第9話、タイミング

「えーと‥‥確かに勇者って聞いたら怖そうなイメージだと思うけど、貴方みたいに現世で亡くなって転生の素質を持った人は皆勇者として活躍してるの。(一人を除いて)

それに貴方には強力なスキルもあるし大丈夫よ」


ステラがそう言うとリンカは俯いた。


「私、死んだんですね‥‥」


「あっ、えっと‥そうなんだけど‥‥死んだときのこと憶えてない?」


「‥‥はい。ただ‥‥その、外が‥‥外に出るのが怖いんです」


おそらく、亡くなったときのショックでそのときの記憶を脳が本能的に喪失させたのだろう。


記憶喪失ってやつ。

転生する人間の3割位はこういうことがある。

そういえばサクトもそうだった。


「外かぁ‥‥外は昔から怖かったの?」


「‥はい。人前に出るのが恥ずかしくて‥‥特に顔を見られるのが恥ずかしくて‥‥」


恥ずかしそうにモジモジするリンカ。


「えっ、もしかしてそのガスマスクって‥‥」


「恥ずかしいので、隠すために被ってます‥‥」


「いや、そっちの方が恥ずかしいだろ!!(でしょ!!)」


サクトとステラは同時にツッコんだ。


「マスクじゃダメなの?」


ステラがそう訊くとリンカはブンブンと頭を振った。


「残念ながら‥‥マスクじゃ全部隠せないです。

小学生のときに顔のことを言われてから、とにかく人に見られるのが恥ずかしくて‥‥」


「けど、どうしてもリンカさんのようなスキルを持った人には、外で困ってる人達を助けて欲しいの」


ステラが声を荒げて言うと、リンカの右手からパッとマシンガンが現れた。


「そうですよねー。外は危ないですもんね。

ここにずっと居ても良いんですよリンカさん。

いや、リンカ様」


「あっ、いや、違っ‥‥これは勝手に出てきたんです。別にそういう意味じゃ‥‥」


「ヒイィー、こっ‥‥こっち、こっちに銃口向けないで‥‥クッ‥靴、靴舐めるから」


「ヒイィー、いいです。いいですからーそんなの」


リンカとステラのそんな会話が聞こえてきた瞬間、パッと俺の視界にハァハァとリンカの靴に顔を近づけるステラの姿があった。


すごいタイミングでスキルの効果が切れたもんだ。おかげで気まずい雰囲気が部屋中に漂った。

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