第4話早速ドラゴンとたたかいます




『ワレハ、ココノモリヲ、スミカトシテイル、エンシェントドラゴンダッ! キサマカ、ワレノスミカヲコンナニシタノハッ!』



 私の立っている、瓦礫や砂埃を巻き上げながら、その巨体が目の前に着陸する。

 そして小さな私を見下ろし「ギロリ」と双方の眼に私を映す。



「ご、ごめ"んなざあぁぁ――――い"っ!!」



 両手を前に地面に額を擦りつけ、泣きながら土下座をする。


 激おこのドラゴンに、何処まで伝わるわからないけど、何もしないよりはマシだ。

 もしかしたら、こんな可愛く小さい幼女の私に、情けを掛けてくれるかもしれない。



『うううっ~~~~』

 そんな一抹の望みをかけて、私は目を閉じ頭を下げ続ける。



『……………………………………』


 し~~~~~~ん


「?」


 な、なに? 

 この長い沈黙は――――



『なに、なに? どうなってるのぉ?』



 その何とも言えない沈黙に耐え切れず、そぉ~と頭上を見てみる。



 すると――――


「あっ!」


 泣いていた。


『ウウウ~~』


 私も泣いていたけどドラゴンも鳴いていた。

 巨体を細かく震わせ、目には涙を溜めていた。



 そしてボロボロと、大粒の涙が音を立てて私の前に降り注ぐ。

 その勢いが次第に増えだし「ジャ~」に変わっていった。


 そう号泣だった。



『ウ"ウ"ウ"ガァ~~ッ!!』


 巨大なドラゴンは頭を上げ、森を見渡し号泣していた。



「………………」


 そんなドラゴンの涙から逃げるように、立ち上がってトコトコと被害が及ばないところまで下がる。さすがに加害者でも、爬虫類の体液は浴びたくない。



「あうっ!!」


 だけど、数歩歩いたところでローブに足が絡まり転んでしまう。


 イラッ!


 もういい加減にして欲しいっ! こんな状況で転ぶなんてさっ!

 この長いマントとローブのせいで、まともに歩く事もできないじゃんっ!


『………………ム』


 すっ転んで苛立つ私に、泣いていたドラゴンが気付く。



 そして一言、ポツリと声に出す。



『…………ユルサナイ』


「え?」


 そう短く言い放った直後に、口端に赤い炎が見え隠れし、



『ブオォォォォ――――ッ!!』



 絶叫にも似た咆哮と共に、巨大な炎を吐き出してきた。



「わっ!!」


 その炎は、私がさっき出した、火の魔法とは全くの別物。


 それは言うなれば、ロケットから噴出される規模の炎と遜色なかった。

 きっとファイヤーブレスと呼ばれるものだろう。



「ヤ、ヤバいっ! こ、氷よっ! あの炎を凍らせてぇ~っ!!」



 咄嗟に倒れた状態のまま杖を前に出し魔法を唱える。

 炎にはきっと氷だろうと。


 すると、すぐさま杖の先から、極大な氷の塊が滝のように噴き出した。


 ゴォォォォッッッッ――――!!!!


「うわっ!」

『ッ!?』


 私はその規模と質量に驚き、短く声を上げる。

 その氷の塊は、巨大なドラゴンの炎を丸ごと飲み込んでいく。


『ウガァァ――――ッ!!』


 ゴォォォォッッッッ――――!!!!

 パキパキパキパキパキパキパキパキパキッ!!!!




 そして、数分後――――



「………………」


 氷の噴射を止めた後、そこには極太な氷柱が出来上がっていた。



『グ、ガ、…………』


 ついでに巨大なも出来上がっていた。



「あわわ、た、助かったけど、悪いのはわたしだよねっ?」


 出来上がった巨大な氷像を見上げて、なんか申し訳なくなった。



 ところが……


 パキッ、


「ん?」


 パキ、パキパキパキ


「えっ!?」


 バキバキバキバキバキバキバキバキッ!!!!


「ああああっ!!」


 バリィ――――ンッ!!


『グウォォォォォッッッッ!!!!』


 エンシェントドラゴンは完全には凍っていなかった。


 最初に吐きだした炎のブレスの影響で、直撃にならなかったんだろう。

 全身の氷を砕き、怒りの形相で咆哮した。



『ワレノモリヲ、モヤシタデハアキタラズ、ワレマデコロソウトスルトハ、ゼッタイニユルセヌゾォォ! コナミジンニシテヤルッ!!』


 ブオンッ!!


 氷の拘束から脱したドラゴンは、唖然とする私に猛然と前足を振るう。


 ペチッ!


「んきゃあっ!?」


 避ける事も、防ぐ事も出来ずに、その攻撃モロに受ける。

 そして私の体は石ころの様に軽々と弾き飛ばされる。



 ヒュンッ!

 ズザザザザザザザザ――――――


「ああああ~~~~っ!!」


 その人外で凶悪な攻撃に、私の体は100メートルほど飛ばされ、落ちた地面を削りながら進んでいく。


 ガンッ!


「あうっ!!」


 そして大きな岩にぶつかって、ようやく滑走が止まった。


「………………あれ?」


 それでも私はなんともなかったように、スクっと立ち上がる。



 いや、なんともなくはない。


 痛かったしもの凄く怖かった。

 ただそれだけで済んだのはきっと、このメルウちゃん特製の装備のおかげだ。



 私は自分の無事を確認して「プルプル」と肘を上げて、拳を強く握り締める。

 傍から見たらグーの手は袖の中なので、全く見えないが。


 そして飛んで行った私の後を追うように、飛行してくるドラゴンを鋭く睨む。



「むむむっ! うき――――っ!!」


 そう。私は怒ったのだっ!!

 怒髪天なのだっ!



『ナ、ナンダトッ! マダイキテイルダトッ!!』



 吹っ飛んだ私を発見して、目を見開き、上空で羽ばたきながら、驚愕の声を上げるドラゴン。



「むんっ!」


 ボゴォッ!!


 唖然とするドラゴンを見据えたまま、ぶつかった大岩を持ち上げる。


 それはドラゴンの顔よりも巨大な大岩だった。

 それを両手で頭上に掲げる。



『ナアッ!?』


「わたしちゃんと謝ったじゃんっ! 泣きながら謝ったじゃんっ! それなのにわたしの言う事を何も聞こうとしないで殺そうとするなんて~~っ!!」



 ドラゴンに向かい叫びながら、右足を一歩前に踏み出し、



「そんなお前死んじまえぇ~~~~っ!!」



 ブウンッ!!



 そして怒りと恨みを込めて、頭上のドラゴンに全力で投合した。


 それは空中に浮いているドラゴンに猛スピードで飛んで行き、



 ギュンッ


 ドゴォッ――――ッ!!



『ンガハァッ!!!!』



 そして飛んでいるドラゴンの顔に、見事に直撃した。


『………………』


 そんなドラゴンは気を失ったのか、ヒューと落下していく。



 それでも私は――――



「まだまだだよっ! わたしは凄く怖かったんだからっ! まだ許さないよぉ!!」


 地面を走らずに落下地点であろう場所まで「ポンッ」と跳躍する。


 気絶して墜落し、巨体を地面へ叩きつけられる前に間に合った私は、ドラゴンの巨大な横っ面に回し蹴りを叩きこむ。



「えいっ!!」


 どごぉっ!


『ガァッ!』


 ドラゴンは今の蹴りで無理やり覚醒したのであろうか。


 短い悲鳴をあげて、巨大な体が地面と平行に飛んで行く。

 そしてさっきの私と同じように、地面を削りながら滑走していく。



 ズザザザザザザザザ――――――



『グガガガガガガガッッッッ!!!!』



 ズ、ズズウンッ!



 その巨体は地面を穿ちながら、百メートルほど先で停止する。



「だ、大丈夫かな? 怒っていたとは言え少しやり過ぎちゃったかな? 元々はわたしが原因だったしっ!」



 その惨状に心配しながら「ぴょんっ」と傍まで跳ねていく。



「あれっ!? ドラゴンがいないっ!!」



 地面に電車道を作りながら進んでいったその先には、ドラゴンではなく、



「えっ!?」


 何故か白い髪の幼女が横たわっていた。



「グッヘヘヘヘへへッ!」


 そんな幼女に、私は手をワラワラしながら近づいていった。


 理由はともあれ色々と調査しないとね。

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