1章 調べに行こう!
第5話 江戸川区の大きい公園といえば
「ほんとに見に行ったんだ、ドラゴン」
俺の隣の席、つまり知恵の席に女子が3人集まっている。1人は自分の席に座っている知恵で、あとの2人は知恵と仲の良い吉田美穂と二宮明里だ。
「うん、やっぱり行って良かったよ」
吉田と二宮は興味無さそうに話を聞いているが、知恵は楽しそうだ。
「ね、すごかったよね、新宿のドラゴン」
そう言って知恵はこちらを見る。
それに合わせて吉田と二宮が俺の顔を見る。
「あ、ああ、そうだね」
正直に言ってあまり女子に慣れていない俺は、クラスの中でも人気のある3人に話しかけられると愛想笑いしかできない。
なんでニコニコしているんだと変に思われないだろうか。
「何ニヤニヤしてんの?」
冷たい目でそう言ったのは二宮明里だ。
ニヤニヤ?ニコニコじゃなく?俺の顔はそんなふうに見えるのか。仮にそうだとしても、知恵の前でそんな言い方しなくてもいいじゃないか。二宮。こいつは敵だ。
「い、いや、別に」
それでもこんな返事しかできない自分は、すごくダサいと思う。
「でも、なんで江戸川区にはドラゴンがいないんだろうなあ。どうしたらわかるんだろ?」
わざとらしく困った顔をする知恵に対して、吉田と二宮は相変わらずの興味無い顔で「さあ」と返す。
「なになに、何の話?」
突然、後ろから話しかけてきたのは同じクラスの海野誠司だ。こいつは俺の嫌いなやつランキングでも上位に入る。なぜならばイケメンで社交的で女子とも気軽に話ができるという嫌味なやつだからだ。
しかし、海野は学校では「残念なイケメン」として有名だ。何が残念かと言うと、それはこの男の趣味だ。
「ドラゴンがどうしたって?わからないことがあれば俺に聞きなよ。ドラゴンのことならだいたい知ってるぜ。浦安の夢龍のことか?それとも最近新種に変わったっていう埼玉龍か?新種は鱗が赤いらしいな。爪まで赤いっていうから珍しいよな。眼光が鋭くてかっこいいから俺はなかなか好みだが、まだ生態系がわかってないからマニアの中でも意見が分かれるところだ。」
そう、海野誠司は顔に似合わず、コアなドラゴンマニアなのである。誰彼構わずドラゴンの話をして、しかも早口で止めるタイミングを与えないという厄介なタイプのオタクだ。
「どうして江戸川区にはドラゴンがいないの?」
「・・・」
そうきたか、という顔をして海野が黙る。
「知らないの?」
「あのね」
海野は額に汗をかきながら反論をする。
「なぜ江戸川区にドラゴンがいないか。それはドラゴン学者だって解き明かしていない謎なんだ。いくら俺がこの学校で、いや、日本の高校生で一番ドラゴンに詳しいって言ったって、難しいことはあるよ」
「つまり知らないのね」
知恵はつまらなそうな顔をする。でもこれは海野をからかってわざとしている気もする。そんなことはどうでもいいが、俺は海野が知恵と話をする方が面白くない。
「だから〜、俺が知らないんじゃなくて、誰も知らないんだよ」
「ふーん、いいよ、べつに。自分たちで調べるから」
そう言って知恵が俺の顔を見る。
「あ、ああ、そうだな」
「でも何から調べたらいいんだろう。詳しい人に聞いても知らないっていうし、まずは図書館でドラゴンについて調べてみるかなあ」
本には書いていないだろうけど、何にせよ基礎知識がないからな。本で調べてみるのもありだろう。
「それよりもまずは現地調査でしょ!」
困った顔の知恵に、海野が人差し指を上に向けて提案をする。
「昔は江戸川区にもドラゴンがいたって、知ってた?」
「え!そうなの?」
知恵は驚いているが、俺は昔どこかで聞いた気がする。確か江戸川区は海の中に龍が住んでいたんじゃなかったか。水龍だ。
「だから、まずは昔ドラゴンがいた場所を見に行こうぜ」
「いいね、海野くん、ノリいいじゃん」
知恵はテンションが上がっているが、俺の気分は下り坂だ。知恵と俺だけの共通点だったのに、余計なやつが仲間に加わってしまった。こいつはこうやって、積極的に誰とでも仲良くなることができるやつなんだ。
「ドラゴンのことを調べるっているなら俺がいなきゃ始まらないでしょ。じゃあ、学校が終わったらすぐ行こう」
休み時間の終わりを告げるベルが鳴り、海野は自分の席に戻りながらこっちを振り向いて行き先を言った。
「葛西臨海公園に」
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