第19話 海野誠司はイケメンである①
「あなたが
ホームルームが終わり教室を出ると見知らぬ女子に話しかけられた。2年生にもなれば、同じ学年の同級生は話したことがなくとも見覚えくらいはあるものだが、この子は本当に見たこともない。
「ふーん、最近、海野先輩とよく一緒にいるみたいね」
海野?
海野の知り合いだろうか。海野「先輩」ということは1年生なのだろう。よく見れば胸の校章が1年生をあらわす緑色だ。いったいこの女の子は誰なのだろう。そして、なぜ俺のことを知っているのだろう。
「あれ、ユメちゃん、こんなところでどうしたの」
後ろからの声に振り向くと、当の海野が教室から出てきた。やはり海野の知り合いのようだ。
「あ!海野先輩!最近見かけないからどうしたのかなって思って、教室まで来ちゃいました」
海野に向ける表情は先ほどとうってかわってニコニコとしており、別人のようだ。
この子は海野のことが好きなのだろうか。
普段は3枚目キャラなので忘れがちだが、海野誠司は誰もが認めるほどのイケメンだ。海野をよく知る同級生はその性格と趣味から敬遠されがちだが、後輩や先輩からは人気があるのかもしれない。
「そうなんだ、わざわざありがとう。確かに最近は1年生の階にはあんまり行かないね」
今までは何しに行っていたのだろうか。
「誰?その子、海野くんの知り合い?」
気が付くと横に知恵が立っていた。
「うん、1年生の佐々木ユメちゃんだよ」
”ユメちゃん”と紹介された女の子は一瞬知恵をにらんだようにみえたが、すぐに笑顔に戻ると、「佐々木ユメです。はじめまして」と丁寧に自己紹介をした。
「海野くん顔広いよね。海野くんと佐々木さんは何つながりなの?」
「え、何って、同じ学校の後輩じゃん」
普通は「同じ学校の後輩」ってだけで知り合いになったりしないんだよ。うちの学校はそれほど大きいわけではないが、それでも全校生徒で300人はいる。同級生だって完全には覚えきれていない。部活も委員会も入っていない俺は他の学年の知り合いなんてひとりもいない。しかし、同じように部活も委員会も入っていない海野はなぜか知り合いが多い。社交的なやつだとは思っていたが、人見知りの俺からすれば社交的を通り過ぎて変人だ。
海野は当たり前のような顔をしているが、さすがにこれは知恵も納得できない様子だ。
「じゃあ、俺は先に帰るよ。例の資料室、小岩だっけ?行く日が決まったら教えてくれよ」
そう言って海野は”ユメちゃん”と一緒に階段を下りて行った。
去り際にこちらを見る”ユメちゃん”の顔は、怪訝そうに見えたが、海野と会話を始めると、やはりすぐに笑顔に変わった。
俺と知恵は顔を見合わせた。
* * *
授業で使うノートを使い切ったので、ショッピングモールで買い物をすることにした。ノートだけならコンビニや家の近くで買えば良いのだが、ついでに他のものも物色するために少し遠出してみる。普段、知恵たちと出かける日以外は駅前で時間を潰しているだけだから、たまにはこんな時間があってもいい。
葛西駅から10分程度バスに乗ったところにちょっとしたショッピングモールがある。大型というほどではないが、それなりに店が揃っていて、服や電化製品、雑貨などだいたいのものはここで揃う。隣にホームセンターもありかなり便利だが、駅から離れているので俺はあまり頻繁には利用していない。
ノートを買った後は本屋に行って小説を探すことにした。目的の本があるわけではないので、ふらふらと歩きながら表紙を見て面白そうな本を探す。
ミステリー小説・・・最近読んだから別のジャンルにしよう。
SF小説・・・難しくて敬遠していたが、そのうち挑戦してみたい。今日はやめておこう。
恋愛小説・・・ほとんど読んだことがない。なんだか読んでいて恥ずかしくなる。恋愛経験がなさすぎて現実味を感じられないのかもしれない。
恋愛、といっても色々あるが、片思いも恋愛に含まれるのなら、俺は今恋愛をしているのだろうか。なんてことを考えるだけでも恥ずかしい。頭の中なんて誰かに覗かれるわけでもないのに。
それほど、俺にとって恋愛というのは縁がないというか、考えたこともないようなものなんだ。だから、そこから先のことも考えることができない。
そんなことをぼーっと考えながら書棚を眺めていると、となりから「げっ」という声が聞こえた。
声の方を見ると、俺のすぐ隣に学校で見た”ユメちゃん”が立っていた。お互い本を見ていて近くに来るまで気が付かなかったようだ。
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