第22話 物理トリック?

 次の日、休み時間にさくらの教室に向かった。


 北川は俺を見つけると目を大きくして驚いた。彼は窓際の後ろの席に座っていた。

 俺は近づいていくと、窓から外を眺めた。


「なんですか」と北川は声を震わし、身を引かせて言った。教室の中は突然の闖入者にざわついていた。俺は面倒なのでなにも言わなかった。


 もしかすれば、北川は“なにかしらの物理トリック”を使って、この窓から猫を殺したのではないか考えた。だが、それは有り得ないことだということは知っていた。推理小説の読みすぎだということも知っていた。念のため、調べることにしたのだ。

 しかしながら、これといって特別な景色ではなかった。トリックに使えそうなものはない。ただの一階からの景色だ。それに、この窓からあの渡り廊下は遠すぎる。やはり物理トリックは有り得ない。


 解っていたが、俺は舌を打った。すると北川はびくりと体を震わせた。


 俺は窓から離れると、教室を出ていった。

 廊下を歩いていると、誰かに声をかけられた。後ろを振り向いてみると、笹山ゆきがいた。


「どうしたんですか、先輩」

「いや、少しね」と俺は言った。「なんでもないんだ」

「そうですか……、またわたしに手伝えることがありましたら言ってください」

「ああ、そうするよ」

 俺はそう言うと前を向き直し歩き出した。これ以上話していると、また北川に怒られてしまう。

 のだが、もう一度呼び止められてしまった。


「どうした?」と俺は振り返り言った。

「さくらちゃんの様子は、どうでした」

「そうだな、調子は良くなってきているのかも知れない。あとは事件を解決するだけだ」

「先輩、お願いします……」

 笹山は深々と頭を下げると、ぎゅっとスカートを握った。

「頭を上げてくれよ」と俺は言った。「威張るつもりはないんだ。頭を下げられるのはあまり好きじゃない」

「は、はい」と笹山は頭を上げた。


 その時、予鈴が鳴った。廊下で話していた生徒たちは、教室に入っていった。まるで動物園の猿たちが檻に帰っていくようだった。


 笹山はそれではと言うと、教室に戻っていった。

 俺も教室に向かった。俺も猿で間違いなかった。

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