第6話 葛西臨海公園
葛西臨海公園は江戸川区の南端にある、東京湾に面した公園だ。江戸川区民にとって憩の場所で、大きな観覧車や水族館があり、区外から遊びに来る人も多い。
「とはいっても、多くの都民からしたら『電車で通過するとき見える公園』くらいのイメージだろうな」
バスの中で海野がつぶやく。
俺たちが通う江戸川区内の高校から葛西臨海公園方面に行く電車はないので、バスを使うことになる。一方、都心やそれより遠くから来る人は電車を使うことが多い。JR京葉線には『葛西臨海公園駅』があり、そこで降りればすぐ目の前が葛西臨海公園だ。
しかし、都心から京葉線に乗ってくる人の多くは葛西臨海公園駅では降りず、その隣の『舞浜』で降りることが多いだろう。『舞浜』にはご存知、日本で1番人気のあるテーマパークがあるからだ。
だから、葛西臨海公園は『電車で通過するときに見える公園』のイメージが強いのだろう。
「そうなのかな。みんな遠足で行かないの?葛西臨海水族館」
「どうだろう、都心にも水族館は多いからなあ。俺は小学生の時遠足で来たけど」
葛西臨海水族館は葛西臨海公園の中にある水族館で、都内の水族館ではそれなりの規模だと思う。
江戸川区民ではないが、俺も小学校の遠足で葛西臨海水族館には来たことがある。
「お、着いたぞ」
バスから降りると、大きな公園の入り口が待ち受けている。そこから奥の広場までが公園のメインストリートだ。並木道に、砂利と石畳。久しぶりに来たから道がわからないな。確か右に行くとピクニックができそうな芝生があって、左が水族館だったか。休日なら大道芸をやっていたりと賑わっているが、平日の夕方は人がちらほらいる程度だ。
「で、何をしに来たんだっけ」
知恵が本末転倒なことを言う。
「ドラゴンを調べるんだろ。でも、確かに何を調べたもんかな」
「昔はここにドラゴンがいたんでしょ?その場所を見たらいいかなあ」
今回は知恵も自信なさげだ。ここに来るのは海野が勝手に決めたことだから、仕方がないか。
「まあまあ、せっかく来たんだからさ、遊ぼうぜ。向こうに行けば芝生の広場だし、こっちに行けば水族館だ」
俺の記憶はおおよそ合っていたらしい。しかしドラゴンを調べに行こうと連れてきた本人がそれでいいのか。
「水族館行きたい!もう何年行ってないんだ」
* * *
ドラゴンについて調べに来たはずが、俺たちは水族館で魚を見ている。
「わー!見て!サメだって!」
「すげー!やっぱかっこいいな」
知恵と海野は興奮ぎみに楽しんでいる。俺も水族館に来ることは否定しなかった。そもそも知恵と一緒にいられればいいわけで、なぜ江戸川区にドラゴンがいないのかについてはそれほど興味があるわけじゃない。
知恵と一緒に水族館に行けるとなったら、そりゃあそっちの方がいいさ。
「こっちはマグロだ!はやい!」
「いっぱい泳いでるねー。このマグロも食べたらおいしいのかなあ」
でも公園に来たのも水族館に入ったのも海野の提案なわけで、海野が一緒じゃなければ来てないんだよな。どう思ったものか。でもちょっと知恵と仲良くはしゃぎすぎじゃないか?
「ほら、竜一くんも来なよ!あっちにペンギンがいるみたいだよ!」
楽しそうな笑顔で俺を呼ぶ知恵を見て、やっぱり感謝の方が大きいな、と思った。
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