この勇者、転生したけど女神の部屋から出ようとしません

第3話、じゃあここで暮らす

「っで‥何？俺は蘇ったの？」

俺が訊ねると、顔を赤くしてキーッと怒っていた幼女の姿がピタリと静止する。

「まあそうね。一応は転生して受肉も果たしてる筈よ。心臓も動いてるでしょ？」

そう言われ俺は自分の左胸に手を当てる。

ドクン、ドクンと鼓動を感じる。

「但し、貴方はもう自分の世界に帰ることは出来ないわ」

「‥‥なんで？」

「なんで？禁止！！」

あんたも懲りないわねって顔で指を指される。

いや、今のは普通に質問したんだが注意されてしまった。

「貴方はあっちの世界で一度死んだの。

だからこの事実を塗り替えることは出来ない。

もし、塗替えでもしたら貴方の世界は矛盾を生み出し破綻するでしょうね」

「破綻って言うと？」

「貴方の世界は崩壊するでしょうね」

「スケールがデカ過ぎて良く分からん」

きっぱりと言い切った俺を見て、幼女はハアっと溜め息をついた。

「まあ、そうでしょうね。

とにかく、そういう訳で貴方は転生したけど自分の世界には帰れない。

だから異世界に行きましょうって話な訳」

「まあ、そこまでは分かるが、なんで勇者になって魔王を倒さないといけないんだ？」

「簡単に説明すると、転生したときにこの天上界に存在するマナを身体が取り込み、その取り込んだ質量や性質で身体能力やスキルが常人の数倍も優れるの。

そんな人間にピッタリの仕事なんて勇者しかないじゃないってことで転生した人間はみんな強制的に勇者にしようって神様が決めたの」

「それで？」

「で、どうせ勇者になるなら異世界で悪さしてる魔王達をやっつける目標があった方が第二の人生も楽しく謳歌出来るんじゃないかって神様が」

‥‥‥‥‥‥。

「とりあえず神様殴っていいか？」

そう言って、俺は握りこぶしを作った。

「なっ、なんでよ？」

「異世界とかそんなコンビニとかどーせWi-Fiもないような訳分からんとこで、魔王と闘えとか絶対ムリだ」

「あー、もしかしてビビってる？

大丈夫、大丈夫。

最初はみんなそう言うけどすぐに慣れるから」

「家から出るのも深夜しかムリなのに異世界とかムリに決まってんだろ」

「じゃあ、どうすんのよ」

怒りを露わにしながらキッと睨む幼女に対して、俺は「じゃあ、ここで暮らす」と告げた。

俺がそう言うと幼女の目は点になった。