第79話 辞退 〜2〜
「…考え直したりはしない?」
「…はい、私がここに残るのだとしたら…それは影井先輩も残る時だけです…」
…こうなってくると、俺も辞めるに辞められないじゃないか…。
「…東條さんが俺に対してそこまで思われるような何かをした覚えもないのだが…」
東條は少しだけ顔を上げて答えた。
「…私はその…本当に…嬉しかったんです…。影井先輩…私の為に色々してくれたんですよね…」
色々…?
何のことだろうかと記憶を辿ってみた。
思い浮んだのは俺が秋山に一緒にいてあげて欲しいと頼んだ事や、美術部でのいざこざの問題だった。
「…しっかりとお礼を言えていなかったんですけど…改めて、本当にありがとうございました」
「…いや、俺じゃなくて秋山や神崎がしてくれた事なんだ、俺なんか何もしていないんだ…」
「…あ、はい。その事なら…秋山先輩や神崎先輩にもお礼をしたのです。…でも、お二人とも影井先輩が考えてくれた事だから、感謝するなら影井先輩にした方がいいと…言われてました」
…苦手なんだがな、こういう感謝されるのは…。
「それから…それだけではないのです。感謝したいこと…と言いますか…謝りたいこと…が」
…他にあるのか?
「…ごめんなさい…私が頼んでしまったからですよね…影井先輩が今の仕打ちを受けてしまっているのは…」
…。
考えてみて気がついた。そうだ、相談されてたことについてか。東條の相談を受け、そして美術部員の拗れた関係を修復しようとして、俺が現状に至っていることについてか…。色々なことがあったせいか、それは出てこなかった。
しかし…何故知っていたのだ?そのことを…。
「私があんな事を頼んだから…影井先輩は…先輩達の方々から酷いことを…」
「…知ってたの?」
「…はい。秋山先輩から聞いたんです…」
言わなくていいというのに…。
「その事なら…別にいいよ、俺がやりたくてした事だから」
「…でも…こんなことになるのなら…私は頼みませんでした…」
まぁ…そう思うだろうなぁ…。
「身勝手な事を頼んで…先輩に迷惑をかけてしまって…。私は…どう責任を取ればいいのか…」
「…いいんだって。…これでもう、東條さんが心配するようなことはない…なんて、断言もできないけど…。…東條さんにはもう、俺なんて必要無いんじゃないかな。大したこともしてあげられてないし…俺に出来ることなんてもう何もないだろうから… 」
すると、東條は真下を向いて自分の膝元を見るようにして俯いていた。
どうかしたのだろうかと顔をじっと見てみると、少量の涙が頬を伝っていた。
…えっ!?どうして…何故泣いているんだ…。
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