第3話 8月2日 ③

そう、お忘れかもしれないが、この動く大根達はお隣さんの畑に生えていた、要はお隣さんの大根なのだ。


ここで大根好きなお隣さんの説明をする前に、俺の住んでいる家について軽く話しておかなくてはいけない。

俺は去年の冬まで世田谷の安いボロアパートに住んでいた。しかし、たまたま親戚が家族で海外転勤することになり、転勤が終わるまでの間家を管理することを条件に、八王子の庭付き一軒家をタダで貸してもらっているのだ。駅からは程々に遠いが、歩いて行けない距離ではない。


そして、引っ越してきてから半年たった今、肝心のお隣さんはいまだ俺の中でベールに包まれた存在のままだった。

お隣は白長根さんというのだが、彼について俺は、いつも真っ白な白衣を来ているスラッとした長身で、頭は爆発したようなアフロヘアーであり、毎日全身黒い格好をした人が複数人家を出入りしていることぐらいしか知らないのだ。

俺はその特徴的な見た目を活かしてYouTuberをやってるんじゃないかと睨んでいる。黒服は撮影スタッフじゃないか、とも。



つまり、この動く大根達は白長根さんのものであり、大根がついてきてしまったのはしょうがないとしても、彼らをどうするべきかは白長根さんが決めることだ。

そう考えて、俺は白長根さん宅の玄関に向かったのだ。

そしたら何があったと思う?

玄関ドアに、一週間家を留守にします、って張り紙があったんだ。



今、貴方はバカだと思っただろうけど、俺もバカだと思った。

少し駅から遠くて家の前を通るのは知り合いぐらいしかいないとは言っても、自分から留守を宣言して空き巣にあうことを考えなかったんだろうか。


こうして俺は白長根さんが帰ってくるまでの一週間、庭に転がってるこの大根達を管理しなければ行けなくなったのだ。



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今日は柔道の試合をテレビで見ながら、大根の収穫後の保存方法を色々調べた。

基本的に自炊しない一人暮らしなので、夏に取れる大根が辛口だということを知って驚いたりということはあったが、どういう訳か夏に収穫する大根はメジャーではないらしく、夏場の保存方法は何もヒットしなかった。


しょうがないので、俺は秋収穫の大根の保存方法を使うことにした。

方法は3種類あって、畑から抜かずに土を被せる方法と、抜いて葉っぱを切り落とし、冷蔵庫にしまう方法、そして抜いたのを改めて地面に埋める方法があった。

既に抜けていたので1つ目は使えず、大根は何十本とあるので家の冷蔵庫にはしまいきれない。

だから3つ目の改めて埋める方法を試したんだ。


まず、親戚の奥さんが残した庭の土いじり用のスペースに大きな穴を掘った。

庭の中をうろうろしていた大根を片っ端から捕まえて穴の中へ投げ込む…と怒ったので、そっと置いていった。

そして最後に土を掛けていったんだが、これがどうしたことが、奴らめ、ぎゃーきゃー叫び出したのだ。

どうやら土の中で育ったくせに土の中へ戻りたくないらしい、と分かった時既に夕方になっていた。

仕方なく彼らを穴から出して土を元に戻し、家の中に戻ってシャワーを浴びた。

俺の日曜日はこうして潰えたのだ。

おのれ大根め。

なんかこうして一日に起きたことを書いてると大根のあのおじさん顔が憎たらしく思えてきた。

早いとこ白長根さんに取りに来て欲しいものだ。

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