魔法少女を願ったら、異世界最強の魔法使い幼女になっちゃった?~女神の願いとドラゴンの幼女[達]~

べるの

エンシェントドラゴン討伐編

第1話女神の対応に不満です



「待て――――――――っ!!!!」



 私は走る。全速力で走る。

 大声を上げて走る私に、振り返る人たちなど気にしないで走る。


 前を走るそいつは、私を気にしながらも、横断歩道橋の階段を二段飛ばしで駆けあがっていく。

 その度に、そいつが持っている私のカバンが前後に揺れている。



 そう、私のカバンを持って、私の前を走っているのはひったくり犯だ。



「ちょっとぉ! お願いだから返してよぉっ!」



 カバンを掴まれた時に必死に抵抗したけど、男女の腕力の差で奪われてしまった。


 あれだけは、あのカバンのだけは見られてはいけない!


『く~~っ!』


 私も階段を二段飛びで駆けあがり、カバンを奪ったそいつを追走する。

 これでも学生時代は陸上部のエースだったんだ!



 腕力で負けても、私にはこの脚力がある!

 絶対に追いつける!



 カバンを奪った少年は、階段を駆け上がって通路の直線を走っていく。


「よしっ!」


 直線になれば、一気に加速して追いついてやるっ!


 私も直線に差し掛かり更にスピードを上げるっ!

 

 ―――――筈だった。


 ガンッ


 私は歩道橋の手すりに足がもつれて体をぶつける。



『って、あれれ?』



 陸上部のエースだった輝かしい時代は、もうの話だ。


 気持ちが急いても、足腰はとうに限界だった。


「あっ!」


 そしてそのまま、私は手すりを乗り越えて空中に身を躍らせた。

 歩道橋の下はひっきりなしに車が走っている。



『も、もしかして私はこのまま死ぬのっ!?』



 そうしたら――――――



 きっとあのカバンの中味をひったくり少年は見てしまう。

 そして、直に少年は捕まって、被害者の持ち物が公表されてしまう。

 私の顔写真と、ニュースのインタビューに答える家族が全国公開されてしまう。



 それだけは絶対避けたかったのに……



 でもそれは叶わない。

 私はこのまま車に引かれてこの世界からいなくなるからだ。

 だから私の願いは届かない。



『――――――』

 全てを諦めて目を閉じる。



 私がもっと『若かったら』私がもっと『強かったなら』私が好きな『魔法少女だったら』きっと『取り戻せる』筈なんだ――――



『わかりましたの。その願い叶えちゃうの』



 そんな少女だか幼女だかの、独特の甲高い声を最後に私は意識を失った。






「ええっ! 地球ではひらひらした衣装の女の子同士で○○しちゃうのが流行っているのっ!? キャーッ!!」


 ガバッ!


 そんな素っ頓狂な甲高い叫び声で、私は目を覚ました。



「こ、ここは…………知らない天じょ!?」

(ねえ、ねえ)


 お決まりのセリフを言おうとしたが、天井が見えなかった。

 ただただ真っ白だった。


「やっぱり、死んじゃったんだね、わたし――――」

(ちょっと、ちょっと、お姉さん)


 どうみてもここは、この世ではなくあの世だろう。

 この白い空間は。



「うううっ悔しいよぉー! あのひったくり少年めっ!」

(聞こえてる? ねえ)


「でもどうしよう、わたしのせいで家族が、もしかしたら友達も…………ううっ」

(ねえー、無視しないでなの。○○好きなお姉さん)


「って、もう、うるっさいなさっきからぁ! 聞こえてるよっ! 少しくらい死んだ人の空気読んでもいいんじゃないの? 色々ショックなんだよ、死んじゃうってさぁっ! あなただって一度死んでみれ―――― ば?」



「はい、これ。お姉さんのものなの」


 と言って、私が取り戻したかったブツをホイって渡してくる。

 それを見て言葉を止める。



「え? あ、ありがとう。あの~ そのぉ」

「お姉さんは、が好きなの?」

「………………み、見たの?」

「え、見ちゃったの」

「よくも見たなぁ――――――っ!!」

「え? きゃあっ!」


 ブツを見られた羞恥で、白い幼女に飛び掛かる。


 その中味は私が書いた同人誌だ。しかも薄い本。

 私が好きな魔法少女たちが系だ。



「ちょっ、やめてなのっ! 取り戻してあげたのに酷いよー! それにいくらお姉さんが○○好きだからって、でこんな事間違ってるの――――っ!」


 白い少女は、ジタバタと私の腕の中で暴れる。


『んっ?』

 それよりも

 て、何?



 私は不穏な空気を感じて、一度白い幼女から身を剥がす。


 そして私は自分を確認する。



 素っ裸だった。一糸まとわぬ全裸だった。


『へっ?』

 そして視線を落として見える、手も、足も、胸も、細く小さくなっていた。



「いやあぁぁぁぁぁぁっっ――――――! む、胸がぁっ! ボインボインの自慢の私の胸が、いったい何処にぃっ!」



 自分の状況に耐え切れずに絶叫をまき散らす。

 ペタペタと、そこにあった、豊満なものを探すが何処にもなかった。



「なんでぇ~っ!!」

「無かったの」


 ピタッ


「お姉さん、最初から無かったの。

「え、あったでしょ?」

「ううん、無かったの。間違いないの」

「す、少しは?」


 人差し指と親指で隙間を開けて「これくらいはあったよね?」と少女に見せる。


「うん、今の姿とあまり変わらないの」

「……………………」


 そう無慈悲に告げられた。

 それは言い過ぎだろう。最低でもAランクはあったよ。



「う、うそでしょう? だって、今のわたしは…………」



 少女というより、幼女に近い姿になっているのだから。

 そしていたる所がまっ平だった。てか幼女だった。



 私は自分の姿に絶望をする。


 ――――なんで、どうして子供なんかに?

 私は皆になんて説明すればいいの? そもそも私は生きてるの?



「お姉さん、お姉さん、わたちはお姉さんの『最後の願い』を叶えたんだから、今度はわたちのお願いを聞いてなの」


 白い幼女、白いヒラヒラしたワンピースを着ている私好み―――― おっと、金色の髪の幼女は私にそう言った。


「…………『願い』って何? わたしまだ願い言ってないよね?」


 そう、私は歩道橋から落ちて、目が覚めたらこの幼女がいたんだ。

 願いを言った記憶はない。



「え、お姉さんよ? 『若かったら』『強かったなら』『魔法少女だったら』『取り戻せた』て言ってたの。5つの願いの4つも使っちゃったの」


 白い幼女は、腰に手を当てて「うんうん言ってたの。確かなの」と思い出すように目を閉じて話す。



「えっ! ちょっと待ってっ! やっぱり、わたしはあのまま死んじゃった…… ん…… だよ…… ね………… でも…………」


 これって、ある意味生き返りだよね?

 ナイスバディーな私はいなくなったけど、それはこれから成長すれば大丈夫だし。



「そうだよ、お姉さんは死んじゃったんだ。でもお姉さんの強い思いがあったから、わたちが見付けたの。それでお姉さんの願いを叶えたの」


「そ、それじゃっ! 最後の願いの一個でわたしを元の世界に戻してくれるっ! まだ一個あるんだよねっ!」

 

 そう、この白い幼女は『5つの願いの4つも使った』て言ってた。

 ならまだ一個余ってるはずだっ!



「え――無理なの。だってお姉さんは、全身轢かれて死んだことになってるの。それに、その事を無くす力なんて、わたちにはないの。そこまでの事象は曲げられないの。それに願いが弱すぎるの」

「………………」


 まぁ、そんなにうまくはいかないよね?

 まだ姿形があって生き返らせてくれたんだから感謝しなきゃダメだよね。



「うん、わかった生き返らせてくれてありがとうございます。それで、なんでわたしは子供なの?」


 そう、それが疑問に思っていた。

 なんで子供、しかも幼女なんだろうって。



「え、だってお姉さんの願いで『若かったら』てあったよ? だからなの」

「えっ?」


 あっ! 確かに、ひったくり少年を追いかけて手すりから落ちた時、もっと『若かったら』て思ってたんだ。


 だって若かった時代の陸上部のエースの私だったら、少年を捕まえる事ができた筈だから。



 にしても――――



「ちょっと若すぎない?」


 感謝も忘れて、白い幼女をジト目で見る。



「えっ! に、人間の短い寿命なんて、うまくコントロールできないの! わたちが未熟なせいじゃないの!」


 わたわたと小さい手を振って言い訳をしているようにも見える。


「――――――」


 これ絶対にこの幼女がミスってるよね?

 やらかしてるよね?


 はぁもういいやっ。次に行こう。

 これでも命の恩人なんだから。



「それで、わたしは何をすればいいの? ええと――――」


 この幼女の名前を聞いてないことを思い出し口ごもる。


「わたちは『メルウ』一応女神の一人なの」

「女神っ!?」


 おお、やっぱり女神さんだっ!

 可愛くて、そして神々しく見えるかもっ!



「お姉さんは、これから違う世界に行って欲しいの。そこでわたちの、じゃなくて『わたちたち5人の』お願いを一つずつ叶えて欲しいの」


「ね、願いっ?」


 えっ! 5人!? しかも一人一個?



「そ、そんな女神さまたちのお願いが、わ、わたしになんて叶えられる事ができるの?」

「わたちたち女神はあまり世界に干渉できないから、お姉さんにしか頼めないの。お姉さんでもできる難しいお願いじゃないと思うの。だって最初の一つは――――」


 そう言って、女神幼じゃなくて、女神メルウは人差し指を立てて、



「その世界最強の『エンシェントドラゴン』を倒して欲しいの」



「へっ、ええええええええっっっっ!!!!」



 さらりと、そんなトンデモない事を言った。


 はぁっ! いきなり難易度が高過ぎでしょうっ!

 こっちは、ただの幼女だよっ!!



「あ、お姉さんは、あまり心配しないで大丈夫なの。だって最後のお願いの中に『魔法少女だったら』てあったから、お姉さんは魔法少女なの」


「え、そんな事まで叶えてくれたの!?」


 さ、さすが女神様っ!

 見た目は幼女だけど、凄い力を持っていた。



「わ、わたしが『魔法少女』になれるんだ…… 子供の頃から大好きだった…………」


 未熟女神のせいで、幼女になったけどそれはもう些細な事だ。



「それじゃ、その世界に送るね。あ、わたちとは連絡ができるから、何かあった時は頭の中で呼んでみてなの。出れない時もあるけど」


「ちょ、ちょっと待ってメルウちゃんっ! わたし素っ裸なんだけどっ!」


 だんだんと私の体が薄くなっていく。



「それも大丈夫なの。女神特製の『魔法使少女』の衣装をサービスするのっ! それじゃお願いなのっ!」



※※   



「ここは………………」


 そうして私は白い部屋から、黒い外の世界に移動していた。

 ここは、多分夜の森の中だろう。



 外の世界に着いた私はわくわくしながら自分の姿を確認する事にした。


 魔法少女ー♪ 魔法少女ー♪ 憧れの『魔法少女』♪



「って、何!? これぇ―――――っ!」



 夜の森に私の悲鳴が木霊する。



 そこには、ダブダブのピンクのローブに、三角の長い帽子。そして杖。

 ローブなんて引きずる程に長く、袖は20センチ以上も余っている。

 杖も私の身長を超えている。


 どこからどう見ても、私の憧れの魔法少女ではなかった。

 ただサイズの合わないローブを纏った幼女だった。



「あ、あの、、適当すぎるでしょうっ!」



 そんなこんなで、この世界での私の第二の人生が始まるのだった。



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