第6話 8月3日 動き出す政府① ☆

俺の名は服部、国交省の大臣だ。

若くから様々な経験を積んできた俺は、優秀な部下とライバルに恵まれ、今年の春にとうとう頂点まで上り詰めた。

任期1年目にしてオリンピックという大きな仕事を抱える俺は、この大事な時期に発生したこんな珍事に頭を抱えることになるとは思ってもいなかった。

水泳の予選大会は録画で見るしかないようだ。


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「大臣!た、た、大変です!」


「どうしたね。根木君。落ち着いて話しなさい。」


「は、はい、大臣。その、まずはこの映像をご確認ください。」


根木君がパソコンに表示して見せてくれたその映像はにわかには信じられないものだった。

動く大根。植物なのか動物なのかも分からないが、知性を感じ、さらに繁殖、いや、増殖する生命体。


頬を冷たい汗がつたう。

この映像が本当だとすると、地球に、第2の知的生命体か誕生したことになる。

危急の事態だ。


「……根木君、この映像が加工である線は?」


「残念ながら。西東京の一帯ではこの映像のような事が相次ぎ、大根がほぼ全ての店の店頭から消えたそうです。」


「そうか…。」


「また、出動した警察官が一匹、いや一本でしょうか、この大根を一つ生きたまま捕獲したとの報告が上がっております。」


「なにっ!その大根を農水省に急いで送らせろ。研究してもらうのだ。」


「はっ。」


「それと根木君、その大根達に対する目撃情報を探れ。UMAでもマッドサイエンティストでも構わん、原因を見つけだすのだ。」



大変なことになったぞ。

専門家を招集して政府主導の会議を行わなくては。


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「それではこれより第一回特殊生命体・暫定大根対策会議を行います。司会は私、国土交通省職員の根木が務めさせていただきます。」


あれから緊急の電話で各省庁に連絡を入れ、専門家を呼んだ。

専門家と言っても相手は未知の生命体、既知の大根に関する専門家が多い。


・大根の栽培について研究している大学教授、大野。

・数々の大根料理を世に送り出してきた料理研究家、安藤。

・未知の生命体との対策を誰よりも知るプロSF作家、西野。


この3人と首相、各省庁の代表者、それから国・防・農の職員達が会議の参加者だ。



「まずは私から、この生命体を研究して分かったことを述べます。」


大野教授曰く、


この特殊生命体は通常の大根と同じ組成であり、動ける原理は不明。

一定時間そばに置いて変性するのは大根だけであり、人参やその他の野菜は変化がなかった。

ジェスチャーで意思の疎通は図れるが、ダイコンとしか話さないので会話は不可能。

呼吸や光合成の機能は健在。

五感や痛覚は存在する。

知的生命体として殺すわけには行かなかったので、味は不明。


「続いて国交省から報告をします。お手元の資料の6ページをご覧下さい。」

根木君が発言した。


「資料の写真を見て頂ければ分かるように、国立駅及び調布駅の駅前に大量の大根がおります。そのため現在バスやタクシー乗り場が使えず、交通網に大きな影響が出ております。また、複数の一般道で大根の集団が信号待ちをしてから横断歩道を渡る所を目撃されており、多少の知能が予想されます。」



「ひき続いて農水省からもご報告がございます。資料の10ページをご覧下さい。」

農水省職員が発言した。


「都内の複数の農家から夕方に畑を見に行った際、収穫間際の大根だけががひとりでに畑から這い出しているのを発見したという連絡がありました。また、その傍には種類の違う大根がいた事から、畑で育てられている収穫間際の大根のみが変性されたことが起きたと予想されます。」


「報告は以上です。会議を主催した服部国土交通省大臣、発言をお願いします。」



「服部です。まずは情報の規制を図ることから始めるべきだと思います。今はオリンピックが開催中であり、無用の混乱を起こさないことが第一でしょう。」


私が発言を終えたその時、会議室に部下が飛び込んできた。


「大臣、発見しました!大根の最初の目撃情報です!」


「な、なにっ!」




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーシリアスパート開幕…!

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