企画用 ――『Uターン』

Uターン問答

 とある学校の生徒、TとMの会話。

 Tは先生の放った「Uターン」について疑問を覚えていた。


 * * *

 明転

 二人は座って授業を受けるような格好(観客席側が黒板である)


 T、Mの肩をとんとんと叩く

T「なあ、なあ」

M「待って。今、筆記体で忙しいから」

T「……何書いてんの?」

M「It…… oh car sea」

T「何書いてんの」

M「枕草子」

T「……ッ、そんな事よりさぁ!」

M「ああっ! 俺の清少納言が!!」

T「おい、M!」

M「Say Show Now Go On……」

T「My Heart Will Go Onみたいに言ってんじゃねえよ」

M「安らかに眠れ」

 Mの合掌をTが変な目で見つめる

M「で? 何だよ」

T「あのさ、今先生が『Uターン』っつったじゃん?」

M「ああ、翁丸がUターンしたとこ?」

T「……分かりづらいボケは止めような」

M「うん」

 M、にっこり

T「で! でよ」

M「うん」

T「俺、Uターンっておかしいと思うんだよね」

 少しの沈黙

M「う……うん? え? 今なんて?」

T「だから! 俺! Uターンっておかしいと思うんだよね!」

M「また難題ふっかけてきたなぁ」

T「な、な。お前はどう思うよ」

M「そもそもUターンってあれだろ? 行った道を『あ! 間違えたー』っつってぐるっと引き返してくるやつ」

T「そうそう」

M「だからこう、行って、くるっと帰ってくる『U』があってるって事なんじゃないの」

 M、空中に描きながら

T「そう思うか?」

M「だから、そう言ってるだろ?」

T「チッチッチッチッチ…」

 言い返すMにTがキザっぽく、ゆっくりと

M「なんか……地味にムカつくな」

T「果たして、小文字の『u』でもそう言えますか?」

M「……!」

 分かりやすく驚く

 Tはその反応にまんざらでもない様子

T「どうよあれ、帰るとか言っときながらこう、こっそり戻って来てんじゃねえか」

M「本当だ、見落としてた……! 小文字だからバレないとか思いやがって」

 T、Mの反応に満足するような表情

T「そう! しかもだな、よーっく考え直してみると我々は厳密にはUターンしていない」

M「どういう事だ?」

T「考えてもみろ! こんなにわざとらしく大袈裟にぐるーっと回ったりしないだろ!」

M「確かに……」

T「こう、目の前に魔王とかが現れたとするだろ?」

 腕を使って大袈裟に机上の劇をする

M「うん」

T「そしたら、こう、固まって、こう後ずさりするか、全力ダッシュで逃げるだろ。どっちにしたって直線的だ」

M「でも……こんなのはどうだ? その、こう全力で目標に向かってって、近付いてみたらああ人違いでした、みたいな。そしたら比較的スムーズに、こう、ぐるーっと回ると思うな」

T「そんなん、相手にめっちゃ怪しまれるじゃないか! ギャグ漫画とかコントじゃあるまいし」

M「コントだよ?」

T「そういうのは良いんだよ!」

 少し沈黙

M「じゃあ……何て呼べば良いんだ? あれなんだろ? 直線的なんだろ?」

T「そうだな」

M「Iアイターン?」

T「どっちの?」

M「大文字」

T「駄目だ、行きっぱなしだ」

M「じゃあ……あ、小文字rターンは!」

T「おお。それは中々いい線いってるな」

M「だろ?」

T「こう行って、ちゃんと真っ直ぐ折り返している」

M「うんうん」

T「ちょっと未練が残るこの振り返りも、また何とも言えない」

M「因みにその振り返りは様々に応用できて、この道曲がったら家とか、こっちの道は違ったから今度はこっちとか、看板が他のに混じってよく見えなかったけど今は深夜であんまり車通りも多くないからちゃっかり戻って入っちゃったドライブスルーとか」

T「おおっ! 様々使えるな!」

M「な! 様々使えるだろ! ――おおお、何だか知らんが、何か熱が入ってきたな。どうだろう、何とか広められないだろうか」

T「うーん……そうだなぁ。まず、手近に出来そうなのは……」

M「はいっ! 電波をジャック!」

T「出来ねえよ」

M「じゃあテレビ局を占領とか?」

T「そうじゃなくてぇ、もっと、その、俺達にも出来そうなの!」

M「えー? ……じゃあ仕方ないな、Yo○Tube位で良いよ」

T「最初からそれにしろよ」

M「で、で、どんな方法を取る」

T「そうだなぁ。こういう時は何と言っても実例! これに限る」

M「おお、例えばどんな風に?」

T「あー、えっと、こう、分かりやすいのが良いな」

M「分かりやすいの」

T「うん、まず! まず、歩いてた。そう、まず歩いてた」

 言いながら実際に立ち上がり足踏みをし出す。(歩く真似と分かれば良い)

M「それじゃあ分かりづらいな。もっと具体的なのない?」

T「具体的なの? うーん、じゃあ、勇者が森の中を歩いてた」

M「おお、分かりやすい」

T「悪い、大きな亀に城ごと姫を取られた勇者が遥か彼方の最初の森に吹っ飛ばされて、落ちてた毒毒しい見た目のキノコやら目の付いた木の実の力を借りながら城を目指す冒険の最中の話なんだけど」

M「何かどっかで聞いたことあるな」

T「あ、因みに勇者には双子の弟がいて」

M「それ以上は危ないっ!」

 M、立ち上がって制止。

T「で、話を戻すけど」

 この台詞でM、再び着席。

T「そしたら目の前に魔物――」

M「あ、先生」

 ここで目の前を凝視しながらTとM、静止

T「やっべ」

 逃げようとするが、すぐに腕を掴まれる(真似)

 M、弁解に入る

M「あ、あの、先生、これは違うんです」

T「そ、そうですよ! 俺達は日本語に革命を起こ――」

M「これはこいつが勝手に始めた事で」

T「えむうううううう! ……まあ、そうだけど」

 最後の台詞は腕を放されながら小さく

 Tが放される間にMが先生の言葉を聞いて少し驚く仕草

M「ハァ!? 小文字のrじゃ不十分!? 何を言うんですか! 美しき人の未練に何ケチ付けてんですか! ――え? 未練が残らない人はどうするかって?」

T「そんなの知るかよおぉぉぉおお!」

M「そ、それじゃあ先生は代替案があるんですかー!」

T「そうですよ! 未練が残らない人の分のUターン代替案はあるんですかあ!」

M「え?」

M,T「筆記体の小文字のlエルターン?」

T「いやそれは……長いし言い辛いかな」

 この台詞は時間をかけて

M「お前が言うな」


 暗転

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