第9話(番外編) 一條竜一①(いちじょうりゅういち)
放課後に教室を出るタイミングは難しいものだ。
部活のある人は急いで教室から出て行き、暇な生徒たちは集団で教室に残っている。じゃあ、部活に入っているわけでもなく、帰り道を共にするほどの友達もいない人間はどうするか。おそらく正解は、人が多く賑やかなうちに教室を出ることだろう。
正直に言って、高校に入ってからの友達作りには手間取っていたと思う。それほど偏差値が高くもない都立高校では、地元から進学する人が多い。俺はわざわざ荒川を跨いで江戸川区の高校に進学したから同じクラスに知り合いはいないが、どうやら他のクラスメイトはそうではないようだった。
そうは言っても別に普段の生活に困るほど友達がいないというわけではない。普通に雑談したり、必要があれば会話をする程度の友達はいる。昼休みや放課後まで一緒にいるほど仲の良い人がいないというだけだ。
どこかのグループに入る機会もあった。俺が1人でいるところを見て、話かけてくれるクラスメイトがいた。でも、彼らはアニメやゲームが好きな趣味の仲間だったから、話についていけない俺はだんだんと一緒にいることがなくなってしまった。今思えば、同類だと思って誘ったけど当てが外れたということなのかもしれない。
そうやってなんとなく、クラスに溶け込んだような、うまくハマっていないような生活が過ぎ、気がつくと1年生の夏も終わっていた。
「帰りは電車か?」
帰り道、駅前のベンチに座って時間をつぶしていると話しかけてきたのは、同じクラスの大川空だった。クラスでは普通に話すこともあるが、学校の外で会うのは初めてだ。
「一條ってたまにそこのベンチにいるよな。暇なのか?」
大川が質問を重ねてくる。確かに、部活があるわけでも友達と遊びに行くわけでもなく、ただなんとなく家に帰りたくなくて、ここにいることはある。
「そうだよ、暇なんだよ」
「ふーん」
大川は気の無い返事をしながら、隣に座った。
「なんで座るんだよ」
「ベンチはみんなのものだぜ」
俺と会話をするつもりはないのか、大川は本を取り出した。わざわざ隣に座ってきたくせに、本を読むのか。
大川のことはよく知っているわけではない。俺と違ってクラスの中では仲の良い友達もいて、地味な男子グループに属している。しかし、一人でいるところもよく見かける。綺麗な顔をしている気もするが、おとなしいメガネの男子というイメージの方が強い。
結局この日はしばらくベンチで時間を潰した後、大川は家に帰っていった。俺もそれを見送ってすぐ、電車に乗って家に帰ることにした。
それからも、度々駅前で会っては、特に話をするわけでもなく、それぞれ時間を潰しては家に帰る、ということがあった。相変わらず学校では仲が良いというわけではなく、妙な関係だ。
(続く)
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