第42話 解放②

 土日を挟んでいるからもう5日も経つんだ。もっと長いこと会っていないような気もするし、いつのまにか5日も経ってしまったような気もする。会うって言っても学校で同じクラスにいるっていうだけだし、そんなに会話をしない日もある。新宿御苑から始まって、葛西臨海公園、平井、江戸川区郷土資料室、船堀。あちこち一緒に行ったけど、3人で出かけない日の方が多いし、ただのクラスメイトくらいに思ってたんだけどね。こんな風に君の姿を探すとは思ってなかったよ、竜一くん。


 祈祷は終わったみたい。着物を着た4人は有明竜にお辞儀をすると、来た方向に戻るように歩き出した。


「行こう」


「うん」


 海野くんと一緒に小走りで4人に近づく。だんだんと顔が見えてくる。竜一くんは・・・。


「いない、か」


「まあ、そうだよね」


 江東区に竜司が何人いるか知らないけど、偶然ここにいるなんてそんなことないよね。竜一くんのお父さんがいたとしても顔はわからないしなあ。ここに来るとしても今日かはわからない。どうしようかな。とりあえず今日は帰ってまた来てみるか、今度は富岡八幡宮の方に行ってみるか。


「どこにいるんだろう、竜一くん」


「竜一?」


 私のつぶやきを聞いて、4人のうち1人がこちらを見る。


「竜一って言ったかい?」


「え、あ、はい」


 急に話しかけられたからうまく答えられなかったけど、竜一くんの関係者かな。


「もしかして、竜一の友達?」


「はい、そうです。一條竜一くんのご家族の方ですか?僕たち、竜一くんの高校のクラスメイトで、彼がずっと学校を休んでいるので心配で探していたんです」


 白川くんのおじいさんと会ったときも思ったけど、相変わらず海野くんは社交的だなあ。


「え、そうなのかい。竜一が心配をかけてしまったみたいだね。竜一が学校を休んでいるのは私のせいなんだ。おっと、挨拶が遅れてすまないね、私は竜一の父です。息子のためにわざわざありがとう。竜一は良い友達を持ったみたいだね。でも、どうしてここが?」


 竜一くんのお父さん!?じゃあもしかして、お願いすれば竜一くんに会えるかもしれない。竜一くんは家にいるのかな。


「ここに来たのは偶然です。江東区にお住まいなのは知っていたので、もしかしたら親竜のところにいるんじゃないかって」


「へー、なるほど。最近の子は頭がいいね。竜一ならあっちの建物で待っているよ」


「竜一もいるんですか!?」


 竜一くんも近くに来ているんだ!?でもなんで、祈祷には来なかったんだろう。歳の近そうな男の子、弟さん?は来ているのに。竜一くんのお父さんが指を向けた方向を見ると、ちょっとした休憩所のような建物が広場の反対側にあった。あそこに竜一くんがいるんだ。やっと会いに行ける。でも、なんて声をかけよう。


* * *


 私の顔をみた竜一くんはとても驚いた。それはもう驚いた。驚きすぎてお茶をこぼしてズボンが濡れちゃってる。一瞬逃げ道を探そうと目線をキョロキョロと動かしたけど、1つしかない入り口に私が立っているのですぐ動きが止まった。


「・・・」


 なんて声を掛けたらいいんだろう。竜一くんも言葉がでないのかな、何か言いたそうだけど、何も言わない。何か言うまで待ってみようかな。


「・・・」


「・・・」


「ごめん」

「何が」


 思わず反射的に返事をしちゃった。


「・・・」


 また黙っちゃった。じれったい。問い詰めたい。


「何も言わないで帰ってごめん。LINEも返事しなくてごめん」


 やっと言ってくれた。本当そうよ。何も言わないで帰っちゃうなんてダメだし、友達が連絡したのに無視するなんてひどいよ。でも違う。一番はそれじゃないんだよ。


「心配したよ」


「・・・心配かけてごめん」


 久しぶりに見た竜一くんは、あの時より顔色も良くなって、安心した。竜一くんも、なんだか安心した顔をしている気がする。


「俺もいるぞ」


「え、海野?いつからいたんだ?」


「最初からいたが・・・、どんだけ余裕なかったんだよ」


「海野もごめん、わざわざこんなところまで来てもらって」


「ああ、本当そうだ。心配したぜ。でも、竜一を見つけて終わりじゃない」


 そうだ。もちろん竜一くんを探しに来たんだけど、それで終わりじゃないよね。色々とわからないことがたくさんある。

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