第8話 爆弾の作り方



爆発に巻き込まれて僕は死んだ。




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僕の名前は伊井鈴。友人からはスズと呼ばれていた。


25歳、フリーター。


子どもの頃は、周りからお調子者と呼ばれたこともあったな。そうは思わないけど。


人生で重要なことは、長いものには巻かれろということ。


周りと同じ方に向かえば、失敗も少ないだろ?


その失敗は、僕だけの失敗じゃないし。


親に従って、教師の指示を守って。


友達の顔色を窺って、上司の命令は絶対で。


分からないものは分かったふり。


やりたくないことも、周りに合わせてやってきた。


そんな状況について深く考えちゃダメだ。穴に落ちれば這い上がることは難しいから。


普通の人生、普通の生活、常識や価値観。疑うな。


そういった類のものをなぞる様に生きれば、僕はきっと幸せになれるし、そうしてやっと僕は、一般人でい続けられる。


気がしてた。



一般人ってなんだ?



情熱なんて燃やしたのは何時が最後だろう。というより、そんなもの、あっただろうか。


ビルのエントランスから見える夕焼けに触れて、心の奥に溜まった燃えカスは時々赤くなる。


それさえも、血液と人混みの濁流に消されてゆく。


そうして、毎日、少しずつ、少しずつ、死んでゆく。


幸せってなんだっけ。毎日神経すり減らして、休みの日はひたすら寝て……これって一般的なのかな?


今は未だ死にたくないから、生きているだけ。


そんな平凡な日々を続けてどうなった?


どうにもならなかったんだ。


やがて、僕は社会を抜けた。


理由は何だったか。


役立たずと罵られたこと?居ても居なくても同じだと言われたこと?


そう言われる痛みに慣れなかったこと?


毎日を同じ繰り返しの中で、刺激が足りなかった?


将来に対する漠然とした不安?




いや、そんなのは些細なことだったのかもしれない。


僕を追い込んでいたのは、何もしなかった昨日の僕。


変わらない日常にあぐらをかいて、自分の意志を放棄して、


未来づくりを怠った間抜け。


空っぽな日々の積み重なりは山となって、僕の背中を、頭を、体全体を覆って。


何も持っていないハズなのに、どうしてこうも体が重いんだろう?


僕は今まで、何がしたかったんだろう。


僕は一体、何がしたいんだろう。


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慢性的な頭痛に苛まれていたある日、僕はベッドから起き上がれなくなった。


その日はなんとか休んだが、ベッドから這い出ても、ドアノブを握ると吐き気がした。


僕は社会不適合者になった。



1年半勤めた仕事を辞めてやった。少しすっきりした。けど心の曇りが晴れたわけじゃない。


最初の1か月は殆ど家から出ずに、ぼぅとして過ごした。全く気力が湧いてこなかったから。


やがて、月末になって、家賃や生活費で貯金が一気に減って危機感を覚えた。


保険が下りるのはまだまだ先だ。


なんとか、日雇いに応募して、その場を凌ぐ……ことなんてできなかった。


生活は黒字にはならない。


使い道が無く貯まっていた通帳の残高は徐々に減っていった。


実家に帰るか?家族にはまだ仕事を辞めたことを伝えてはいない。彼らは迎えてくれるだろうか。


怒られるだろうか。しっかりしなさいって。いい大人なんだからって。


そしたら、僕はまた、一般人に戻れる。


一般人って誰だ?


僕は一体、何がしたいんだろう。


結局分からない。


何も良いビジョンが見えない。悪いことばかりが頭を埋める。


そんな時、テレビで爆破テロ事件のニュースが報じられた。


海外の話だけど、結構大きな事件だったので、掲示板でもそこそこ盛り上がった。


その最中、爆弾を作り方を紹介するスレが建った。


スグに落ちてしまったが、意外と簡単に作れるんだと思った。


部屋を漁ってみると、材料になりそうなものがいくつか見つかった。


トイレ用洗剤。コーヒーフィルター。乾電池。


ただ、全然足りない。これだけじゃできない。


でも気になる。


だから僕は爆弾を作ることを決めた。


作って何になるのか。そんなことはどうだってよかった。


ただ、「やってみよう」って思ったから、最期までやろうとしただけ。


独り部屋に籠って、爆弾を作る。


こんなに集中したのは何時ぶりだろう。


作り始めて1か月で、それっぽいものができた。


お手製の瓶詰爆弾。


本当に爆発するんだろうか?


不発の可能性の方が高いんじゃなかろうか。


僕は爆弾を作って、それで……


作ったからには、使ってやらないと。


こいつは爆発するために生まれたんだから。


僕は社会に復讐してやろうとは思わない。


社会は僕に何もしていないから、そんな理由もないし。


でも「こんなんじゃない」って言う社会に対する嫉妬と劣等感は常に抱いている。


そんな僕の薄っぺらなアイデンティティ。


僕はなんの為に生まれたんだろう?


だから、そんな自分をぶっ壊してやろう。最期の最後に、粉々にしてやろう。


そして、願わくは、少しでも、僕がいたことを知らしめてやろう。


そしたら、僕が生まれた意味もあったのかな。


そんな思いで、駅に向かう。きっとニュースになる。


駅に着くと、沢山の人、人、人。


彼らにはきっと、それぞれ自分だけの目的地があるんだろう。電車に乗ってどこへ行くんだろう。


僕はこれから、死に向かう。


何故だろう。何もできなかった人生なのに、こんなことはできるなんて、



馬鹿みたいだな。



息が詰まる。呼吸は乱れっぱなし。


そうして一旦、気持ちを落ち着かせるために入ったトイレ。


今は、誰もいないみたいだ。


さっきぶつかった人で最後。今なら誰も巻き込まない。


そんなこと考えても意味ないんだけどな。


最期の最後まで僕は馬鹿だったな。笑えない。


もう引き返せないところまで来てしまった男の、


意味なく流され、理由なく狂った人生の哀れな末路。


自分を殺す。ありのままの自分を殺す。


鈍い光、薬品の匂い。



熱さ。


冷たさ。


痛さ。


音の速さで体を突き抜ける。



死は一瞬だ。


僕は僕を殺した。立派な人殺しだ。


結局、僕は何がしたかったんだろう。


意味もなく生きてきて、意味もなく死んでいく。


僕は何の為に……




そんな時、神様に出会ったんだ。




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タイガが死んだことだって、きっと罰なのかもしれない。


人の生死を決めるのは、神の役割だから。


自分を殺した僕は神の領域を侵したことになる。


だから、神の言っていた『野蛮人』は僕のことだ。


ここは、僕を罰する為の世界で、贖罪の為の世界。


奇跡的に出会った希望が、流れ星のように砕け散ったのは、僕が許されない存在だから。


生きることから逃げたものは、自らの望む一切に逃げられる。


何も言わずに、何も言えずに。


だとしたら、僕はこの世界で、何をすべきなのか。


神様の言うことには具体性ってものがない。



目の前に横たわるタイガの死体。


首筋が赤く腫れて、固まっている。


何でこの子が死なないといけなかったんだろう。


ようやく夢を生きる決意ができたのに。



僕がすべきこと。


僕がやりたいこと。


この世界は僕から希望を奪った。


だったら、今度は理由があるじゃないか。復讐の理由。


罪も罰も背負ってやるよ。どうせ元から罪人だ。


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図書室1階、扉付近の壁は崩れ、床には小さなクレーターができていた。


3つ死体は全身が焼け爛れており、そのうちの一つは最早原型を留めていない。


近づくと生焼けた血肉の嫌な匂いが鼻をつく。


そこに、脚を引きずりながら、マタイが背にハンナを担いで現れた。


「遅い」そう言うルカの声は低く、苛々している。


「うっせぇ。相手も軍人だ。……あとお前らがどこいるかなんて知るか!探したんだぞ!」


マタイも戦いで神経がすり減っているようだ。フーッと鼻息を荒くする。


しかし、屍となったタイガの姿を見ると、息を呑む。「……どうした?何があった?こりゃあ……」


マルコが事の顛末を語ると、彼は肩を落とし、深い溜息を吐いた。「……そうか。まぁ、しょうがねぇ。あっちも殺す気だ。……ざっと宮殿内を見たが、衛兵や使用人の死体がいくつかあったぜ」


そう言いながら、マタイはハンナを地面に下ろす。彼女は体が痛むのか、眉間にしわを寄せる。


「……そうか」シモンが額に手を当て、上を向く。部下と民を失い、遣る瀬無さを感じているのだろうか。


「大将首を取られなかっただけでこっちの勝ちだ」マタイがシモンの肩を叩く「王様なら分かんだろ」


王とは、人の上に立つ者とは、常に全体を善くする為に存在する。


成功も失敗もすべて呑み込んで、常に未来を善くする為に存在する。


いづれ、完全な王になるシモンにとって、個人的な感傷に浸る暇はない。


シモンもそれは存分に承知している。ゆっくりと深呼吸。息を吐く。


「……マタイ!マルコと共に、他にもまだ敵がいないか見に行ってくれ」


シモンが命令を下す。今、行うべきは確固たる安全の確保。先ほどのようなヘマはしてはならない。


「兄さんは?」マルコが訊ねると、「ここにいる。足手まといになるだけだ」と断る。


「それに、そろそろ来るだろう」


そういうシモンに疑問符を浮かべながらも、マタイは頷く。そして、タイガの傍で膝を抱えているスズに目をやる。「そういや、スズは?死んでんのか?」


マルコは即座にマタイの後頭部に拳を喰らわせる。「面白くないよ。マタイ」


「ってぇ……しゃあねぇか。ダチが死んだんだ」


その言葉に、スズの身体がピクッと反応する。


しかし、それに気づく者はおらず、2人の男は、部屋を後にした。


「さて、シモン。どうする?」ルカが腰に手を当てながら訊くと、シモンは腕を組んで一考する。


「……まぁ、多少の横やりは入ったが、こちらのは生きている。計画は依然、順調だ。しかし……これだけの騒ぎだ……市民にどう説明する必要があるかな……」


呟くように答えると、彼はぐるぐるとその場を歩き回る。


ルカはそんな彼を見ながら、浅く息を吐く。


その時だった。後ろの方から、死にそうな声。「ルカ……」


声の元はスズだった。感情に押しつぶされそうになりながら、必死でひねり出したような音。


ルカは彼を見下ろしながら答える。「どうかしたの?」


「……す」スズは地面に顔を向けながら、繰り返す。「僕も……連れてって……ほしい」微かに震えた声。


ルカは膝を曲げて、スズの目をじっと見て、言った。「……何をするの?」



「……国を、殺す」


そう言ったスズの瞳は、都会の夜空のように真っ黒だ。


そして、それを耳にしたルカの瞳が都会の夜景のように輝く。


彼女は子どものように、にんまりと笑う。「そう。そう言ってくれるなら、私は何時だって歓迎」


彼女は腰を上げると、悩み中のシモンの肩を強く掴む。


「シモン!作戦が少し変わった!ちょっと聞いて!」


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「おう。帰ったぞ……人が増えたな」


マタイが足に包帯を巻いて戻って来ると、マルコが呼んだのだろうか、十数名の男が戦闘によって滅茶苦茶になった部屋の後始末をしていた。


転がっている死体の上には布がかけられ、瓦礫や灰は一か所にまとめられている。


「そちらの女性の亡骸は丁重に扱うように」


衛兵達に指示を出していたマルコがマタイに気づく。「ああ、マタイ。遅かったね」


「ありゃ?他の奴らは?」


「ああ、兄さんの書斎に移動したよ」


「ハンナとスズは?」


「ハンナは僕が着いた時にはもう起きてたよ。スズは……多分、大丈夫なんじゃないかな?」


「お?……ま、いいや。じゃ、俺たちも行こうぜ」


マルコは頷くと、衛兵の一人を呼び寄せて何か指示し、廊下まで出てくる。「書斎はこっちだよ」


王宮の中は、戦闘があった部屋や廊下以外は荘厳な雰囲気を崩していない。


煌びやかな装飾、廊下に敷かれたカーペットは、ここが王の住居であると思い出される。


「そういや、お前の兄、戦闘とかは出来ねぇのか?」


仲間の元に向かう途中、マタイが何とはなしに訊ねる。


「ああ、兄さんは才能無いからね。剣も魔法も」


「政治が得意なタイプって奴か。よく死ななかったな」


「いつもは優秀な護衛役がいるんだよ。二人。今日は居なかったみたいだけど……あ、ここだよ」


そう言ってマルコは扉を叩くと、中からシモンが入ってこいと答える。


「ふぅん。護衛役ねぇ」


ガシャアアンッ!!


マタイが扉を押して開いたその瞬間、後ろから窓ガラスの割れる音。


「お坊ちゃまぁぁあぁぁぁぁぁっぁぁ!!!」


「シモン様あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


屈強な男が二人。ガラスをぶち破って現れると、マタイを押しのけてそのままシモンの眼前で跪いた。


「ぬぁッ!なんだ!?」度肝を抜かれたマタイの声は、二人の叫びにかき消される。


「おお、ガラーノ!レオン!待っておったぞ!」


レオンと呼ばれた老人は、被っていた異様にツバの長いシルクハットを取ると「お怪我はありませんでしたか、シモン様!」と身体の安否を訊ねる。


シモンは問題ないと一言で返す。


「我々が留守の間にィ皇帝の犬っコロが!どこまでも卑劣!」


もう一人のスキンヘッドの老人は敵の強襲に憤慨し、隆々の筋肉をさらに太くさせる。


「これは、皇帝が裏で糸を引いてる可能性がありますぞ!」


男がそう言うと、シモンは顔を歪ませて噴き出した。


「ハッハッ!あのが!?私に!?……フッフ」シモンは笑いを抑えてながら続ける。「ありえんよ。ま、皇帝信者の盲信、愛国主義者の暴走といった所だろう」


「……博愛主義者たぁ皮肉ですな」


帽子の男も、顎髭を撫でながら鼻で笑う。


そこにマタイが割って入る。「ちょいちょい。理解が追っ付かねぇんだけど?」


「おお、そうだ!紹介しよう!この二人こそ、我が忠実なる双盾!聖ノヴ王家親衛隊隊長ガラーノ!元ノヴ=サンカ騎士団団長レオン!」


シモンは嬉々として二人の名前を叫ぶ。よほど自慢のできる部下なのだろう。


二人の老人もいつの間にかシモンの両脇に立って腕を組んでいる。


呆気にとられているマタイに、マルコが「さっき話した護衛役だよ」と耳打ち。


「おう、お前が東国騎士団の……。ほう。なかなかいい体してんなぁ」髭の男が目に皺を寄せてマタイを見る。「やっぱり東の奴らはイイ。昔っから鍛え方が違う。先の戦もそうだったなぁ…」ねっとりと過去を思いだしながらににやけ顔で話す彼の声に、マタイは「こりゃどうも。侵略者さんよ」と吐き捨てるように返す。


「侵略者とは人聞きの悪い。我々だってあの時は既に被支配者だったんだ」とレオンは引き笑い。


先の戦、とは帝国による東国侵略作戦のことである。数十年前、帝国が北国全域を完全に服属させ、南国を支配下に置くと、続いて東国へと触手を伸ばした。


この戦争の戦力の大部分は帝国軍ではなく、従属国となったノヴの騎士団であった。


「今は歴史の話は置いておけ。それに、彼は協力者だ。煽るようなことはするな」シモンが止めると、老人は「っと。失礼しましたシモン様」と引き下がる。


マルコが小さな声で「ごめん」と謝ると、マタイは「ま、あの年代のジジイならしゃあなし。なんせ、今はだからな」とマルコの腰を強く叩く。やはり少しはムカついていたようだ。


「シモン様。東国騎士団の男の話は我々も聞いております。ですが、一人……多いようですな」スキンヘッドの老人が訝し気に訊ねる。「これは?」そう言って、彼はスズを指さす。


「彼は……ルカの隠し玉、とでも言っておこうか……いや、私もつい先ほど、詳しい話を聞いたばかりでな」シモンが口を手で隠しながら答える。頬にうっすらと汗。


「!?あんなモヤシみたいな奴がですか!?」


「どういう事だ?ルカ!?」マルコがシモンの奥でソファに座っているルカの名前を呼ぶ。呼ばれた彼女は、膝の上でハンナを寝かしている。


「彼の名前はスズ。、快く参加してくれることになったの、ねぇ?」


彼女は目の前に座っているスズを見ず、ハンナの髪を撫でながら答える。


彼女の言葉にスズは「ええ」と頷く。「一緒に戦わせてもらいます」そう言って、彼はマルコ達の方に顔を向ける。


マルコは口を噤んだ。スズが、自分の意志で、この闘争への参加を決めてしまったことが、分かったからだ。


「……で?何かできんのか?そんな貧相な成りで」レオンがソファの肘掛けに腰を下ろす。


「モチロン」ルカはそう言ってスズに目をやる。


「……『壊れない』んです。この体。殴られようと、斬られようと、焼かれようと…」


「……ほぉ、そりゃあホントだったらすごいこった」そう感嘆する老人の目は笑っていない。全く以て、一片たりとも信じていないのだろう。


「坊ちゃま。信じるのですか?」


「信じるも何も。私は見たからな。ルカの『爆裂魔法』を受けて無傷の彼を」


「……んな、バカな……」


そのやり取りを見ていたスズは、おもむろに立ち上がる。「信じられないなら、やって見た方が早い」


そう言って、ハンナが腰に備えてあるナイフを一本取って、柄をガラーノに差し出す。それを見て、もう一人の老人が噴き出した。

「っは!ガラーノ、!どうする?」


「……やるわけが無かろう。シモン様が『見た』と仰せられたのだ。ならば私はそのお言葉を信じるだけだ」


ガラーノは目を細める。眉毛は剃られている為、威圧感がある表情だ。「スズ、と言ったな。『死なぬ体』を持っているとはいえ……このような事は二度とするなよ。不愉快だ」


その目には怒りは無く、哀れみに満ちていた。


「……分かりました」反省するわけでもなく、スズはナイフを自分の懐にしまう。「自分のことを分かって頂けるなら、十分です」


レオンは「がっかりだな」と言わんばかりに肩を落とす。「……まァ、不死身ってのがホントなら、良い戦力になるさ。で?ルカ嬢。コレ、どう使う?」


「単純、スズは私の爆弾。彼の背中には術式が刻んである。私が唱えれば、何時でも何処でも、ドカン。どう?便利でしょ?」


ジェスチャーを交えながらルカが説明をすると、「ずいぶんとまぁ、大雑把な使い方だこと。ま、陽動にはなるかぁ?」とルカの肩に手を置き、馬鹿にしたように笑う。


「はぁ?ジジィ!アンタまたいちゃもんばっかり!」ルカが肩に置かれた手を強く振り払う。


「俺は正直者だからよ、思ったことは言っちまうのよ」


「はぁ?」ルカが顔を近づけて火花を散らす。しかしガラーノは同僚の襟を掴んで、無理やり立たせた。


「っ痛!」レオンは咳き込むが、彼はそれを無視。「レオン。ルカ。やめろ。我々は言い合いをする為に集まったのではない。シモン様……例の件ですが」


「ああ、既に聞いているぞ。……遂に戦争が始まるのか」


「は、帝国本隊、予定通り、西方侵略コンキスタへと発つと」ガラーノは荷物の中から、一枚の書状を取り出す。「こちら、皇帝からの招集状でございます」


招集状を受け取ったシモンは、書面を読み進めると、笑いがこみ上げてきた。「フフ…ハハ、ハッハッ!そうか!そうか!ガラーノ!大義である!」


「身に余る光栄でございます。シモン様!」主君に労をねぎらわれ、ガラーノは顔を赤くしながら敬礼。まるで針金が通っているかのように背筋が真っすぐに伸びている。


「して!我が騎士団はどうだ!?レオン!」


「もう整ってるよ。サンカの主力だけなら明日でも出られる。他都市の方は……大丈夫だろ。なんせ皇帝陛下直々の命令だからな」


白髪の老騎士は、再びソファの肘掛けに座り、煙草を呑んでいる。


「上出来だ!十二分にだレオン!!弟からの報告は先ほど聞いた!我が一族の復讐クーデターの邪魔になりそうな芽は全て摘んだと!その最後の一人、親帝国派ナイト東国の主戦力ナイト目障りな騎士団ナイト、その頭、仇敵・アンダルスの首を獲った」


その言葉にレオンは驚き、目が大きく開く。「まさか、ホントに殺したのか……アイツが戦で死ぬとは」


「俺が殺した。救国の英雄も、今じゃ耄碌ジジィだ」マタイがニヤつきながらレオンを煽る。レオンの口がへの字に曲がる。「でも、いいのか?俺ら騎士団皆殺しにすりゃカンタンな話じゃねぇか?」


マタイの言葉に、シモンはキョトンとする。「?壊滅の必要はない。理由も意味もない。我々は東国を再び侵略するつもりはないのだから。故に、頭さえ落せば良いのだ。」シモンは口を歪ませて続ける。「フフ……なんせ、ほら、挿げ替えるには時間がかかる」


なぁ?と同意を求めるようにシモンはマルコを見る。マルコは目を閉じて、ゆっくりと頷く。「こちらとしては僅かな時間さえあればよい。壊れるのは一瞬だ。何事も……。マルコ!」


「はいはい」マルコは既に兄の言わんとしていることが分かっているようで、適当に返事をする。


「お前達には明日、バルパへと向かってもらう!解放軍レジスタンスと合流する為だ!」


「さぁ!我らの国を取り戻すぞレコンキスタだ!!」


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