第51話 竜宮咲①
「邪龍を生み出した責任をとって、一條家はドラゴンの研究継続と今までの技術を受け継いでいくことを禁止されたわけか。話としては通っているな」
海野が横で勝手に納得している。
「それはわかったけど、竜宮が被った被害っていうのは一体なんなの?」
「想像つかない?これだけの大事件、どうして江戸川区に住むあなたたちが今まで知らなかったのか。長年この土地に住む人や専門家ですら、核心に迫るような情報は何も知らない」
それは前にも誰かが言っていた。江戸川区に邪龍が現れたのであれば教科書に載っていてもおかしくない。当時の新聞で話題になってもよさそうなものだが、それもなさそうだ。
「一條には情報操作や根回しをするような力はない。あるとしたら、竜宮家だ」
「その通りよ。竜宮はこの件を隠すため、大金を使ったの。一族がそんなことをしでかしたなんて知れたら、竜宮も取り潰しになりかねない。政治家や地元研究者への根回し、新聞社や出版社への口止め。幸い今の時代と違ってインターネットどころかテレビも普及してない。情報操作はそこまで難しくなかったみたいね。一條が自分で問題を収めていたことは説得でも良い方に働いたわ。それでも竜宮はたくさんのお金や信用を失ったし、私のひいひいおじいちゃんなんてそのストレスで早死にしたって話だよ」
本家との集まりがあると一條の肩身が狭そうなのはそういったわけか。分家なので立場は低いようには感じていたが、そういった蔑みがあったわけだ。俺からしたら自分が何かしたわけでもないのに先祖のせいで迷惑な話だが、竜宮からしたら一條家のせいで今もお金や立場で苦しい部分もあるんだろうから、仕方がないのだろうか。
「ねえねえ」
知恵が話に水を差す。
「いったいなんの話をしているの?私たちは邪龍を止めに行かないといけないの。今は落ち着いているみたいだけど、いつまた暴れ出すかわからないんでしょ?はやく行かないと」
俺も忘れていたわけではないが、邪龍と咲ちゃんが無関係とも思えない。それで話を聞いていたが、確かに話はずれている気がする。
「竜一にいちゃんはわかってるよね。さっきちょっと言っていたもんね。邪龍を止める?そんなこと研究を禁止された一條にできるわけないでしょう。それに、できたとしてもさせないわ。やっとのことで目覚めさせたんだもの」
「やっぱり、邪龍を封印から呼び出したのは咲ちゃんだったのか」
「そうよ」
「いったいなぜそんなことをしたんだ」
竜宮は被害を被ったとはいえ一條よりも力があって裕福で、恵まれているはずだ。邪龍が暴れたら街全体がどうなってしまうかわからない。せっかく竜宮が権力を持っている江戸川区をなくしてしまうかもしれないんだ。
「竜宮が受けた損害がお金だけだと思う?そんなのは些細なことよ」
「まさか、竜宮家がみんなで邪龍を解き放ったってこと?」
「それは違う。これは私がひとりでやったことよ」
咲ちゃんがひとりで?まず、なぜそんなことができるんだ。邪龍を、ドラゴンを操るのは一條の技術のはずだ。なぜ竜宮家の咲ちゃんにそんなことができるのか。
「わからない?一條はドラゴンの研究や技術を放棄したのよ。でも邪龍は死んだわけじゃない。封印されただけ。もし邪龍がふたたび起きたらどうするの?邪龍は江戸川区のすぐ近くに封印されていた。一之江駅の近く、そう、竜宮家よ」
「まさか」
「そのまさかよ。竜宮は責任をとって邪龍を見張り、何かあれば命をかけて邪龍を止める、そんな役割を請け負ったの」
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