第4話 8月3日 ①
今日は月曜日。
大根のおかげでいいことと悪いことがあった。
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俺が出勤しようとした時、問題は起こった。
月曜は朝礼があるため俺は普段より早めに出勤しなくてはいけないのだが、家を出る時に大根達が着いてこようとしたのだ。
昨日の夜も書いたが、この大根達はお隣さんのもの、彼が帰ってくるまでは大根達には家にいてくれなきゃ困る。
だから俺は大根達を庭に閉じ込めようとしたのだけど、奴らめ、玄関のゲートにガンガン体当たりしやがって。壊れたらどうすんだ。借家なんだぞ。くそっ。
結局俺は大根を連れて歩くことにした。
月曜の朝礼に遅刻するわけにはいかなかったからな。
今思えば、昨日無理してでも庭に埋めとけばよかった。
俺のそういう後先考えないで場のノリに流されやすいところが、いつまでもうだつのあがらない原因なんだよなぁ。
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大根達は八王子駅まで着いてきた。
そして朝の通勤ラッシュに飲まれて消えた。
もしこの日記を読む人がいたら何か騒動が起こるはずだと思うかもしれない。
確かに少しは騒ぎになった。
だけどほとんどの人は大根を気にしていなかった。
まあ、考えてみれば当たり前だ。
いくら動く大根が奇妙でも朝は忙しい。
ジョギング中で時間があるならともかく、通勤中や通学中なのだ。駅前にいる政治家のスピーチに興味を持てないのと同じだろう。
後は大根達が歩いていなかったのも騒ぎにならなかった理由の1つだと思う。
奴らを庭に閉じ込めようと奮闘してる間に出勤時間がギリギリになってしまったので、俺は駅まで走ったのだけど、そしたら奴ら、スポーツ選手のようなキレのいい走りで着いてきたのだ。
手のような突起がもう少し長ければ、格好良かったのだが。
歩き方はキモイが走り方は美しい、それが動く大根なのだ。
とにかく、大根達は八王子駅の朝のラッシュに飲まれてしまった。
八王子駅からは私鉄やJR合わせていくつもの路線が出ている。
俺は毎日使う私鉄京王線のホームでも電車に乗ろうとする一本の大根を見つけたのだから、おそらくJRに乗った大根もいるだろう。
満員電車の俺の足元でピョンピョンと飛び跳ねる大根を見ながら、お隣さんが帰ってきたらなんと言おうか考えていた。
「あのー、それ、何ですか?大根型のAIロボットですか?」
そんな時、横で参考書をドアに向かって広げていた制服の女子高生が話しかけてきた。
俺は慌てて答えた。
「え、いや、俺もよく知らないんだよ。たまたま拾ってさ。確かにロボットなのかもね!」
ぎゅうぎゅうの車内で隣と言えば相当に近いが、俺は30を超えているので、何か特別な感情をその女子高生に抱くことはありえないと言っても過言ではないと断言するに足る十分な証拠を俺は持ちえているが、この日記のページが狭すぎるのでここに書くことは出来ない。
断じて言い訳をしている訳では無い。
その女子高生、樹里ちゃんがなかなか会話上手で、気がつくと俺はLINEを交換していた。
俺みたいな三十超えたおじさんが女子高生とLINEを交換できるなんて、きっかけとなった大根は幸運をもたらしてくれるお守りみたいなものかもしれない。
プシューという炭酸ガスの抜けるような音とともに電車のドアが開いた。
「あっ、そうだ。丈太郎さん、大根を一瞬貸してくれませんか?ほんとに一瞬でいいので。」
ホームに降りた俺と樹里ちゃんは人の群れを避けて柱の裏へ行った。
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