第11話 遅れて来た男。
宇宙港から警備隊に追われながら走る博士一行。
リイナはさっきまで仮死状態であった為か動きが鈍い。
仕方なくアークが抱えて走り出す。
老人と娘を抱えた男じゃ追い付かれるのも時間の問題だった。
あと数メートルまで追い付かれてしまった。
博士の体力も限界に差し掛かったその時、その間を土煙を上げて横滑りするコンバットバギーが割って入る。
操縦者のサングラスの男は短く「乗って」と言い放ち、一行は慌ててシートへ飛び込む。
バギーはその大出力のエンジンでパンク知らずのタイヤをぶん回して急発進し追手を置き去りにした。
飛び乗った博士達は身を固くしてGに耐えた。
巻き起こるドンパチを
来た時の物とは別のドアを潜り、何とか再び物陰に身を隠した。
フィルが振り返るとウンザリ顔のリマ、ドクは何やら難しい顔をしていた。
「ん?ドク、どうかした?」
「いやぁ、いくら何でもあの三白眼、都合よく現れ過ぎなんじゃないかと」
「んー、確かに」
ハッと何かに気付いた様子のドクは小脇に抱えていた工具ケースから棒状の何かを取り出す。
「お前さん……まさか」
フィルにその棒状の物を掲げると、赤いLEDが点滅し始める。
「やっぱり……」
「え?何よ」
意味が分からないフィルがキョトンとして聞き直す。
ドクがその棒状の物をフィルの色々な部分へ掲げると、襟首あたりでLEDの点滅が早くなる。
ドクは薄汚れたアーミージャケットの襟をひっくり返すと透明なフィルムが貼り付いていた。
ガッチリくっ付いている1㎝角のフィルムをドクは力一杯ひっぺがす。
「こいつが位置を知らせてたんじゃのぅ」
「あちゃー……」
額に手を当てオーバーアクションのフィル、リマはため息。
複数貼り付いていないか、ドクは念入りに捜索。
ご丁寧にもズボンの裾にも貼り付いていた。
まったくご苦労なことで。
「しゃーない、逆にこいつで撹乱してやるかのぅ」
ドクが悪い顔をしている。
「そんなに上手くいくかねぇ」
呆れ顔のリマがボソリ。
「ところでフィルよ、ずっと気になっておったのじゃがのぅ」
「ん?どうしたのさドク」
「なんでお前さん宇宙軍管轄の要塞でその陸軍のアーミールックなんじゃ?」
「いや、だっておれ陸軍じゃん?元々戦車隊だし」
「要塞にゃ陸軍はおらんぞ?」
「んー、宇宙軍に転属なんて命令受けてないけどなぁ、都市迷彩を支給し忘れたとか?」
「本当にそれだけかのう?どんなに腐っても軍は規律でもっているようなもんじゃろ。所属がはっきりしない者なんて放っとくじゃろうか?」
「そんなこと言われてもなー」
「ふむ、わからんが何か気になるのぅ。まぁ、そのうちわかるかもじゃな。さ、先を急ごうか」
「急ごうって、何処へ行く気なんだい?」
「一つ、思い出した事があるんじゃよ。ふふ、まあ派手にいこうじゃないか」
ドクの言葉を聞いて、嫌な予感にリマは深いため息をついた。
「フィル、お前さんの携帯端末を少し貸してくれんか」
「お、OK」
フィルはポケットからハンドヘルドPCを取り出し、セキュリティを解除してドクに渡した。
ドクは何やら打ち込んでMAPを調べ始めた。
「ふむふむ。なるほどのぅ。マリアはおるかの?」
「ほいっ!っと」
またしても黒ずくめの少女は暗がりから音もなく現れた。
「わぁ!」
お約束の通り驚くフィル。
「本当はずっと後ろにいたとか?」
「そんなわけないじゃないですかぁ。これでも忙しいんですからぁ」
「あぁ、そうなんだ……」
気の抜けた返事を返した。
ドクは無視して続ける。
「マリアよ、ここの、ここら辺りの感じはどうかのぅ?なるべくなら忍び込みたいのじゃが」
「ほいほい、また難儀な所へお出かけで。えーと」
ドクがPCに映し出されている立体MAPをマリアに見せると、マリアは自身のタブレット端末を懐から出して操作し始める。
「ここいらはこんな感じでして、こっちからこうですねぇ。もしよかったらもう一仕事しましょうか?お安くしますよぉ」
タブレットを見せながら何やらやり取りした後、手もみポーズのマリア。
「うむ、では頼もうとするかの。無理はするなよマリア」
「はいなっ!おっと、忘れてた。レイカさんから預かっていたので~」
前に回収を頼んだコミューターの電子キーだった。
「それと、怪しい二人組と棺桶がシャトルで降下したそうですぅ」
「棺桶ぇ?それって……まさか」
「察しがいいですねぇ。その、まさからしいですぅ。ではでは後程~」
スッと闇に入ると気配が消えた。
「棺桶って……、リイナがそいつで運ばれた?」
「そう考えるのが正しそうじゃの。ますますこれから行く所が適所じゃ。わしらも降りるぞ」
「おいおい、仮にもお尋ね者のわたしらがどうやって……」
リマが思わずツッコミを入れる。
「なぁに、敵は軍全体じゃないじゃろ。一部の三白眼配下の過激派じゃ。どうにかなるわい」
「はぁ、嫌な予感しかしないんだけど」
「まさにその通りじゃ!リマにはひと働きしてもらうからのぅ、ふひひ」
ドクは白い歯を見せながらニヤリとし、親指を立て見せた。
リイナ達を乗せたコンバットバギーは連合軍領の外れの荒野を疾走していた。
ゼイゼイと荒い息をしていた博士はやっとの思いで声をふり絞った。
「すまなかったね、日向君。荒事になってしまったよ」
運転しているサングラスの男が
「いえ、間一髪でしたな。ご無事で何より。少し休んでいてください」
そう返した。どうやら顔見知りであるようだった。
リイナはまだ状況を飲み込めず、頭もはっきりしないので流れに任せた。
延々と続く荒野を激しい土埃を巻き上げながら疾走し続け、断崖を回り込んでとある洞窟のような場所に辿り着く。
日向と呼ばれたサングラスの男は、コンバットバギーを止めエンジンを停止させた。
「一回乗り換えます。こちらへ」
奥には別の装甲車両が停車されており、奥へ進む下りの道が続いていた。
「念の為、少し時間を置いて出発します。少し休憩しましょう」
日向はバギーに積んでいた荷物を装甲車へ積み直し、そこから各々に飲み物のボトルを配った。
一行は周囲の状況を確認し、追手がいないか見張りをして、夕暮れを待った。
陽が傾き夕焼けが荒野を照らす頃、装甲車に乗り込み地下へと入った。
少し入った所で、進む道をカモフラージュの為、瓦礫で塞いでから再び走らせた。
中はまさに洞窟然としていて硬めのサスペンションからゴツゴツした表面が伝わってくる。
小一時間走った先にようやく外界につながる出口への上り坂が現れる。
日向は一旦そこで車を止め、外界の様子を双眼鏡で確認しに出た。
「確かに追いかけられているんだけど、ずいぶん慎重なんだね」
黙っていたリイナが日向の動向を見て呟いた。
「彼は軍属だからな、真面目なのさ」
「へぇ、軍の人なのに私達を助けるんだぁ?」
「軍とて一枚岩ではないのさ。いろんな者がいる。父上だってそうだろう?」
「そういえば……そうだね。お父さん、どうしてるかなぁ」
父の意図が分からないせいか、何か上の空のようにリイナは答えた。
安全を確認し終えた日向は、運転席に戻り装甲車を発進させた。
目指していた目的地に着いたのは、どっぷり日が暮れて深夜に至った。
命からがら地下施設から抜け出したフィル達。
そこへ思いがけないヤツが現れるのだった。
「や~っとみつけたっ!ひぃ~疲れた」
やけに歯の白い金髪の軽薄そうな優男だ。
「ん?なんだこいつ」
フィルは咄嗟にベイリスF96Rを引き抜き現れた男の頭に突きつける。
「わ~待った!待った!」
金髪は慌てて両手を上げた。
「敵じゃないんですってばぁ」
「怪しいなぁ。私は敵ですなんて言うヤツいないもん」
「そりゃーそうですけど。んで、リイナ嬢は?」
「へ?」
「少将閣下からの依頼でエスコートしに来たんですけど、どっか行っちゃうし!さらわれちゃうし!!あなた達と一緒に居るのはわかってんですよ!」
「え、今頃?二人組にさらわれてフォルゲナよ?今頃……」
「そんなぁー!少将閣下に殺される……」
「ところでアンタ誰?」
「申し遅れましたっ!連合陸軍アストリアス・ベレト少尉でありますっ」
現役の少尉だった。
フィルは自分より高位の階級の金髪にチッと舌打ちした。
「そういうことだから。残念でしたーさようなら~」
冷たくあしらうフィル。
「ちょーっと待った!リイナ嬢探しに行くんじゃないんですか?」
「内緒っ!」
「ぜーったいそうなんだ!一緒に連れてってくださいよぉ」
「なんでさ」
「なんでって、目的同じじゃないですかぁ!このままだと閣下に殺されちゃいますよ!!」
「知らんがな~あーなんか鬱陶しいコイツ」
押し問答していると
「あー!もううるさいねっ。少し黙んなっ」
リマが苛立ちだした。
「あんた、付いて来んのはいいけどね、シャキッと働きなっ!」
リマが言い放つと
「了解しましたっ!」
アストリアスはビシッと敬礼した。
こうしてまたよくわからんヤツが同行することになったのである。
一行はマリアから受け取った電子キーの位置表示を頼りにコミューターまでたどり着いた。
ぶち込んであったずた袋をようやく回収できた。
その横にはリイナが引っ張っていた旅行ケースも無事だ。
「リイナ……あいつ、大丈夫かな」
ケースを指先で触れ、フィルはぽつりとつぶやいた。
「介入した第三者が何者かもわからん。本当に棺桶入りになってなきゃいいがのぅ」
「縁起でもない事言うんじゃないよ!さっさと追いかけるよっ」
物騒な物言いのドクにリマが突っかかる。
これでいてなかなかの名コンビではないだろうか。
行く先を把握しているのはドクだけなので、ドクが運転、リマがナビシート。
フィルとアストリアスは荷物と一緒に荷台で尻の痛さと格闘担当だ。
途中でゴミの中から拾ったプラスチックボトルに、フィルに貼られていた追跡フィルムを放り込んで2枚別々に下水に流した。
これで攪乱になってくれればよいのだが。
また荒いドクの運転に振り回されながら、くねって入り組んだ構造材の谷間を疾走する。
「おい、この方向って軍港の方じゃないのか?」
数時間走りっぱなしで進んできた方角には軍の施設が固まって存在する。
「そうじゃよ。ちと面白いもんを隠してあるんじゃよ」
運転しながら不敵な笑いを浮かべるドク。
「全くいつそんなもん仕込んでやがったんだこの爺さん!」
とリマ。
どうせろくでも無い事を考えているに違いない。
「そうだ、アストリアスは現役少尉なんだよな?」
「ええ、そうですけど?」
「ならさ、軍施設入り放題じゃん!」
「そうじゃのぅ、早速役立ててよかったのぅあんちゃん」
「ええぇ~、なんか、嫌な予感しかしないんですけど~」
コミューターのフレームにしがみついているアストリアスがすごく嫌な顔をした。
リイナがたどり着いた場所は、荒野の中にあるオアシスともいうべき小さな湖の畔の林だった。
日向は何かのリモートコントローラーを操作し装甲車をそのまま林に入れた。
そこには木々に隠されていた古びた背の高い建物があった。
その建物につながる格納庫のようなところに装甲車は滑り込んだ。
「ここがわたしの研究施設だよ。さあ、案内しよう」
装甲車を降りた博士は壁のパネルを操作すると、建物がフォログラムでカモフラージュされる。
そして、奥へと歩みを進めた。
「もう深夜なので紹介だけにして、詳しくは明日にしよう。さぁこっちだ」
博士は扉を開けると背の高い建物に入って行く。
背の高い建物は外観通りの吹き抜けで、中には天井まで伸びる大きな機械がそびえる。
「こいつは旧式ながら量子コンピューターというやつだよ」
歩きながら博士は説明する。
リイナにはよくわからないが、傍を歩くと膨大な熱を感じた。
よくわからないパイプが床を這い、そのコンピューターへとつながる。
そして、奥へ進むと円筒形のガラスで出来たケースが横たわっていた。
中には液体が満たされて循環しているようだった。
「紹介しよう、彼女がナッツ。お前のクローン体だよ」
リイナはそのガラスケースを覗き込んだ。
ピッタリとしたスーツを着て、そこには多くの電極が接続され、口には酸素吸入器が装着されている少女が浮いていた。
すごく髪の長い少女だった。
だがクローンといっても自分を見るような感じはしなかった。
「彼女がナッツ!わたしの妹……なんか思ったより似てないんだね」
「クローンといっても、細かい遺伝子情報の操作や成長の過程で変化するんだよ。でも目覚めたらもう少し似てると感じるんじゃないかな」
「そう……なんだね。初めまして、なっちゃん。助けてあげるからね」
リイナはそう告げてガラスケースにそっと触れた。
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