第6話勇者さま達に交渉します
勇者ぁっ!?
もしかして、
『メ、メルウドラゴンちゃんを倒しに来たのっ!?』
「オイッそこの白いのだっ! 貴様ドラゴンだろうッ! この俺の目はごまかせないぜぇッ!!」
突然の登場に驚いている私たちに怒声を浴びせてくる。
「い、いや勇者さま見付けたのは私ですよっ! だからわたしにも報奨金をっ」
こっちは村人A
「~~~~~~~~」
「――――――――」
勇者さまと呼ばれた人たちは5人。
一番先頭にいるのは高そうな豪華な鎧。
いいや違うよ?
安そうな、何かの動物の皮をなめしただけのアンダーシャツ。
鎧だと思ったのはフライパン?
いいや、これも違うな。中華鍋だ。きっと。
そして頭を守る丸型のカブトは鍋。
それも深型の。
こちらに向ける武器の剣は………………あれ?
…………剣だけはやたら光り輝いていた。
「えっ!?」
そして他の4人もそれぞれ似たような装備をしていたけど、大剣、斧、弓、杖、の手持ちの武器だけはみんな輝いていた。それも異様なほどビカビカと。
『も、もしかして、武器だけは伝説級なのっ!?』
私は勇者さま達が持つビカビカな武器を見てそう思った。
そんな伝説の武器を持った5人の勇者たちに、メルウドラゴンちゃんが攻撃されたら、いくらドラゴンでも…………
「…………絶対にわたしのせいだ」
そう。勇者さまが来たのは私のせい。
切っ掛けもフラグもきっと私のせい。
多分森を焼いちゃったり壊したりしたせいで
近くの村の村人Aが来ちゃったんだ。びっくりして。
私とメルウドラゴンちゃんが戦って、メルウドラゴンちゃんが――
『あ~もぉ~っ!『メルウドラゴンちゃん』て名前が長くて呼びずらいっ! だから名前が一緒だと困るんだよぉ!』
もう略して『メド』
ひとまずはこれでいいや。
『え~と、メドが私にぶっ飛ばされて、なんでか知らないけど白い美幼女になったところを見られたんだ。それで村人Aが勇者さまに報告に行った。そして更に私が「強い人は来るよね?」みたいな事を言ったのがフラグだったんだ……』
だったら私のすることは決まっている。
「メドちょっと待っててね? あの人たちにメドは悪いことしてないって伝えてくるから。だからそこで安心して待っててねっ!」
メドに一言そう言って、メドから離れる。
まだガヤガヤ言ってくる勇者さまに説明する為に。
メドの嫌疑を晴らすために私は立ち向かう。
「よし、頑張るっ」
私はマントを翻し颯爽と歩みを進めていく。
バサバサとはためくローブが、ちょっとだけカッコいい。
『メド待っててねっ』
私があなたの無実を証明する。
そしてメドはそんな私にメロメロになる。(予定)
そしたらさっきの続きを色々と…………
「グフフフフフフフッ」
なんて妄想していると、よくわからない奇声をまた上げてしまう。
「あうっ!?」
コテンッ
ついでにローブを踏んで転んでしまう。
『わ、私こんな困難で負けないからっ!』
直ぐに何事もなかったように、スクっと立ち上がる。
私はこんな事で泣いたりしない。
だって、私の背中には――
「メドぉ~待っててね! わたしがあなたの無実を証明してくるからっ!!」
メドが私の帰りを待っているのだから。
私は超スローな歩みで、勇者たちに向かっていく。
転ばないように慎重にゆっくりと確実に。
だがそんなフーナの熱い気持ちは?
「『メド』て、誰??」
本人には全く伝わってはいなかった。
※ ※ ※ ※
「オイッ! そこのお前ちょっとそこで止まれッ! 一体何者だっ! お前もドラゴンだろうッ!」
勇者の一人の剣の勇者が「チョコチョコ」と転ばないように、慎重に歩みを進める私に声を飛ばしてくる。
「アイツは、何か白いドラゴンと話していた。きっと仲間だろう」
これは斧の勇者。
「ああ、間違えねえッ! アイツも一緒にやっちまおうぜッ!! そしたら賞金もたんまりだァッ!」
これは大剣の勇者。
「そうね私たち5人だったら子供ドラゴンくらい簡単よね?」
これは杖の女勇者。
「ハァハァ、見目麗しい幼女が二人も。ハァハァ」
最後にこれは弓の勇者。
「ち、違うよぉ! わたしはドラゴンじゃないよぉ! ちょっと訳を話しに行くからちょっと待っててよぉ~!!」
私は勘違いしている勇者たちに向かってそう返事をする。
とりあえず近くに行かないとまともに話も出来ない。
ジャンプしていってもいいんだけど、あんまり刺激はしない方がいいと判断して歩いていく。余計な事したらきっとまた何か言われる雰囲気だもん。
「だったら早くしろッ! 歩いてないでさっさと走って来いッ!」
『むかっ!』
走れたらとっくに走ってるよぉ!
この長いローブとマントを見て気付かないのっ!
勇者の目は節穴なのっ!
もし走ったとしたら、多分私の予想だと――――
1.無理して走る。
2.予想以上に速い。
3.スっ転ぶ。
4.ミサイルのように、勇者さまたちに向かって飛ぶ。
5.静止出来ずに、勇者さまたちに突っ込む。
6.まとめて、吹っ飛ばす。
多分ていうか、絶対そうなる。
「あっ!そうかだったら『浮け』ばいいんだっ! 地面から少し浮いて、ホバーして移動すればいいんだぁ! わたし頭いいかもっ!?」
それに気付いて「ポフっ」と手を叩く。
「おい、いい加減にしろッ! 俺たちに待てと言いながらブツブツ話してんじゃねえ!! さっさと走ってここまで来いよッ!!」
『イラッ!』
うるさいなっ!! そんなの分かってるよっ!!
こっちの事情も知らないでさっ!
「すぅ―はぁ~すぅ―はぁ~」と深呼吸をして心を落ち着ける。
そして、
「す、少しだけ浮いて?」
小声で、呟くように魔法を唱える。
今までの体験を思い出して、小声で言ってみる。
多分私の魔法は「感情」や「声の大きさ」に比例して、その威力が大幅に変わっていたと思ったからだ。だから小声ならきっと大丈夫。
「お、お、浮いたっ!」
ス~っと、私の体が50センチほど上昇して止まった。成功だ。
それでもまだローブとマントは引きずっている。
けどこれなら転ぶ心配もない。踏んずけないからね。
「い、今行くから待っててっ!!」
勇者たちに声を掛けて、慎重に地面を平行に浮遊していく。
おお~っ!
転ばないし、疲れなさそうだねっ!
最初からこうすれば良かった。
「…………………………」
「…………………………」
「…………………………」
「…………………………」
「ハァハァ………………」
「お待たせっ! それでね、あの白い美幼女の事なんだけどぉ!」
無事に勇者さまたちの前に辿り着き、訳を話そうと口を開く。
浮遊のお陰で目線は勇者さまたちと一緒位になっているけど。
「「「「「じー…………………」」」」」
「ね、ねえ、どうしたの? 訳を話すから白いあのメドの事は許してあげてっ!」
なぜか、無言で私を見ている勇者さまたち。
「…………お前、やっぱりドラゴンだろ」
「へ?」
はぁ?
なんでそうなるのっ!
「な、なんで、いきなり歩くのを止めて飛んできたんだっ!?」
「コ、コイツは、間違えねえ! ドラゴンだぜッ!?」
「ひ、飛空魔法なんて高位な魔法、こんな子供が使える訳ないわよっ!」
「ハァハァハァ、ち、近くで見ると、いっそう……」
剣の勇者も含め、他の4人の勇者さまも、訝し気に私を見て、口々に私をドラゴンだと決めつけてくる。
「ち、違うって言ったでしょう! わたしドラゴンじゃないよ!」
両手を顔の横で振って、違う違うアピールをする。
「なら、なんであの白い奴と一緒にいたッ! 何してたッ!」
「えっ!? な、何って……」
何って、私はナニしてたよっ!
メドが気絶していることをいい事に、穴にも不可抗力で入れちゃったよっ!鼻の穴だけどっ!それも、いい所でメルウちゃんの邪魔が入っちゃったけど!
なんて、そんな事は言えるはずもなく、
「お、女の子同士の蜜月の話を、聞きたいだなんて最低だよっ!」
「はぁ!? 何言ってお前らメスだろうッ! 誰もそんなの聞きたくねえッ」
「メスって、だからわたしは――――」
「じゃ、じゃあなんでそんな小さな子供が高位の魔法を使えるのよっ!」
「そ、それは…………」
「ほらみろ答えられねえっ! ドラゴンの仲間で間違えねえッ!」
「だ、だから違う…………」
「…………決まったな。コイツは討伐対象だ」
「なんで、そうなるのっ!? わたしは――――」
「ハァハァ、ド、ドラゴンでも幼女なら、ハァハァ」
「……………………」
「……………………」
「……………………」
「……………………」
「……………………」
『ムカムカッ!!』
あ~っ、もうっ!なんで、わかってくれないのっ!
なんで私の話をまともに聞いてくれないのっ!!
「だから、違うって、言ってるでしょうがぁっ!」
何も聞いてくれない、勇者さまたちに癇癪を起して、
「いいッ!?」
「な、なんだッ?」
「お、おいッ!!?」
「はぁっ!?」
「ハァハァハァ」
「もう、いい加減にしてぇ――――っ!!」
怒りに我を忘れて、子供のように、地団太を踏んでしまう。
ドゴォドゴォドゴォドゴォッ!
バキッ
バキッ
バキバキバキバキバキッ!
私のその地団太に地面に亀裂が入る。
そしてその亀裂が勇者さまたちの足元まで伸びていく。
そして
ボゴォォォッッッ!!
大穴を開ける。
勇者さまのその真下に。
「「「いいいいっ!!!!」」」
「ち、ちからの加減がまだ出来なくてっ! 待って今助ける……」
穴に飲み込まれる勇者さまたちに、慌てて手を伸ばすが、
「き、貴様ぁっ!! よくも我々勇者をっ! 覚えていろよッ!」
「うおおっ! 信じられねえっ!! ただの足踏みでこの破壊力っ! やっぱりアイツはドラゴンだッ!!」
「次会ったら容赦なく切り捨てる。それまで首洗って待ってろッ!」
「い、いやぁ――また落ちるの! 顔は覚えたわよっ!」
「ハァハァハァ、ちょっと生足見えた。ハァハァ」
「な、なんで、私までぇ~~!!」
「ああああああっ!!!!」
そんな捨て台詞のような悲鳴や恨み言を言って、勇者さまたちは底の見えない暗い穴の中に落ちて行った。
村人Aも一緒に。
「………………ふぅ」
私は事の成り行きを見守ってメドに向かってピョンと跳ねていく。
「さ、さあっ、全部解決したよっ! これで証人も証言もなくなったっ! だ、だからメドも安全安心だよっ!」
「……………………」
「さ、さて、これからどうしようかな?」
私はメドの無言のジト目を見ながら
他にもっといい言い訳がないか考えていた。
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