第8話 小学校卒業

 休み明けの通学団は僕が先頭になった。

 ランドセルには、「班長カバー」をきっちりと歪みなく取り付けた。


 耳が聞こえないから視線を上げなければいけなくなった。今までのように、電信柱を数えながら、最後尾で通学するのんきな事はできなくなったのだ。

 

 久しぶりの通学に緊張感で張り詰めた空気が流れていた。低学年の男子一人はまだ休み続けていた。僕は下級生たちに面白い事を言ったりすることもできない、無能な班長として、付き添いの先生の横に並び、小学校まで形ばかりのその役を果たすだけだった。


 それからの数か月はすぐに過ぎた。

 誰も事故の事は話さないし、亡くなった子供の思い出を語ったりもしなかった。やらなければならない事をやり、言われた通りに動いていた。悲しんだりしているような時間は無いように思えた。何もしない。それが一番良い事だった。

 

 決まっていた年行事は粛々と行われた。運動会も学芸会も、予定通りだった。終わってみれば、毎年と変わらない調子で、問題はなく過ぎて行った。

 

 卒業式は、事故から八か月後だった。

 僕は、校長先生が口をパクパクしていた事しか分からなかった。

 

 卒業式前日に、中川先生が【立つ時と、座る時の合図は送ってあげるからね】と約束してくれた。そのお陰で式典は無事に終わった。


 最後の教室で、中川先生が何を話したのか分からず、誰も僕には教えてはくれなかった。先生は何度も涙を拭いていた。何故泣いていたのか、それも分からないままだ。クラスメートもみんな泣いていたが、さっぱり理解ができなかった。


 僕には泣くほどの事が何一つなかった、というだけではないような気がした。



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