第3話 黒神龍の咆哮と少女
新宿御苑に入ってしばらく歩くと大きな芝生の広場があり、その中心に新宿区の親龍である黒神龍がいる。大きな体を丸め、犬が寝るような格好で横たわっている。
周りには観光客や遠足の子どもが集まっていたが、それほど混雑しているわけではない。芝生で遊んでいるカップルや家族連れもそれなりにいるようだ。
芝生の広場には、入り口で見たような小型のドラゴンもたくさんいる。神龍に寄り添うようにくつろいで寝ているドラゴンもいれば、走り回っているドラゴンもいる。その全てが、俺にとっては恐怖の対象だ。
「すっごい!!大きいね!!」
知恵は大興奮だ。
「船堀タワーより大きいかな?」
知らん!どこだそれ。
ドラゴン観光というのは遠足や修学旅行で見に行く以外は、年寄りの趣味というイメージだ。ドラゴンは大昔からいて、歴史や地理の授業で学ぶ。趣味としては寺や城に近い。しかし改めて近くで見てみるとこれほど大きな生き物は他にいないし、知恵はドラゴン自体初めてみるのだから、驚きは大きいだろう。
「ん?」
何か今音がしたような気がした。黒神龍の方から、うめき声のような。
「今、ドラゴン何か言った?」
勘違いではなかった。知恵にも聞こえていたようだ。しかし黒神龍を見ても、変わった様子はない。
知恵は写真を撮ったり、しゃがんで眺めてみたりと忙しそうだ。俺はなんとか平静を保って居るが、巨大な黒い龍の迫力で動けない。このまま何事もなく、早めに終わってくれるといいが。
「あれ、もしかして竜一兄ちゃん」
突然、予想外の方向から話しかけられて振り向くと、小学生か中学生くらいの女の子が立っていた。目が合うとにこっと笑った。
「こんなところで何してるの?」
「咲ちゃん」
竜宮咲は親戚の女の子だ。確か3つ年下だったはず。正月に親戚の集まりで顔を見るくらいで、それほど親しくもない。
「誰?」
知恵が興味しんしんに咲の顔を覗き込む。
「親戚の子だよ、偶然来てたみたいだ」
咲ちゃんが知恵を見て、ぺこっとお辞儀をする。
「咲ちゃんは何でここに?」
「お
咲ちゃんの家は龍を祀っている歴史ある家で、子どもの頃から祈祷などの修行をすると聞いたことがある。俺の家は分家だからそこまでではないが、似たようなことはあるのでなんとなく想像もつく。
「そうか、大変だね」
「竜一兄ちゃんはデート?」
子どもというのは恐ろしいものだ。思ったことがすぐに口から出る。これがデートかデートじゃないかで言えば答えはわからないが、デートと言えなくもないし、デートと言っても過言ではない。
顔がにやけないようにぐっとこらえて「そうだよ」と答えようとしたその時。
「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
黒神龍が雄叫びを上げた。
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