第17話アドの記憶とメドの枕と楓奈の初夜
「そ、そうなんだ、やっぱり記憶喪失になっちゃったんだ……」
「うん。名前も思い出せないみたい」
「………………ごめんなメド姉ちゃん」
「う~ん、忘れちゃったのは名前だけなの?」
「違うみたい。なんでここにいるかも分からない」
「ううう、思い出せないっ!」
「う~ん」
これって人や物の名前は憶えているけど、過去の出来事を忘れちゃったって奴だよね?エピソード記憶に関する事だけ抜けちゃった。みたいな。
『一応ちょっと色々聞いてみよう。生活に支障があるなら色々と面倒を見て上げないといけないし。それに私お姉さんだし』
そう思い立って、ベッドのメドの足の間にいるアドに目を向ける。
因みに今は、私とメドとアドは1階の奥の寝室に来ている。
お風呂上がりのメドもアドも中々色っぽいねっ!
二人お揃いのノースリーブのスケスケパジャマ着てるし。
ってそれは後にして、今はアドの事だよっ!
色々聞いて確かめてみないと……
「ねえアド、何処から来たか覚えてるっ?」
「がるるっ!」
「ア、アドに、メドを攫わせようと命令した人は?」
「がうっ!」
「い、今座ってる所は?」
「がるっ!」
「………………」
なんだろう。
なんとなく質問に答えている様な気がする。意味は分からないけど。
もしかして私の事嫌ってる訳じゃなく、実は言葉が通じない?
メドとアドはドラゴンだから、言葉の他に何か発してるのかな?
イルカみたいに、超音波的な何かでやり取りしてたのかな?
『うーん、それじゃ私とお話しできないし、女子だけの恒例の恋ばなとかできないって事だよね?色々きわどい事聞いて、頬がほんのり赤くなるとこ見たかったのに……うーーん』
私は腕を組んで少し考える。
『あれ?でもメドと私は普通に会話できるんだから、アドも出来そうなんだけど』
結論を出すのが少し早かったかな?
もう少し聞いてみよう。
「お、お外のお風呂どうだった?」
「がるるるっ!!」
「アドはお風呂好きなの?」
「がうっ!」
「………………」
うーん、答えてるって言うか、私の言った事に反射的に威嚇してるだけのような。
それよりも、アドはメドとお風呂入ったんだった。泡泡パーティーだったんだ。
だったらそこら辺り詳し、じゃなくてキチンと聞いてみよう。
「アドはメドと一緒にお風呂入ったんだよねっ?」
「がるるっ!」
「ア、アドはメドの裸見たの?」
「………………」
ん、あれ?
「ど、どうだった?キレイだった?色白かったっ?お尻はっ?」
「………………」
「メ、メドの胸は?色は?形は?大きさはっ?」
はぁっはぁっはぁっ
「………………ちっぱい」
「……………………」
「………………」
「………………にや」
ああ、これは単純に私が嫌われてるだけだ。
だって意味わかってたし、私もアドの言った事わかったもん。
そして途中から記憶の喪失の質問とは関係なくなった事に、
誰も気付かなかった。
ついでにアドのセリフは最初から楓奈が理解してたと言うことも、
誰も突っ込まなかった。
※※※※
その後はメドに頼んで、私の言うことをアドに伝えて貰った。
伝えるも何も、アドは私の言う事分かるし、私もアドの言うことはわかる。
ただ単に、アドと私の会話にメドがワンクッション入ってるだけだった。
そして、私からメド、メドからアドに聞いてもらった事によると、アドは自分に関する事の記憶が抜けてるらしい。
それ以外の名称とか、道具の使い方とか、そう言ったものは覚えているみたいだから、日常の生活は問題なさそう。
なんならお風呂で体の洗い方とか、おトイレの仕方とか教えなきゃと思ってたから、非常に残ね、じゃなくて、私もメドも安心した。
相変わらずアドは威嚇してくるけど、それはゆっくり仲良くなればいいしね。
それよりも、
『ぐふふふふふふっ』
メドは忘れてそうだけど、私はバッチリ覚えてるからね!
『メドの抱き枕』
それは昼間のメドとの勝負で、私が勝ったからだ。
人間姿でのメドとの、腕相撲勝負で私が勝ち取ったもの。
お風呂での泡泡パーティーは負けたから出来なかったんだけど『メドの抱き枕』これはこれで色々と妄想が膨らむよね。
『ぐふふっ、膨らむのは妄想だけじゃないよっ!私のお腹も心も膨らむんだよっ!』
私はベッドの端に座り、アドの髪に櫛を通しているメドに目を向ける。
メドはアドと戦う前の、あの薄着での格好だ。
白のノースリーブなスケスケの。
そしてささやか双丘とその頂上がうっすらと見える。
『~~~~~っっ!!』
相変わらずロリエロっぽい。
『……そ、そのメドの全ては今夜は私の物。どこをどう枕にしてもそれは私の自由。だよねっ!ぐふふ、そ、想像しただけでもうお腹一杯だよ。一先ずごちそうさまっ!』
私はノースリーブから覗く真っ白な細い手足と、今はまだ見えないメドの華奢な中身を想像して、一度箸を置く。
今のはまだ前菜。
これからフルコースが並ぶというのに、今からがっついても仕方ない。
それとメドにも失礼だし。
『つ、次は順番的に言ってスープだよねっ!メ、メドのスープっ!?』
と、変態的な想像をして、更に妄想を膨らませる。
『ぐふふふふっっ!!』
まぁ、実際膨らんでいたのは、私の鼻の穴だったけど。
※※※※
「それじゃお腹も膨れたし、そろそろ寝ようか、や、約束覚えてるよねメド?」
「ん、んん」
ふかふかの真っ白なお布団に、すっぽり頭まで入っているメドに声を掛ける。
遂にこの時が来た。
メドが私の物になる時が。
『ぐへへへへへへっ』
あ、そう言えば晩ごはんは、お風呂上がりの髪を乾かした後で食べたんだ。
メドが食事の準備が出来てると言うことで、メドの後に付いて三人で1階の大広間についた。そこの大きなテーブルの上には、まだ湯気が出ている料理が並んでいた。しかもきちんと三人分。
もしかしたら生肉の塊が出てくるかと思ったら、普通にお皿に盛りつけられたお肉だった。それと付け合わせの白いパンと、野菜が具沢山のスープ。
そんな誰が用意したとも分からない料理に、舌鼓を打ちながら美味しく頂いた。
私たち以外に誰かいるんだろうか?
私がメドを探した時にはいなかったと思うけど。
まぁ、美味しかったからいいかな。
「そ、それじゃメドこっち来て」
「…………すぅ」
「メド?」
「すぅ」
んんんっ?寝ちゃったのかな、もしかして?
『まぁ、それは仕方ないよね、今日一日で色々あったし、メドも疲れたよね』
私は小さな寝息を立てるメドを気遣い、声を掛けるのを止める。
うん、寝顔も美幼女だねっ!
『じゃ、メドが来ないなら私が行けばいいだけだからねっ!げへへ』
私はゴソゴソと布団の中を移動する。
メドとアドはお揃いのパジャマだったけど、私はスッポンポンだった。
だって他に服持ってないし、あんなダボダボな服じゃ寝れないし。
メドに貸してもらえればいいかなって思ったけど、どうせすぐ必要なくなるからいいかなって思った。だって
『だってすぐ脱ぐんだもんっ!私もメドもっ!うっしししっ!』
そんなこんなで、私は布団の暗闇の中を進んで行く。
そこに桃源郷があると羨望して。そこに私だけの楽園があると渇望して。
そして布団の洞窟を進む事数十秒。
ぷにゅっ
『あっ、つ、ついたっ!や、柔らかいっ!?こ、これもしかしてメドの?』
私は遂に目的地に到達した。
ゴクリッ
『よ、よし、枕にする前に初めてはまだ固いから、揉んで揉んでほぐさないとダメだよねっ!そうだよね?』
なんて大事なことは二回言って、尚且つ自分に言い聞かせる。
枕を揉んで柔らかくするなんて、誰も聞いたことないだろう。
いくら異世界だからって、そんな習慣もないだろう。
『で、では、いただき――――』
ガブッ
「い、痛たっぁっ~~~~いいっ!!あまり痛くないけど何かに噛まれたっ!?」
な、何々っ!!何かいるのっ?
私は布団の中の暗闇に目を凝らす。
「ギロリ」
「ひぃっ!?」
な、何かいるよっ!?青い目の何かが睨んでるよぉっ!!
「がるるるるるっ!!」
「あっ」
バサッ
私は布団を跳ね上げる。
「~~~~~~~~」
そこにはメドを守るように、覆い被さるアドの姿があった。
アドがメドを枕にしていた。
「ちょ、ちょっとアドっ!そこは私の場所だよっ!だから――」
「がうっ!!」
「うひゃっ!? ちょ、ちょっと聞――」
「がるるるるっ!!!!」
「わひゃっ!?」
「がおっ!!」
「あっ痛たぁっ!!」
そんなアドのせいで私は隅っこで一人、寂しく膝を抱えて眠るのだった。
『ぐすんっ……シクシク』
そうして異世界に来て初めての一日が終わったのだった。
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