第80話 辞退 〜3〜

 俺はそんな東條を見て何も言えずにいた時、東條は少し袖が長めの制服で涙を拭った。


 「嫌…ですか…?私が…影井先輩と一緒にいたいと言ったら…」


 啜り泣きながら、微かな声でそんな言葉が聞き取れた。

 一緒にいたいだなんてそんな…話を大袈裟にしすぎではないのか…。


 「…いや、そんなことは決してないけど…」


 東條は顔を少し上げて、もう一度下げた。


 「ここで…離れてしまったら…もう、私は影井先輩との接点がなくなってしまうのではないかって…」


 それは…まぁ、そうかもしれないが…。

 そして、東條は頭を小刻みに横に振った。


 「…ご、ごめんなさい…。本当に…困らせてしまいましたよね…。そんなつもりで言った訳じゃなくても…私が先輩に辞めないでほしいって…そう求めてるみたいですよね…」


 そんな風に捉えてしまっているのは本当だが…。


 「いいんです…私のことには構わず、影井先輩はしたいように…してください」


 そうは言ってもな…そんなことを聞いてしまったら…。

 東條の暗く落ち込んでいる表情を見て俺はこう答えた。


 「…そうだ、まだ俺が負けると限ってはいないから…」

 「でも…先輩は、負けるつもりでいますよね…」


 …えっ、どうしてそのことがバレているのだ…?

 涙を完全に拭き切ってから、東條は前を向きこちらを見た。


 「…私は、今朝学校に来た時に…このようなことになっていて…驚いたんです」


 そりゃ、あの状態なら嫌でも目に入るよな…。


 「それで…気になったんです…。どうしてこんなことになっているのかって…。どのような理由があったのかと思って…それでも、誰にも聞けずにいて…」


 俺だって誰にも話していなかったからな…。


 「昼休みになった時に…秋山先輩にも会えなかったので…影井先輩のいる教室へ直接行こうと向かったのです…。もし話が聞けなくても…何かがわかるかもしれないと…そう思いまして」


 東條がそんなことをしていたのか…。

 まるで俺がしていたことと同じようではないか。


 昼休み…というと、あのクラスの生徒達に対しての言動を見られていたということか…。あの時、確かに俺は票が佐野の方へ入るようにと働いた訳だが…。


 「…そして、見に行った時には…影井先輩は何方かの生徒と話をしていて…その会話も聞こえてきたのですが…。影井先輩は…あのような事は言わないのではないかと不自然に思ったのです。…なので、私はそんな結論に至ったのですが…。どう…なのですか?私の思っていること…当たっていますか?」


 どう…と聞かれても、その通りとしか言えないのだが…。


 

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