第2話女神の対応に不満です に
「ああ、もうっなんか落ち着かないんだけど――――!!」
女神に貰ったこの衣装、袖も裾も杖も全部が長すぎる。
もう萌え袖ってレベルじゃないし、余裕で結べそうだし、マントも裾も確実に引きずってるし、杖はわたしの1.5倍くらいあるしで、本当に邪魔になる。
これで願いごと叶えろっておかしいよ。
早速文句を言いたくて、幼女女神の『メルウちゃん』を頭の中で呼びだしてみる。
『メ、メルウちゃん、き、聞こえるかな?』
ドキドキしながら呼び掛けてみる。
し――――ん
「メルウちゃん? も、もしかして通じないの?…… い、いきなりこんなとこに飛ばされて、ガイド役もいないなんて……」
そう思って少しだけ不安になってしまう。
『メ、メルウちゃんっ! メルウちゃんったらっ!』
焦って幼女女神の名前を連呼する。
『もう、お姉さん、モグ、どうしたの? わたちこれでも忙しい、モグだよ』
『……………………』
『お姉さん? モグムシャ。――ゴクン』
『………………イラ』
この幼女女神。私をこの世界に送った後に、速攻でご飯食べてたよね?
全然忙しくないよね。
『あ、あのメルウちゃん、私の貰った服なんだけど、なにもかも大きいし、全然魔法少女じゃないんだけど』
生き返らせてもらった手前、かなり控えめに聞いてみる。
内心ではお仕置きしてやりたいけど。
『っ!? ゴックンッ あっ!』
「え?」
びっくりして飲み込んで「あっ」て言ったよ。
『メ、メルウちゃん?』
『ご、ごめんなの。サイズはそれしかなかったの。で、でも機能は女神特製だから凄いの、大丈夫なのっ!』
『そ、そうなの? ま、まぁ、大きさは二歩引いて我慢して、
そう、私が夢見た魔法少女らしきところが全くない。
『えっ!?』
『えっ!? じゃないの。これって魔法少女じゃなくて、
『……………………』
『ねえ、メルウちゃん?』
『………………るさいの』
『え?』
『うるさいのっ! そんなの知らないのっ!
『え?』
ええええ~~っ!?
イ、イキナリ逆切れされたっ!
魔法少女を知らない事も、サイズが間違った事も暴露したっ!
しかも逆切れして、日本のことわざまで持ち出したっ!
最後なんか、女神さま泣いちゃったしっ!
「ちょ、ちょっとメルウちゃん! だ、大丈夫? わ、わたし意外とこの服気に入ってるから気にしないでねっ!」
女神さまを泣かせた驚きと、子供を泣かせた罪悪感で、必死に宥めにかかる。
「ああ~、女神さまに貰ったこの服もマントも、い、色も可愛いし、サイズは、わ、わたしが小さいのがいけないのかなぁ? 杖もちょっと長いけど、も、物干し竿にも使えるしっ! あっ! この無駄に長い三角帽子も、ほ、ほら、逆さにすると水も汲めるよっ! メルウちゃんの言う通りだよっ! 大は小を兼ねるだよっ!」
「ね、だからね、泣かないでっ!」と付け加える。
因みに念じて話すのも忘れて、普通に声を出してたけど。
『ぐすっ………… 本当なの?』
「ほ、本当だよっ! わたし一目で気に入っちゃったっ!」
『………… 嘘じゃないの?』
「ほ、本当だってっ! 嘘じゃないよっ!」
『本当に? それは神に誓えるの?』
「神って……… それは――――」
あんたもその一員でしょっ!
そう言いたいのをグッと抑える。
『どうしたの? 誓えないの?』
「ち、誓いますっ! メルウちゃんにも、神さまにもっ! 仏さまにもっ!」
もう面倒になって、適当に言っておく。
なんでこんなに疑り深いの?
『なら、良かったの。わたち、
「ほっ」
良かった。
どうやら機嫌も直って泣き止んだみたい。
「ね、だからメルウちゃんの失敗じゃないの。もう叱られるなんてないよ?」
『………………ニヤッ』
「え?」
気のせいかな? 女神さまウソ泣きしてなかった?
それとコッソリとほくそ笑む、悪い顔のメルウちゃんが見えたんだけど。
いやいや、仮にも女神さまがそんな事する訳ないよね。
はぁ、私はなんて心が醜いんだろう。
『お姉さん。それでわたちを呼んだのはそれだけなの?』
「あ、メルウちゃん、わたしの名前は楓奈って言うの『
名前を教えていなかった事を思い出して、簡単に自己紹介をする。
きっとこれからもお世話になるからね。
アドバイザーとしても。
暇つぶしの話し相手としても。
『フーナ? わかったのこれからはそう呼ぶの。それでフーナお姉さんは他に何かあるの? ふぁぁ~』
「うん、まぁ……」
他にも何も、まだ肝心なこと一つも聞いていないんだけど。
「わたしは最初に何をすればいいの? やっぱりいきなりドラゴン倒すの?」
最初の願いが『エンシェントドラゴン』倒して欲しいって言ってたんだ。
『ふあぁ~、フーナお姉さん。わかっているのが今はそれだけなの。後はわたちのお姉さんたちに聞かないとわからないの。でも今はいないの。ん~ ふあぁ~』
「…………うん、わかった。それで次はこの服なんだけど、どんな効果があるの? 女神さま特製だから、きっとすごい効果があるんだよね?」
そう。この衣装は『女神さま印』の服一式だ。
かなりの効果が期待できるはず。
例えば、空を飛べたり、透明になったり。
『ふゎぁ~、女神っていうか、それ、わたちが作ったんだけど』
「えっ!?」
この服(装備)を作ったのはメルウちゃんなの?
なんか嫌な予感がするんだけど…… でも大丈夫だよね?
『がんじょうなの』
「へ?」
『ものすごく、頑丈なの。』
「そ、そうなんだっ!」
も、もの凄くどうでもいい。
『それと、ムニャ、寒いのも熱いのも大丈夫なの。あ、あとは毒とかも大丈夫なの。ふぁあ、それじゃわたち忙しいから、もう切るのぉ……』
「メ、メルウちゃんちょっと、それだけなの? 空とかは? 透明とかはっ!」
『く~、むにゃむにゃ……』
ね、寝ちゃったよっ!
子供かっ! いや、幼児かっ!
食べたからってすぐに寝るなっ! 会話の途中で寝るなっ!
まだ、聞きたい事沢山あったのに。
「はぁ、仕方ないかぁ~」
一先ずは人のいるところに行こう。
起こすのも気が引けるし、周りは真っ暗だし、怖いし、お腹減ったし。
私はとことこと一人歩きだす。
ズルズルズル――――
「ああ、やっぱり長くて歩きずらいなぁ。ローブを引き擦っちゃうし。これ、絶対わたしの2倍以上あるよね? メルウちゃんは可愛いけど、なんであんなに――――ブツブツ」
何て一人愚痴って歩いていると、
ドスンッ
『ウガアァ―――――ッ!!』
「うわっ!」
突然、森の影から巨大なクマが、雄たけびを上げて飛び出してきた。
「で、でっかいっ!」
手を振りかざすその姿は、私のざっと5倍以上はある。
「ちょ、ちょっとなんでいきなりっ! もしかして?」
きっと女神のメルウちゃんと話していた時だ。
途中から声を出して話してたから、それで気付かれたのかも。
『グガアァ――――――ッ!!』
ドスンッ ドスンッ
驚く私を見つけて、クマがこっちに向かってくる。
「って、やっぱりこっち来たっ! うわぁ~っ! に、にげろ~っ!」
クマに背を向けて、両手を挙げて全力で走り出す。
だけど…………
グッ
「わきゃっ!?」
ビタ――ンッ!
ローブとマントを踏んずけて、そのまま顔面から転倒してしまう。
「痛たた、もう、だから長いって言ったのにっ!」
涙目で愚痴を言いながら、急いで体を起こす。
『ウガアァ―――――ッ!!』
が、どうやら間に合わなかったようで、激おこのクマが目の前にいた。
「わ、わたし、
ブンッ
尻もちをつきながら、苦し紛れに長い杖を振り回す。
「あっちいけっ! あっちいけっ! わたしなんか美味しくないよっ! 胸もちっちゃくなっちゃったしっ! もう食べるとこないんだからっ!」
目をつむりながらブンブンとやけくそに振り回す。
すると……
ポコッ!
「ん? 何かに当たったみたい?」
小さな手ごたえを感じて、恐る恐る目を開けてみる。
「あれ?」
そこには、私を襲ってきたクマみたいなものはいなかった。
代わりに、
「へっ?」
代わりにあったのは、上半身が無く、腰から下の下半身だけを残して、血飛沫を上げる
「……………うん」
吹き出る血飛沫を全身に浴びながら、スクと立ち上がる。
「……………うん」
そして、トコトコと被害が及ばない場所まで歩き、全身を見てみる。
「うん。大丈夫みたい…… なんだけど――」
あんなに浴びたクマの体液は、私の姿を汚していなかった。
これもメルウちゃん特製の装備のお陰なんだと思う。
『強かったなら』
そして唐突に、最後の自分の願いの一つを思い出した。
メルウちゃんが叶えてくれたっていう、4つの内のあの願いを。
『あんのぉっ! 幼女女神っ! 大雑把過ぎるでしょっ!』
私が夢中で杖を振り回して「ポコッ」と当たっただけで、大きなクマの上半身が吹き飛ぶ程のクリティカルって、一体どんな威力なのっ!
そんな私の叫びは森の中に響くことはなかった。
なぜなら今回は心の中だけで叫んだからだ。
だって、またクマきたらイヤだもん。
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