第43話 解放③

「平川さんと海野はどうしてここがわかったの?」


「ほとんど勘だよ。いや、推理かな。名探偵海野誠司と呼んでくれてもかまわないぜ」


 竜一くんも落ち着いて、やっと普通に話してくれるようになった。最後に見た顔があの青ざめた顔だったから、元気そうで本当によかった。


「で、どういうことだったの。何があったのか、ちゃんと説明してくれるんだよね」


 ここまで来たら全部教えてくれないと納得いかない。もちろんプライバシーに関わることだったら無理に聞くのは悪いけど、でも、困ってるなら相談してほしい。これって、自分勝手かな。


「・・・うん、話したい」


「無理はするなよ。船堀でのお前の様子、普通じゃなかったぜ。そりゃあ心配してるし、相談してほしいけどさ。自分のタイミングもあるから、話せるようになったらでいいよ」


 海野くんは気遣いが上手。私はこんな風にうまく言えない。


「いや、話すよ。でも俺もまだわかってないこともあるし、整理できてないんだ。考えながらになるかも」


 私たちがいきなり押しかけたんだから、話す準備なんてできてないのは当たり前。思いついたことから話せばいいのに、ちゃんと整理して話そうとするなんて竜一は真面目だなあ。


「どこから話したらいいか。そうだな、やっぱりあの日、船堀でのことがどういうことだったのかを話さないといけない」


「うん、それを聞きたい」


 竜一君は上を向いて何かを思い出すように話しはじめた。


「船堀に行く前に雨宿りをしたのを覚えてる?」


「ああ、新川の桜並木で急に雨が降ってきて、近くの施設に駆け込んだよな」


 そうだったね。そこで、しばらく3人で話をして雨が上がるのを待ったんだ。どんな話をしたんだったかな。


「その時に話したことが、実は当たってたんだなって思って」


「リーダーの自覚が出てきたってことか?竜一」


 私たちのリーダーは竜一くんだって話をしたね。


「いや、違うって。そっちじゃなくて、その後だよ。俺が否定したら、2人が言ったじゃないか」


 そうだ思い出した。竜一くんが自分は付き合ってるだけだなんて言うから、言ったんだった。


「楽しそうだって」


 それはそうよ。だって、こんな興味本位の調べ物でも一生懸命で、楽しそうに見えたわ。


 竜一くんが照れくさそうに目線を泳がせる。


「3人であちこちまわって、いろんな人と会ってさ。いろんなことを調べて。楽しかったんだと思う」


 私たちからしたら今更のことだよ。


「だからそうだって言ったじゃん」


「うんうん」


 でも、それと船堀タワーでの青ざめた顔や帰ってしまったことと何の関係があるんだろう。


「実は俺、家族とちょっと関係がギクシャクしちゃっててさ」


 大川空くんが言っていた「家族とうまくいってない」ってやつね。


「あの時咲ちゃんが、俺の親が何か知っているようなことを言ってたでしょ。中学生の戯言と言えばそれまでなんだけど、実際咲ちゃんは竜に関しては本家本元なわけだし、特に江戸川区周辺のドラゴンは竜宮が長年取り仕切ってきたから、竜宮家しか知らないことも多いんだ。・・・もちろん分家の一條も関わっていることはある」


 思い出して嫌な気持ちになっちゃわないか少し心配だったけど、大丈夫そうだね。竜一君はまだ安心した顔をしている。


「俺ってさ、家でも変な気の使い方して家族との関係がおかしくなって。学校でもあんまり思ったような人間関係が作れてなくて。そんな時にやっとできた楽しい時間に、また家業が入り込んできて、壊されるような気になったんだ」


 正直、それがどのくらいのものかって、あんまり想像がつかない。これを聞いただけだと、たったそれだけのことでっていうふうにも思えるけど、きっと違う。それは竜一くんの中で家の仕事だったり家族との関係がどれだけ大きい存在で、いままでどんなことがあったのか知らないからわからないんだ。

 だから、聞かないといけない。例えばどんなことがあったのか。普段どんな生活をしているのか。家族とどんな話をするのか。どんな気持ちなのか。


「竜一くん、教えて。家族と今みたいになるまで、どんなことがあったのか」


「うん」


 竜一くんは少しうつむくと、頭をぽりぽりとかく。


「その前にひとつ言っておかないといけないことがあるんだ」


「なんだ、今更。なんでも話せよ」


「実は俺、その、・・・」


「何?竜一くん。言いにくいこと?」


「いや、実はさ。俺、ドラゴンが嫌いなんだ。すごく」


「へ?」

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