第45話 解放⑤
外に出ると、叫び声の主が有明の親龍であることがすぐにわかった。有明龍は東、千葉方面を向いて叫んでいるみたい。
「ぎゃお!」
足元の声に目をやると、親龍だけでなく小型の竜たちも同じ方向を向いて吠えている。
「これ、葛西を向いてるんじゃないか?」
「葛西?」
確かに東には葛西があるけど、その先には千葉もある。なんで葛西なんだろう。
「葛西って、つまり、葛西臨海公園ってことか?邪竜と葛西水龍の眠ってるっていう石碑の!」
そうか、確かにそうだ。さすが海野くんと竜一くん。でも、それが何だっていうの?耳を手で塞ぎながら大きな声を出してなんとか会話する。考えようにもドラゴンたちの耳を割るような大声がうるさくて頭が働かない。
新宿御苑の時はどうだったんだっけ。たしか竜一くんと広場に入って、咲ちゃんが来て、それで黒神龍が立ち上がって叫び出したのよね。あの時はそういうものなんだと思ったけど、普通はありえないこと。あの時は知らなかったけど、ドラゴンと関わりの深い、咲ちゃんと竜一くんがいた。
「なあ、これ見ろよ」
海野くんがスマートフォンでSNSを開く。みんなが話題にしているのは、叫ぶドラゴンだ。
「有明龍が話題になってないか見てみたんだけど、これ、江戸川区だけの話じゃないぜ」
たくさんのSNSの投稿をよくみると、いろんな姿のドラゴンが立ち上がって叫んでいる姿の写真だった。それに、場所も渋谷に品川。東京だけじゃない。横浜、和歌山、秋田、島根、新潟、鹿児島。日本中だ。日本中の巨大なドラゴンが立ち上がり、叫んでる。これは普通じゃないよ。なんだかとても凄いことが、恐ろしいことが起きているような予感がする。
「邪竜が目覚めたんだ」
気がつくとすぐ近くに竜一くんのお父さんがいた。
「邪竜って、大正時代に現れて、葛西水龍と戦って海に消えたっていう邪竜ですか」
「知っているのか」
私たちがそこまで知っていることに驚いたのかな。私と、海野くんと、竜一くん、ひとりひとりの顔をお父さんは確かめるように見つめた。
「君たちが竜一と一緒に江戸川区にドラゴンがいない理由を調べていたというわけか」
「そうです、でも、邪竜が目を覚ましたってどういうことなんですか」
「・・・」
竜一くんのお父さんはあたりを見回して、祈祷の時に一緒にいた和服の3人が奥に立っているのをみつけると手を振った。
「龍彦、こっちに来なさい」
龍彦、と呼ばれた男の子、私たちと同じくらいの歳かな?呼ばれると他の2人と一緒に竜一くんの隣に立った。誰なんだろう。
「とにかく、このままじゃまずい。ここにいる人間だけでもできることをしないといけない」
顔の汗からも、起きている事の重大さが伝わってくる。でも、私たちに何ができるって言うんだろう。
「邪竜が起きたのなら、たとえ家の汚点であっても隠している場合じゃない。今から全てを話すからよく聞きなさい」
私、なんだか大変なことにに巻き込まれてないかしら。私がみんなを巻き込んでいたはずだったのに。興味を持つのはいいけど、首を突っ込みすぎるのは考えものね。
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