第7話ドラゴンのお家に招待されます




「あああっ、やっちゃったよぉっ~!!」


 勇者さまたちを穴に落としちゃったよっ!

 しかも、関係ない村人Aさんまで巻き込んじゃった。


 もの凄く恨み言ってたよねっ?

 絶対に怒ってたよねっ?


 なんか悪役の捨て台詞みたいだったけど……



「ううう~ 助けた方がいいのかなぁっ! で、でもなぁ~ あれ?」


 勇者さまたちが落っこちた大穴を振り返って、どうしようかと悩んでいると、下品に光るものが目に入る。


「これって、もしかして勇者さまの……」


 一人が持っていた剣だ。


 リーダーの剣の勇者さまが持っていたもの。

 きっと穴に落ちる時に手放してしまったのだろう。 


 そんな伝説級の剣をメドから離れて「スゥー」と取りに行く。


 そして手に持ち「ブンブン」振ってみる。

 もの凄く軽い。


「ん? 伝説級だからかな?」


 まあ、私の身体能力はおかしいから、

 重さを余り感じないだけかも知れないけど。


「あれ? なんだろうこのボタン」


 剣の底にある突起を押してみる。


 カチッ

 シュン


「あれれっ!? びかびかが消えちゃったっ!」


 私は再度突起を押してみる。


 カチッ

 パッ!


「うわっ! ま、眩しいっ!」


 今度はまた「びかびか」と刀身が光り輝いた。


「………………何これ?」


 カチッ

 シュン


 カチッ

 パッ!


 カチッ

 シュン


 カチッ

 パッ!


「もうっ! ただのおもちゃじゃんっ!!」


 ガジャンッ!!



 勇者の剣もどきを地面に叩きつける。

 伝説の武器だと思ったら、ただの玩具だった。

 その一撃で勇者の剣は粉々になってしまう。



「ああもう心配して損したっ! 絶対アイツら偽物だよぉ!!」


 私は一人憤慨して、メドの待ってる所に浮いて戻る。


「どうしたの」


 ちょっと怒っている私に、心配したように声を掛けてくる。


「ううん、なんでもないよ。それよりもこれからどうしよう? 色々お話したいけど、ここじゃ、あれだもんね?」


 「うーん」と考えながらメドに聞いてみる。


「ならワタシの家に来る? 何もないけど」

「えっ! 家って? あああっ!!」


 家って聞いて思い出した。

 メドの住む山を破壊してしまったことを……



「あ、あ、あのねメドの家壊しちゃってゴメンねっ! わざとじゃなかったの。火事を消そうとして一緒に壊しちゃったのっ! だから本当にごめんなさいっ!!」


 メドに最初に会ったように、地面に跪いて頭を下げる。

 土下座リターン。



「ん、別にいい。ワタシはあなたに負けたから、それに……」

「負けた? それに?」

「それに家は村から少し外れた所にもあるから」

「え、それって? どういう事」


 私はそんなメドの言葉に首を傾げてしまう。

 良く分からない。


 なのでもう少し詳しく聞いてみよう。



※※※



「へえ~ 人間の姿用に家がもう一軒あるんだね」

 

 メドの話に納得して「ポフっ」と手を叩く。

 相変わらずいい音が出ない。萌え袖のせいで。



 メドの話を簡単に説明すると、


 この山は食事としていた動物や魔物を取る為の山だった事。

 普段は、街から外れた家にひっそりと人間の姿で住んでいる事。


 それと最後にこれが重要。


 メドは私に負けた事で、私をご主人さまと認めたらしい。


 何それ??


 と、思うけど、どうやらドラゴンに限らず、魔物と呼ばれる人外の者たちは、強者に付き従う事が多いらしい。


 特にドラゴンなどの種族は、それが顕著になっているようだった。



『ムフフッ! それにしても「ご主人さま」かぁ~っ!』


 メドの整った容姿を見て「にやにや」と頬を緩める。


「じゅるっ!」 

 おっと、色々想像してまた涎が出てしまったようだ。


 気付かれないように、萌え袖で拭う。



「それじゃ メドの住む家に案内してくれるかな? ここから近いのかな?」


「ん、ここからは北西に飛んで30分くらい」


 無表情で説明してくれる。


 相変わらず表情が少ないって言うか、全体的に抑揚がないっていうか、あまりにも感情が表に出ないせいで何考えてるのか読みずらい。


 でもそこからのギャップ萌えに期待したい。

 私だけにデレさせてみたい。


 なんてメドのジト目を見ながら、妄想の世界に飛んでしまう。



「ねえ? 聞いてる」


 そのメドの問いかけに、


「え、聞いてるっ聞いてるっ! 空飛んで30分だよねっ!」


 我に返って慌てて返事をする。


『う~ん……』

 それよりも飛ぶの?


 もの凄く怖いんだけど。

 まだ魔法を制御できないし、理解もまだまだだし。


 もし間違って力を制御できなかったら、勢いで宇宙まで行っちゃうんじゃないの?

 さすがにもう少し練習したい。もの凄く自信がない。怖い。


 そんなブツブツと独り言を繰り返していると、


「どうしたの?」


 心配してなのかメドが声を掛けてくれる。


「う、うんとねっ。わたし、あまり空飛ぶの上手じゃないんだ。だから悩んでたのっ! それと少し疲れちゃったんだっ!」


「そう。ならワタシに乗って行けばいい」

 

 メドはそう言って、地面にうつ伏せに横たわる。


「えっ?」


 これはメドの背中に乗るって事?

 絵面的にヤバくない?

 幼女が幼女にまたがるって事だよね?


 それは良くない。


 それは私のモラルに反する。

 それは愛でるとは言えない。


 だから――


「メドごめん。どうせなら担いでいってくれるかな? 幼女の背中に乗るのはちょっと色々と世間的にも……」


 やんわりと謝っておく。


「ん、わかった。なら――」


 そう言ってスクと立ち上がり、服の汚れを払って私に近付いてくる。


「なら、これでいい」

「ほぇ?」


 私の背中と膝の裏に手を入れ「ヒョイ」と軽々と持ち上げる。


 これって、


「しっかり掴まってて」


 そのまま「ヒュン」と上昇して空を飛んでいく。


「わわわっ!!」


 それはお姫さま抱っこだった。



※ 



「うわ~っ!」


 私を抱えて空を飛ぶメドの速さはすごかった。

 下の景色があっという間に視界の外に流れていってしまう。


 それでも風圧は全く感じなかった。


 その理由をメドに聞いたら、


「ん、魔法で障壁を張ってるから大丈夫」


 そう教えてくれた。


 それによるとドラゴンの姿の時も障壁は張っていて、体は翼ではなく魔法で浮かせているらしい。翼はかじ取りの役割が多いそうだ。

 

 確かにあの巨体と重量を浮かせるのは、あの翼の大きさでは足りないし、それを動かす筋肉も消費するエネルギーも尋常ではないだろう。まず普通に考えても無理だろう。


「やっぱり魔法は偉大だねっ!」


 私もその魔法を使える事に少しだけワクワクする。

 それにはまず制御しないとだけどね。



 私はもう明るくなって、朝日が昇る綺麗な景色の中を、悠々と飛んでいくメドの白い首に手を回して「むぎゅ」と抱き着く。


 そしてピチピチの頬っぺたに、顔を寄せてスリスリする。


「んんんっ!」

「ちょっと。くすぐったい」


 メドはちょっと顔をしかめるけど無視して続ける。


「むふふっ」


 だって「ツヤツヤ」「ツルツル」「もちもち」で気持ちいいんだもん。



 暫くすると、森を何個か抜け、大きな門がある街らしきところも通り過ぎる。

 そしてその隣の山奥の開いたところに着陸する。


 スタッ


「家に着いた」

「あ、ありがとうねっ!」


 丁寧にメドは私を地面に降ろしてくれた。

 私はメドから離れてその家を眺めてみる。


 招待してくれた、もしかしたら愛の巣になるかもしれないその家を。



「こ、これがメドの住んでる『家』?」

「ん、そう。これが家」

「う、嘘でしょうっ! これ家じゃないよっ!!」


 メドの説明にすぐさま反論する。

 

 こんなの家なんて普通呼ばないでしょ?


 だってそこには、家と呼ぶには巨大すぎる―――



 『お屋敷』


 が建っていたのだから。



『メドって、一体何者なの!? いやドラゴンだけどねっ!』


 お屋敷のショックで、一人ボケ一人ツッコミをする私だった。



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