第16話お風呂解凍中



「お、お、お、お、お前は誰だっ――――」


「ねえ、アド。もう私は敵じゃないよ?お姉さんだよ?」


 私は混乱して絶叫を上げるアドにわたわたとお姉さんアピールをする。


 私は敵じゃないよぉ! あなたを愛でるだけのお姉さんだよぉっ!!



「ね、ねえ、アド大丈夫?自分の名前言える?」

「ビクッ!?」


 少し、じゃなく、かなり近寄って触れるか触れないかの距離で聞いてみる。


 『俺は何者だぁぁっ!』て言ってたし。



「ね、ねえっ?」

「~~っっっっ!!」

「あ、アドどこ行くのっ!?」


 アドは声を掛けた私と目が合った途端に脱兎のごとく走り出した。

 その際に、たわわな物が揺れたのを私は見逃さなかった。


 私やメドが持っていない立派な物を。


 ぷるん、ぷるん、


 タタタッ!


 と、その向かう先は……



「…………どうしたの?このドラゴン」


 何故かメドの後ろだった。



※※※※※



「がるるるっ!!」

「~~~~~~うううっ」


 なんでだろう?


「がるっ!」

「~~~~~~ぐすっ」



 アドはメドの後ろから出て来たはいいが、私を威嚇するように吠え立てる。

手を出そうものなら、食いちぎられそうな勢いだ。こ、こわい。


 今は女の子座りしているメドに、アドが抱き着いてる。


 時折メドの胸に顔を埋めては、安心し嬉しそうな表情になる。

 私を見る目とは大違いだ。



「よしよし」

「♪」


 そんなアドをメドは撫でていた。


 そこは私の居場所( 予定 )だったのに…………


「………………」


 おかしい。確かメドと戦ってた筈なのに。



「ね、ねえ、アドっ」


「がるるっ!」


「うひぃっ!?」


 ダ、ダメだこれは、私を確実に敵と認識している目だ。


「~~~~~~グス」


 吠えるアドの八重歯が、牙を剥き出しにしてるように見えるもん。

 私の喉笛を狙っているもん。目が怖いもん。


「フーナさま、少し離れて」

「っ!?」

「アドが怯えてるから」

「っっっっ!!!!!!」


 お、おかしい、やっぱりなんかおかしいよぉっ!


 何でメドはアドに連れ去られそうになってたのに、アドを庇ってるの!



 私はメドを助けたんだよね?

 それともメドの母性が目覚めっちゃったの!

 懐かれるアドを目の前にして!


「じ~~~~~~ぃ」

「??」


 ん、アドがメドの胸から顔を上げて私を見ている。


 もしかして大丈夫だって気付いたかな?

 私がお姉ちゃんって思ったかな?


「ど、どうしたの? ア、ド?」

「――――――にやぁ」

「っっっっ!!!!」


 ポフッ

 むにゅん


「!!!!!!ッッッッ」


 アドは私と一瞬だけ目が合うと、すぐさまメドの胸に顔を埋める。

 しかもちょっとだけ、笑ってなかったっ!?


 これはもしかして、私からメドを取る作戦なんじゃっ!?


 私はそう確信した。絶対そうだっ!



「メ、メドっ!この子ドラゴンのくせに、ネコ被ってるよっ!私たちの中を引き裂くつもりだよぉっ!!それとメドの貞操狙われてるよっ!!」


 私は立ち上がり、早口でメドに捲し立てる。


 この子って部分で指を差すが、相変わらず長い袖が邪魔で指が出ない。

 ダランってなって何処を指しているかも分からない。


 それを聞いたメドは、アドを自分の胸から少し引き離しアドの顔を見る。



「フーナさま」

「な、何っ?」


 こ、これは分かってくれたかな!


 私の方がメドと付き合いが長いんだし、新人のアドになんか負けるわけがない。

 それに私はメドのご主人さまだ。私の意見を無視なんかできない。


 どきどき



「もう少し離れて」


「へっ?」


「アドが怯えてるから」


 と、無表情のジト目で端的に告げられた。

 まぁ、無表情ジト目はいつもなんだけど。


 そう言ってメドはアドを「ぎゅっ」と抱きしめ直し、頭を撫で始める。


「よしよし」

「にやぁ」


「っ!!!!」


 メ、メドぉっ!




※※※※※※




「ううう~~~~ぐすっ」


 私は今1階の大浴場に立っている。


「『ほっと』」


 ボォォォ――――ッ


 そして浴場一面を覆っている氷を溶かしている。

私が間違って凍らせちゃったから。



「うううっ、何もあんな目で見なくても~~~~」


 私は慎重に魔法で氷を溶かしながら、さっきとメドを思い出す。



『…………フーナさま。これじゃ使えない。ワタシたちは外のお風呂使うから。今夜中に元に戻しておいて』


 あの後、私の収納魔法からお屋敷を出して、私とメド、そして新人のアドの三人でお屋敷の中に戻って来たんだ。


 それで、メドを含めて、アドも戦いであちこち汚れてしまったからって、メドはアドを連れて1階の大浴場に入っていった。


 そしてすぐに戻ってきたと思ったら怒られた。

 お風呂使えないって。


 その目がいつもより5割増しでジト目だった。

 ジト目を通り越して、殆ど薄目だった。怖かった。



『それじゃアド。外のお風呂に行こう』

『うん、メド姉ちゃんっ!』


『はぁぁぁぁぁぁっ!?――――!!!!』



 ちょ、ちょっと待ってよっ!そんな簡単にアドはメドとお風呂に入れるのっ!

 私なんか勝負しなくちゃダメなんだよっ!


 それにメドはお風呂凍ってるの知ってたよね?見たよね一度?


 もしかして直してないか確認したの?口うるさいお姑さんみたいに!?


「『ほっと』」


 ボォォォ――――ッ


 そんなこんなで、私はメドの言いつけ通りにお風呂を解凍中。

 何?お風呂解凍って……聞いたことないよっ!



「はぁ、わたしも行きたかったな、あの桃源郷に……きっと今頃二人は、小さな二つの影が重なって、2匹が1匹に…………そして3匹に…………」


 私はよくわからない妄想をしながら、慎重に慎重に解凍作業を進めるのであった。

 お風呂場を燃やさないように。




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