第38話 平川知恵②

 好きなことは友達といること。マックとかファミレスでくだらない話をしているだけであっという間に何時間も過ぎちゃう。スタバの新メニューを買いに行ったり、洋服を見に行くのもひとりじゃつまらない。


 嫌いなことは「わからない」こととか「知らない」こと。気になって仕方がなくなるから、わかるまで調べるんだけど、結局最後までわからないことも多いんだ。あとは秘密にされたり隠し事をされるのも嫌い。


 だから最近のことはちょっとムカつく。私は機嫌悪くなることって少ないと思う。隠し事されたって、相手にも事情や考えがあるってわかってるから、それで怒ったりはしない。

 今回もそう。明里が何か隠し事していることも。船堀タワーの展望台に行ったあの日、竜一くんが何も言わないで勝手に帰ってしまったことも。きっとそれぞれ何かあって、私に話してくれないんでしょ。

 でも仕方ないと思ってもムカついてしまうのはとめられない。


「知恵」


 船堀に置き去りにされた仲間の海野くんが話しかけてきた。


「竜一のこと、何か聞いてない?」


 竜一くんはあれから2日ほど学校を休んでいる。隣の席に登校してくれば文句のひとつでも言ってやろうなんて思っていたけど、本人が来ないんじゃ言いようがない。LINEもしてみたけど、既読はつかなかった。正直、心配。船堀から帰っていく彼の顔はとても青ざめて見えたから。

 困ってるのに相談してもらえないのも、モヤっとする。


「知らないよ」


 私にしてはぶっきらぼうな返事になっちゃったかもしれない。おこってるように思われちゃったかな。


「そうだよな、ごめん」


 海野くんも心配なのかな。そりゃそうだよね、あんなよくわからないまま学校に来なくなっちゃったら、誰だって心配するよ。


「連絡ついたら教えてよ。じゃあね」


 海野くんはおせっかいだから、どうにかしようとしてくれているのかな。私は、どうしたいのかもよくわからなくなってきちゃったよ。


 * * *


「えー!そうだったの!?」


「本っ当にごめんね!」


 そう言って謝るのは明里だ。明里が白川くんと付き合っていたなんて、全然知らなかった。私は何でも気になるし、人に聞くのは得意なんだけど、誰も教えてくれないことに気がついたりするのは実は苦手なんだ。


「誰にも言ってなかったんだよ」


 本当かしら。こっそり誰かに相談してたんじゃないかなんて、勘ぐりすぎよね。

 

 隠し事をされてたのはちょっとショックだけど、ちゃんと話してくれたから許しましょう。私は心が広い・・・ような人になりたいから。


「私自身もなんで隠してたのかわからないんだけど、なんか言いふらすのも違う気がして、自分の考えが整理つかなかったんだ」


 明里も悩んでたのかな。わたしにはよくわからないけど、もしかして言ってくれない明里が悪いんじゃなくて、気付いてあげられないわたしがダメなのかな。


「でもちゃんと考えたら、親友には話さなきゃいけないよねって思った」


 明里が真面目に話してるのも珍しい。そうね、私たちは親友なんだから。ちゃんと言ってくれたからよかった。でも、美穂がからかわないなんて、それも珍しい。


「はー。いいわね。幸せそうで」


 美穂の大きなため息。これは何かあったね。


「どうしたの、美穂。ちゃんと明里におめでとう言わないとだめよ」


「へー。今そんな気分にならないわあ」


「もしかして彼氏と何かあった?」


 明里の言葉に美穂がびくりとする。そう言えば美穂は昨日も彼氏と会うって言って先に帰ってた。その後何かあったんだ。


「別れたよ」


「え!」


 なんてことでしょう。おめでたい話と残念な話が同時にきちゃったわ。


「なんだ、いつものことじゃん」


「うるっさいなあ」


 確かに、美穂に彼氏ができたり別れたらするのは何度もあった。この1年で3回目だったかな。


「今度は続くと思ったのになあ。本気で好きだったし」


「前もそんなこと言ってたじゃん」


「なんでうまくいかないんだろうなあ」


 美穂は天井を見上げて、ストローに口をつけてフラペチーノを飲み干す。


「なんで別れたの?」


「ケンカだよケンカ!ヒロキのやつ、デートしようって行っても来ないんだ。それを言ったら言い合いになっちゃってさ」


 美穂の彼氏はあんまり美穂が好きじゃなかったのかなあ。好きだったらデートしたいよね。


「10分空き時間あったら会いたいでしょ?学校の後に予備校に行くって言うから、その隙間の10分にデートしよって言ったら、めんどくさいなんて言うんだよ」


 感覚は人それぞれだよね。ほんの少しの時間でも会いたいなんて、素敵だと思うよ。でも面倒くさくなっちゃう彼氏の気持ちもわかるなんて言ったら、美穂に怒られちゃうかな。


 やっぱり、事情は人それぞれあるのね。


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