透明
舞台、二人並び立つ。光源はスポットライトのみ。
BGM――パガニーニの主題曲による狂詩曲―第十八変奏(Tの三つ目の台詞より流し始める)
M「偶に自分自身を見失う事があるんです」
T「自分の行くべき道がいつまでたっても見えません」
M「まるで、透明人間にでもなったような」
T「いつになったらこの道の先行きは透明になるのでしょうか」
M「その答えはいつまでも出ないかもしれません……」
T「しかし、人というものは不思議なもので、常人には理解できないような一瞬に運命を感じることさえあります。評価されない詩の羅列、笑うべきところで何故か涙が零れたあの舞台。それにどれだけの可能性が潜んでいるのか……人は成長すると忘れてしまうみたいです」
M「少なくとも……僕のそれはそんな物でした。一つのとある舞台の上の笑いに僕は涙してしまったのです。――これをそのまま作文に書けば、もしかしたら大人は言うでしょう。笑うところで人が泣くはずはありません、なんて。小論文ならば尚更です。文学は小論文には求められていないのです」
T「――しかし答えなんてウン百万とこの世に潜んでいる。実際に笑うべきところで泣いた、百人がダメと言った表現の意味を僕だけが理解した……いくらだってある。決められた一つだけの答えなんてない。それはまるで透明が様々な意味や姿を持つように」
M「それを彼から教わったような気がしています。――気がする、だけだけど」
数秒間を置く。
M・T「「敬愛なるK.Kに捧ぐ」」
Tのスポットライトのみ暗転
M「ありがとう。おかげで人生楽しいです」
少し間を置く
M「ちなみにこれは独り言……」
Mのスポットライトも暗転
BGMの音量を上げる
曲の盛り上がり(一分四十五秒辺り)を待ってから客席明転
場内アナウンス
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