第34話 なぜ江戸川区にはドラゴンがいないのか?④
「なぜ、江戸川区に、ドラゴンがいないのか?」
さっきの表情は見間違いだったのかと思うほど、一瞬で咲ちゃんは元の笑顔に戻っている。でも見間違いではないだろう。知恵と海野も驚いた顔をしている。
「う、うん。そうだよ」
知恵が戸惑いながら答える。
「ふーん、それはわかったの?」
「ううん、まだわからないんだ」
「でしょうね」とでも言うように、ふふ、と鼻で笑う。
「江戸川区にドラゴンがいない理由なんて、専門家でも知らないもんね」
「ずいぶん詳しそうだね、咲ちゃんだっけ?」
黙っていた海野が知恵と咲ちゃんの間に入る。
「うん、そりゃあそうだよ。だって竜宮の宗家だもん」
「竜宮の?」
ドラゴンを祀る竜宮一族は全国的に有名というほどではないが、地元ではそれなりの知名度がある。古くからある家ということもあるが、近辺の祭りを取り仕切っているし、政治にも関わっている。ちなみに一條家は特に知られていない。
「あれ、咲ちゃんって竜一の親戚なんだよな?ってことは竜一も竜宮の家系なんだ」
「あ、ああ。そうだよ。一條は竜宮の分家だ。って言っても大昔の話なんだけど」
咲ちゃんの顔を見る。咲ちゃんも俺の顔を見ていた。
「竜宮家は歴史が長いから本家・分家も色々あるけど、現代でも本格的に龍に関わっている一族は竜宮と一條だけだもんね」
「へー、そうなんだ。だから竜一くんと咲ちゃんは仲が良いんだね」
本当に仲良く見えているのだろうか。子供のころから仲良く遊んだ記憶なんて全くない。いや、少しはあったか。あれはいつだっただろう。
「“なぜ江戸川区にドラゴンがいないのか”だっけ」
咲ちゃんが改めて俺の目を見る。
「竜一兄ちゃんは本当に何も知らないんだね」
一体どういう意味だろう。それではまるで、咲ちゃんは答えを知っているみたいじゃないか。いや、「竜一兄ちゃんは」というからには、咲ちゃんだけじゃない?俺以外、俺の周りの人が何かを知っているような言い方だ。
「そんなに知りたいなら、家に帰っておじさん、おばさんに聞いてみたら」
咲ちゃんの言う「おじさん、おばさん」はつまり俺の両親だ。俺の親が何を知っているというのか。俺は何を、なぜ知らないのだろうか
* * *
この日知恵や海野はどんな顔をしていたんだろう。咲ちゃんと会話をした後家に帰るまでの記憶があいまいだ。家に帰ったらいつもと同じだ。お母さんの作ったごはんを食べる。途中で弟とお父さんが帰ってくる。風呂に入って、寝る。家の雰囲気は外から見たら悪くないのだろう。この間、俺は誰とも目を合わせない。いつからそうなったんだっただろうか。
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