第5話 葬儀

 翌朝、僕はいつもと同じ時間に起きた。

 学校へ行かなければと思っていた。


【しばらく、学校は休みなさい。お母さんも、仕事一週間お休みさせてもらうから】

 

 母からメモが手渡された。


 山森さんと低学年の三人が亡くなったことも同じくメモにより知らされた。事故を起こした運転手も亡くなったと教えてもらった。


 人の命が一度に複数消えた。直接被害には遭っていない母でさえ、大きなショックを受けていた。比較するのもおかしいが、母より僕、僕よりも、亡くなった子供たちの親の方が、ショックは大きいだろう。もっと考えれば、亡くなった命の持ち主が、最も大きな衝撃を受けたはずだ。


 数日後、山森さんの葬儀が行われた。

 

 母が【無理して参列しなくてもいいから】というメモをくれたが、僕は【行く】と短い返事を書いて渡した。

 

 山森さんの葬儀に同じ通学団の子は誰もいなかった。山森さんの両親は、僕と母に泣きながら何度も頭を下げた。


 僕は人に頭を下げられるような事を何もしていない。どうすればいいのか分からなかった。母が僕の肩をしっかりとつかんで離さなかった。そんな風に触れられたのは過去に記憶がなく、人前で恥ずかしく感じた。


 母の真似をしてお参りをした。気持ちなんて込められなかった。ただやる事をやっただけ。

 

 母の隣でお辞儀をして帰ろうとした時、山森さんのお母さんが立ち上がり、僕の両手を握りしめ強く揺さぶった。何か言っていたが聞こえなかった。恐らく、ありがとう、と言っていたのだと思う。

 

 山森さんのお母さんは泣きながらも少し笑った。優しい人に見えた。しかし僕は、お礼を言われるような事もしていない。

 

 通学団団長の山森さんを好きではなかったのだ。山森さんに傷つけられた事も、忘れてはいなかった。他の児童の事だって好きではなかった。


 世の中はおかしなことだらけだ。ここで涙を流している人達も、家に帰れば普通に食事をし、テレビを見て笑ったりするのだろう。翌日には、何事もなかったような日常を取り戻す。


 山森さんの家から帰ると、不思議な事に僕の手の震えはぴたっと止まった。

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