第33話 なぜ江戸川区にはドラゴンがいないのか?③
「竜一兄ちゃん、どうしてこんなところにいるの?」
竜宮咲は俺の従妹にあたる。確か今年で中学2年になったはずだ。新宿御苑で偶然会った後に親戚の集まりでも会っているのでそれほど久しぶりではない。しかしこんなところで会うのは意外だ。中学生が来てはいけないような場所ではないが、わざわざ遊びに来るような場所とも思えない。
「俺は友達と学校の後に来ただけだよ。咲ちゃんこそどうしてこんなところに?」
咲ちゃんはてくてくと歩いて俺たちの数歩手前まで近づく。その笑顔は中学生とは思えないほど綺麗に作られた笑顔に思えた。なぜだろう、背中に汗が流れる。
「ちょっと景色が見たくて来てみたんだ」
そんなことあるか。中学生がひとりで地元の展望台にくるのは不自然じゃないか。いや、咲ちゃんを知っているから嘘だと思うのかもしれない。
思春期だからと言ってしまえばそれでおわりだ。しかし竜宮咲は大人より大人びていて、子供より子供らしく振る舞うことができる。そんな人間だ。普通の中学生ではない。
咲ちゃんが知恵の顔を見る。
「あれ、よく見たら新宿であったお姉ちゃんだね。ずいぶん竜一兄ちゃんと仲がいいんだね」
分家と宗家という立場もあるが、俺は昔から咲ちゃんが苦手だ。
「うん、そうなんだ!竜一くんとは仲良くさせてもらってます」
咲ちゃんに対しても知恵は遠慮がない。かわいい年下の女の子がきてうれしくなったというような明るい声だ。
「それ、何を書いているの?」
それ、と言って指を向けるのはドラゴンを見つけた場所をマーキングした地図だ。
「ああ、これ?調べてるんだ」
知恵が答える。
「調べてるって、何を?」
時間がゆっくりと進む。
理由はわからないが、これを知られてはいけない気がする。
「江戸川区になんでドラゴンがいないかだよ」
この時の咲ちゃんの顔は、親の仇を見るような、俗物を見下すような、愚者を嘲笑するような、それが全て入り混じったような顔をしていた。
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