第64話 落選者
二時間目が始まる前、秋山は自分の席へと戻ってきた。話を聞けば、言った通りにしっかりと話を済ませて、思いの外すぐに言うことは聞いてくれたらしい。
とりあえず、まだ話は広めないようにとのことになった。そして集めるのはやりたいものだけにすることも了承を得たらしい。
だが、俺の件に関しては聞き入れてくれなかったらしい。
何故だ…どうしてそんな引っかかることをするんだ…。
詳しい話をするのは放課後の生徒会の時間ということになったようだ。
俺もその時に詳しく聞いてから、自分から拒否しようとした。
〜〜〜
昼休みの時間、俺はいつものように教室で一人昼食を食べていた。
そんな時、後ろから誰かが近寄ってくる足音と気配を察知した。
山口達か…?それともまた秋山が何かの用で…。
気になったその後方へ首を少し横に向け、そちらに視線を向けると、制服を見て男子だということに気がついた。
思っていた人物とは違い予想外だった。そして誰なのだろうかと、思い切ってそちらを振り向いてみた。
そこにいた人物、それは見たこともない生徒だった。
顔を見れば、童顔で美形な感じの顔をしている細身の男子だった。スカーフの色で一年だとわかった。
その生徒は俺の席のすぐ近くまで来て、目力の強い視線で座ったままの俺の顔を鋭い眼光で見下ろしていた。
一体誰なんだ…?何の用があるんだ…。
「あなたですか、影井という方は」
突然そんな質問をされた。
誰なのかは知らないが、俺は一応そちらに向けていた頭を縦に頷いた。
「そうか、あなたが生徒会の一人の影井さんですか…」
生徒会の一人…?俺がそう認識されているのか…。
「…いや、生徒会ではないが」
「何言っているんですか!あなたも生徒会の一人なのでしょう!」
その生徒は手に持っていた用紙を俺に向けていた。俺は座ったまま椅子の向きを変えて体をそちらに向け、その持っている用紙を見た。それは、さっき見た霧島が配っていたものだった。そして左指で俺の名前がある部分を指差していた。
そうか…これで知ったのか…。
「…まぁ一応、仮ではあるが…」
「仮…?」
「…色々と訳があってな」
俺は視線をその用紙の方を見ながらそう答えた。依然、目力の強い視線を向けてくるその生徒の威圧感に少し怯えている。
「何故です…何故あなたが生徒会なんかに…」
…?
「薄々勘付いてはいたんですよ、生徒会に新しい人が増えたみたいなことは…」
俺はまだ正式ではなく、表には顔は出していなかったはずだがな…。
「あなたは生徒会選挙にも参加していなかった筈だ。何故入れたのですか?どんな手段を使ったんですか?」
「それは…推薦…というか」
「推薦!?どうしたら推薦なんてされるんですか!」
「会長から入らないかと誘われて…」
「な…なんだって!?会長から!?」
その生徒は驚いた顔をして呆然しているようだった。
「影井さん、学力は良いんですか?何か資格や検定でも持っているんですか?」
「いや…特にないが…」
「何かあるでしょう!秀でている分野とか!」
「これと言ったものは…ないが」
「おかしい…ならどうして会長はあなたなんかを誘って…」
理由なら知っているが、誰とも知れないこの人物に話すことでもないしな…。
「そうだ、方針か!何か学校を良くしたいとか考えていたんですか!」
「いや、別にそんなことは…」
「…本当に言っているのですか?」
俺は無言で頷いた。
「…何か、生徒会活動に積極的に取り組んでいたりしているのではないのですか!?」
「いや、生徒会がやるべき仕事の予算を組んだりして、集会をする活動は俺は抜いてやっているんだ」
手伝っていることはあるのだが…それも言う必要もないだろう。
すると、その生徒は不満そうにして顔付きを変えた。
「そうですか…わかりました。会長があなたのどこに琴線が触れたのかわかりませんが…それならば影井さん、あなたは生徒会には不釣り合いだ」
それは自分でもわかってるつもりだが…そんなこと初対面の奴にいきなり言われたくはない。
「…影井さん、生徒会の座を私に譲ってくれないですか。私の方がずっと生徒会には似つかわしい」
「譲れ…なんて、突然俺に言われても…」
「あなたの発言さえ有ればできるでしょう」
そうはいかないだろう…。それよりもこいつは一体何の目的があるんだ…。
「…その、なんでそんなに入りたいんだ?」
「私のことを存じないのですか?」
いや…知らないだろう。有名な奴か?見たこともない気がするが…。
「…ああ」
「私は今年生徒会選挙に立候補したものです。…でも、落選してしまったのですがね…」
そうか…そう言われるとなんだか見覚えがある気もしてくるが…。
「圧倒的に票数が多かったのはあの霧島とかいうアイドル紛いな奴だった。何も考えちゃいないのに目立ちたいだけで生徒会なんかに入りやがって…!」
酷い言われようだな…。
「次点で票数が多かったのは東條という人だった。…あの人はまだいい、真面そうだ。…だが、私は僅差で負けてしまった」
そういうことだったのか…。
「それで、それは負けたことだと受け入れたのでいいんですよ。…ですが、副会長が学校から去ったと聞いて、席が一つ空いたことを知ったんですよ。そこにあわよくば自分が入れるのかもと思っていたんですよ…!」
そう思うのが必然なのもわかるが…。
「なのに…どうしてやる気もなさそうなあなたが…!…納得できませんよ!変わってください!」
正直、今でも特にやる気のない俺よりもこんなにも意気込みのあるこの生徒がやるべきなのだろうとは思うが…。
…だが、それでも。あの場にいたこと、そして会長との約束だってある。そう簡単に譲れと言われてもできない。
「それは…無理だな」
「何故!あなたにはやる気を感じられない!」
「…そうだが、そんな簡単には渡せない」
「だから何故なんですか!」
「あんたこそ、どうしてそこまで入りたいんだ」
「それは…」
その生徒は両手をぐっと握り、その持っていた用紙をくしゃくしゃにして手に丸め込んだ。
「間違ってるんですよ…何もかも。正義を振りかざしても誰も見向きをしない!…おかしいですよ、何故自分ではなくあの霧島なんて人が…!」
なんだか凄い熱量があるな…。何か訳でもあるのだろうか…。
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