第7話 葛西臨海公園②

「そろそろちゃんと調べよう」


「そうね、早くしないと日が暮れちゃうわ」


 どの口が言うのか。散々水族館を楽しんだ海野はお土産のまぐろキーホルダーをつけたカバンを肩にかけ、腕を組んでいる。知恵は、はしゃぎ疲れた顔でジュースを飲んでいる。


「まったく、これじゃ何しに来たかわからないぞ」


 そう言う俺も、後半は少しばかりテンションが上がってしまった。ドラゴンは嫌いな俺だが、ペンギンは可愛かった。ペンギンを見てる知恵も可愛かった。


「よし、じゃあ行くか」


「行くって、どこに?」


 目的地を言わずに歩き出す海野に、知恵が問いかける。


「葛西臨海公園には昔、ドラゴンがいたって言ったろ?今はいないけど、親龍がいたところに石碑があったはずだ。そこに何か書いてあったと思うんだよね」


「へーそうなんだ!それは見ておかなきゃね」


「何が書いてあるのか、お前は覚えてないのか?」


「えーと、何か江戸川区の龍がいなくなってしまう伝説的なものが書いてあったような」


 薄い記憶だな。日本一のドラゴンマニア高校生が聞いて呆れる。


「石碑だけじゃなくて、ドラゴンがいた場所も見所あるぜ」


「どこにいたんだ。確か海の中にいたんだよな。入れるのか?」


「お、よく知ってるな。今の季節は海には入れないから、近くから見るんだ。葛西臨海公園に砂浜があるのは知ってるか?人工の島に、人工の砂浜があるんだ。東京23区で唯一の海水浴場。そこからドラゴンがいた場所が見えるんだよ。江戸川区の水龍、名前は確か、葛西水龍だな」


「えっ、東京には他に海水浴場がないの?」


「籬島を除けばそうらしい。ここも海水浴場っていっても小さい人口の砂浜だし、確か遊泳できるようになってから10年も経ってないはず」


 言われてみれば、都心で海水浴できるイメージはないな。江戸川区が唯一、都心で海水浴のできる場所だったのか。


 水族館から少し歩くと人口浜につながる橋が見えて来た。橋を渡ると「西なぎさ」という表示がある。「東なぎさ」は同じく人口島で、こっちは立ち入り禁止らしい。そこから少し歩くと、砂浜だ。その奥には水平線が広がっている。


「葛西水龍は海の中にいたから、この人工島がその場所の一番近くになるんだ」


 春とはいえ、放課後のこの時間に海の近くは少し肌寒い。傾きかけの、まだ夕焼けになっていない太陽が海に映っていて綺麗だ。


「海なんて久しぶりにみたかもー」


 知恵がうーんとうなりながら、両手を上にのばす。


「俺もだわ、やっぱり解放的な気分になるな」


「あ!」


 急に知恵が大きな声を出して右の方に指を向ける。


「あそこに少し見えてるの『ランド』じゃない?」


 確かに方角的には葛西臨海公園の東、俺たちは南を向いているから左手側にあるはずだ。しかし、目を凝らしてもはっきりとは見えない。


「違うかなあ、確か、中は見えないようになっているんだよね」


 今見えたのがランドかどうかはわからないが、それ以外に見えるのは海ばかりだ。ドラゴンがいた跡は特にない。


「おい、あったぞ、石碑だ」


 海の向こうを見つめる俺と知恵に、海野が声をかける。真面目に石碑を探していたようだ。


 声の方を見ると、海野の隣に郵便ポストくらいの大きさの黒い岩があった。その岩に、細長い龍の絵と10行ほどの文章が彫られている。


「どれどれ」


 俺たちは石碑にそばに集まり、そこに書いてある文章を読んだ。


「世界の・・・滅亡・・?」

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