第11話 船堀に行こうと思ったが

『タワーホール船堀』は展望台のあるタワーの下に色々な施設のある建物で、「船堀タワー」の愛称で親しまれている。江戸川区のランドマークかと言われると、江戸川区民でも意見が分かれるかも知れないが、江戸川区の中心の位置にあるので江戸川区を見渡すことができる。江戸川区は高い建物が少ないので展望台としては貴重かもしれない。


「なんで急に船堀なんだ?」


「江戸川区を見渡せるだろ?さっき平川が言ってたのを聞いて閃いたんだ。江戸川区のことをよく知らないなら、見てみたらいいって」


 海野は行動的なやつだ。的を射ているかはわからないが、行動を起こすのは悪いことではない。最初に知恵に新宿に誘われたときににえきらない態度だった自分を思い出す。やはり、海野は嫌なやつだ。


「ま、明日学校で考えようよ。なんだか、江戸川区とかドラゴンのこと少しわかってきて、なんだかわくわくしてきたんだ、わたし。これはしっかり作戦会議しないといけないね」


 そう言う知恵の目は、きらきらと輝いて見えた。


 * * *


 午後の体育が終わった後の授業は眠気との戦いだ。特に苦手な英語は何を話しているのかわからないのでまぶたが重くなる。


「やっと終わったね、今日の授業」


 隣の席で知恵が両手をあげて体を伸ばす。


「平川さんも授業中眠くなったりするの?」


 知恵はこう見えて成績がいい。授業もまじめに受けているイメージだ。


「なるよー!特に昨日は遊び回ったから、疲れて眠いよね」


 でも授業中寝たりはしないのだろう。俺は正直なところ、たまに意識がなくなることがある。


「おいおい、そんなんで次のテスト大丈夫か?」


 いつのまにか隣に来ていた海野が軽口を言う。


「やばいよー。海野君はいいよねー。成績、学年でも1位とか2位でしょ?」


 なに!?成績上位者なんて自分には縁がなさすぎて見てなかったが、こいつそんなに頭良かったのか。イケメンで社交的で頭もいいなんて、なんて嫌なやつなんだ。


「いやいや、1位はとったことないよ。最高でも2位かな。だいたいは4位とかそのへん」


 俺からすれば1位も4位も大した差ではない。


「竜一は成績上位者で見たことないな。勉強苦手だったか。勉強教えてやろうか?ん?」


 海のがからかうようににやにやする。ぶんなぐってやろうか。


「よけいなお世話だ!」


「そういえばいつも1位なのって、白川君だっけ」


 白川?誰だったかな。聞いたことあるような、ないような。あんまり同級生詳しくないんだよなあ。


「そうなんだよ、あのボンボンめ〜」


「ボンボン?」


「お金持ちなんだよね、白川君の家」


 そうなのか、こんな都立高校にもいるもんなんだな。金持ちって私立に行くイメージだけど。


「昔からこのあたりの地主?みたいな感じらしいな」


 海野の一言を聞いて、知恵が閃いたような顔をする。また何か変なことを思いついたようだ。


「地主ってことはさ、江戸川区の歴史とか詳しいんじゃない?江戸川区のドラゴンとか邪竜のこと聞いてみようよ」


 江戸川区に詳しいって言っても、この学校の生徒はほとんどが江戸川区民だからみんなそれなりに詳しい気がする。地主の子どもだからって詳しいものだろうか。


「んー、どうだろうな、でも聞いてみる価値はあるか」


 海野は否定的なのか肯定的なのかわからない意見だ。人見知りの俺からすれば、わざわざ知らない人に話しかけに行くなんて考えられないのだが、この2人はそういう抵抗はないらしい。


「どう思う?竜一くん」


 知恵が俺に意見を求める。


「そうだな、聞いてみないとわからないけど・・・」


「白川って2組だっけ、とりあえず会いに行ってみようぜ」


 船堀タワーに行くことはすっかり忘れたのか、俺たちは2組の白川に話を聞きに行くことになった。

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