第40話 江東区「有明」
りんかい線の国際展示場駅で降りる。いろんなイベント会場になる東京ビックサイトがある場所。他にも「有明テニスの森」っていうのはプロのテニス選手が使うような大きな会場があるみたい。
「お台場には来たことあるけど、有明は初めて来たよ。海野くんは来たことあるの?」
「用事がないと来ないかもな。俺はドラゴン関係のイベントでビックサイトには来た事あるぜ」
こんな大きな会場でドラゴンの何をするイベントなんだろう。それはあんまり気にならないから聞かないでおこうっと。
「有明って江東区だったんだね。あんまりイメージなかったかも」
お台場、有明、豊洲、夢の島。東京湾に埋立地が多いのは知っていたけど、もともとは海だったのよね。
「お台場も江東区?」
「いや、お台場は違ったと思う。確か、港区かな。このあたりの埋立地は大田区と港区と江東区があって、境目はわかりにくいんだ」
「大田区と江東区が隣り合っているの?江東区は千葉方面で、大田区は神奈川の隣だから遠いイメージなのに」
「実際、電車で行ったら遠いよ。でも埋立地は海だから、海に面してたら隣合うこともあるんだよな」
そう言われてみればそうなんだけど、感覚的にはピンとこない。頭の中に東京の地図を浮かべてみるけど、もやもやしてわからないわ。
「ここに本当に竜一くんはいるのかなあ」
竜一くんに会いに行こうと言ったものの、このご時世だとクラスメイトでも住所なんて教えてもらえないし、知らないのが普通。竜一くんについて知っていることなんて、江東区に住んでるってことと、竜司の家系ってことくらい。
「どうかな。ここに来たのもあてずっぽうみたいなものだから。富岡八幡宮と迷ってこっちに来てみたけど。懸けみたいなものだ」
「富岡八幡宮は竜を祀ってるの?」
「いや、違うよ。八幡宮だから、八幡様っていう神様を祀ってるんだよ。でも昔は江東区の親竜は富岡八幡宮のあたりにいたみたいだから、無関係ではないと思うけどさ」
海野くんは何でも詳しいなあ。そういうのってどこで知るんだろう。
「で、江東区の今の親竜は有明にいるんだよね」
「そうそう、10数年前から江東区の親竜は有明竜になったんだ。ドラゴンの生態とか住処はその時代にあわせて変わるんだけどさ、海を埋め立てて土地が広がっただろ?そうしたら埋立地の方が都心に近かったり新しい土地に大きな施設を建てたりするから、そっちに人が増える。人が増えると、ドラゴンは集まるみたいなんだ」
「ふーん」
有明には江東区の親竜がいる。だから、龍司の家系の竜一くんの家の人や、後継ぎかは知らないけど息子の竜一くんもいる可能性はあるんじゃないかってことだけど、どうかなあ。正直可能性は低いと思う。
「俺もあんまり期待はしない方がいいと思う。竜司って言ったって、基本は竜社で参拝者を相手にするとか、部屋で仕事をしてるはずだ。親竜のところに行くこともあるけど毎日じゃないだろうし、時間も長くないんじゃないか」
じゃあなんでここに連れてきたのよ。って言いたいところだけど、それは仕方ないよね。だって他に手がかりがないんだもの。江戸川区の郷土資料室で会った大学教授のおじいさんも言っていたじゃない。手がかりがない時はやみくもでも行動してみたほうがいいって。そうしたら、考えてわからないことでもヒントを得られることがあるんだって。
「うん、でも、行ってみよう」
私と海野くんは、江東区の親竜がいるっていう広場に行ってみることにした。
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