第15話 捜査の約束

 気がつけば、風が去るようにひっそりとアマポーラは終わっていた。


「捜査の状況は、どんな感じなの?」と今井は言った。

「多くの謎がひしめいてる状況です」

「これからどんな捜査を?」

「そうですね、もしストレス発散が原因ならば、その輩は別の場所で猫を殺していてもおかしくないはずなんです。だから、街で猫が殺されたという話しがないか探り、調べていくつもりです」


「確かにそれが解れば一気に犯人もわかるもんね!」と今井は感心したように言った。「じゃあわたしも手伝うよ」

「いえ、ありがたいのですが、お気を使ってもらわなくても結構です」

「気なんて使ってない、ただ手伝いたいの」今井は真剣な目をして言った。


「なら、お願いしましょうかね。二人の方が効率もいい」

「ありがとう!」彼女はそう言うと笑った。「それはいつやるの?」

「二日後にでもと思っています」

「二日後? あしたじゃなくて?」

「明日は、頂いたアドバイスを実践しようと思いましてね、さくらに会いに行こうかと」

「そっか。へへ、嬉しい限りだよ!! 仲良くしてあげてね」


 俺はコーヒーを啜り、それに目を落としながら言った。「はい」

 やはり、コーヒーは不味かった。


 それからしばらくして店を出ることにした。会計は俺が持った。すると今井は言った。


「紳士だね」

「色々話を聞かせてもらった礼ですよ」

「とか言って、他の女の子にも奢ってるんじゃないの」


 俺は顔を向け言った。「バレましたか」


「えっ、ほ、本当なの……?」

「嘘ですよ」

「な、なんだ、もう……」


 今井はほっとしたように息をついた。俺にはよく解らなかった。どうしてほっとするか。この短期間で、“それ”は考え辛いことだろう。俺はそんな魅力ある人間ではない。

 店を出ると、俺たちは駅に向かった。二人の女子大生が、向かい側から歩いてきた。あのカフェに向かうのだろうか。俺は、コーヒーだけは頼むなよと思った。


「夢野くんって、モテるでしょう」と今井は楽しそうに言った。「大人っぽいしさ。好きな子とかいないの?」

「どうしてそんなことを聞くんです」

「だって高校生なら、そういうのに敏感でしょ?」

「好きなひとなら死にましたよ」と俺は言った。

「えっ……」今井は足を止め、黙り込んでしまった。


 俺も立ち止まり振り返ると言った。

「そう言うと、大抵の人が口をつぐんでしまうんです。だから、たびたび使用しています」


 今井はほっとため息をつき、

「もう、驚かせないでよ……」

 俺は笑っておいた。


 駅に着くと、俺たちは解散した。今井は近くで用事があるらしく、俺だけ電車に乗った。


 カフェでの会話が、有益な時間であったかは果たして解らない。

 だが、そもそも有益な時間だなんてものは存在しないのかも知れない。授業や友達と遊んでいる時間、夢に燃えている時間ですらも。きっとそれは、死んでも解らないのだろう。


 俺は目まぐるしく変わる景色を、窓からずっと眺めていた。つまらなくも楽しくもない時間だった。

 車内は、疲れきった人達でいっぱいだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る