


『あちし、只のひまつぶ……じゃなくてフーナお姉さんの近況を聞きに来たの』

「う、うん」


 今「暇つぶし」って言おうとしてなかった?


『それで今日はどうするの?エンド探しに行くの?』

「へっ? きょ、今日は行かないよっ!それよりも行くとこあるもんっ!」

『そうなの?女神の願いより大事なの?』

「い、今はそうなの。だから心配しないで、後できっと行くからっ!」

『ふ~んなの。それで何処に行くの?一人で』

「街に買い出しに行くんだよっ。だってわたし着替えもないし……一人?」


 ??


 最後にメルウちゃん「一人」って言ってたよね?


 もしかして?


 私はゆっくりと顔を上げる。


 大きなお屋敷が見える。

 私とメドの愛の住処だ。


 綺麗だった色とりどりの庭のお花たちは……

 昨日のアドの戦いで無残な事に。


 あれ?メドとアドは?


『さっき、南の方に飛んで行ったの。背中に幼女乗せて』

「へっ?な、なんで先に行っちゃったのぉ!?」


 な、なんで?なんで?


『あちしはご飯ができそう……じゃないの。大丈夫そうだからもう行くの』

「な、メルウちゃんもっ!?」


 チーン


『あ、温め終わった……じゃなくてまた来るのフーナお姉さん』


「へあっ!? ちょっとメルウちゃん最後の『チーン』て何?温め終わったって何を?その空間に電子レンジなんかあるのぉ!?」


『――――――――』


 私はメルウちゃんに色々叫ぶが、無情にもご飯を食べに行ってしまったようだ。


「あっ」


 ポフっと両手を叩く。


 そしてさっきのメルウちゃんとの会話を思い出す。



 『へっ? きょ、今日は行かないよっ!それよりも行くとこあるもんっ!』

 『い、今はそうなの。だから心配しないで、後できっと行くからっ!』



『……絶対にここだけ聞いて勘違いしたよね、?メドは……』


 私は一人空を見上げる。

 そこには雲一つない青空が広がっていた。


「ああ、いい天気だなっ!こんな日は買い物日和だよっ!」


 私は一人そう叫んで杖の上に跨る。

 魔法使いが飛ぶと言ったら鉄板の杖だろうと。


 練習何てもう言ってられない。

 メドたちを追いかけないと私は独りぼっちだ。


 幸い街の場所はメドに抱っこしてもらい、お屋敷にきた時に見ている。

 ここから南の方だ。メルウちゃんもそう言ってたし。


 だったら


「ふ、『ふらい』」


 私は小声で飛空魔法を唱える。


 スゥ―――――


「おおっ!やったぁっ!空に向かってゆっくり浮いていくよっ!」


 私は杖に跨ったまま空中に浮かんでいく。

 これで思い通りに操作ができれば完璧に飛べるはず。


「って、あれ?前が真っ暗だよっ!?何も見えないよぉ!」


 そりゃそうだろう。


「あれれっ!?ちょっとこれわたしの衣装じゃないの?」


 だって逆さまに浮いてるんだもん。


「ちょ、上を向いてよっ!!」


 幼女がお尻を丸出しにしながら。



 そうして何とか私は街に向かい飛び立つのであった。


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