第63話 ルール

 「私も早めに学校に来てるんだけどさ、ここへ来た時にはもう朱鳥ちゃんは校庭にいて登校してきた生徒みんなに話していたみたいだったの…。今歌っているの、あれって人が集まって、それで求められたから歌っているわけなんだって」


 そういうことだったのか…。


 「…それで、結局…なんだったんだ、そのしたいことって」

 「実はね、学校の生徒全員であるゲームがしたいんだってさ」


 ゲーム…?


 「朱鳥ちゃん、自分で作ったそのルールを書いた用紙も用意してて、それも一緒に配ってたんだけど…一枚貰ったのがあって、それがこれなんだけどね」

 

 ポケットから取り出して渡してきたその用紙に目を通してみた。


 『犯人探しゲーム』


 一番上にそう大々的に書かれていた。そしてその下にはルールも記されていた。


 『ルールその1 生徒全員には一枚ずつカードを配ります。「探偵」か「犯人」の二種類のうちいずれかです』

 『ルールその2 探偵が犯人を全員探し当てられたら探偵側の勝利。最後まで当てられずにいたら、犯人側の勝利とします』

 『ルールその3 期間は明日からの三日間にします。一日の最後に探偵の人にはこの人が犯人ではないかと思う人の名前を書いて提出してもらいます。そこで名前が上がってしまった犯人はそこでゲーム終了です。そして、一度でも犯人の名前でないものを書いた探偵の人も、そこでゲーム終了となります』

 『ルールその4 犯人は一日一回必ずしなければいけないことがあります。生徒会メンバーの誰か一人にその犯人カードにスタンプを押してもらわなければいけません。生徒会メンバーはゲームには参加しません、犯人は予め知っておきますのでご了承ください』

 『ルールその5 スタンプを押して貰うのは必ず別の人にしてください。色を分けてますので、違う色のスタンプが3つ押していなかった場合は失敗です。ただし、始業時間前や放課後などの生徒がいなくなった場所での行為は無しとします。いかに、生徒会の行為を監視しているのが重要となります。勝利チームには私、霧島朱鳥から素敵なプレゼントがありますのでお楽しみに』



 その後も細かなルールなんかが書き綴ってあった。まだ完璧には仕上がっていない感じで荒い点もあった。こんなものを明日からやろうだなんて無理があるだろう。学校規模でやることではない。


 「どう思う?なんかこう…人を疑るようなことってあまりしない方がいいと言うか…」

 「ああ…そうだな」

 「それに…勇綺はこういう役割を引き受けるのは嫌なんじゃないかなって」

 「…え?役割ってこの生徒会がやることか?どうして俺もやることになってるんだ」

 「えっ、でも勇綺も生徒会の一人でしょ?」

 「だから…俺はまだ仮だって…」

 「そっか…。でも、朱鳥ちゃんは勇綺を数の一人に入れちゃってるみたいだけど」


 どうしてそんな勝手なことを…。


 「ここ、見てよ」


 秋山が指刺すその用紙の右下の方に、小さく何か書いてあるのを俺は見逃していた。


 そこには生徒会メンバーの名前が記載されていて、その中に俺の名前までしっかりと載っていた。

 そしてその部分に目を通していると、おかしな点に俺は気がついた。


 「あれ?霧島の名前が書いてないんだが」

 「朱鳥ちゃん、自分はゲームに参加する側がやりたいんだってさ」


 なんだそれ…我儘すぎるだろ…。


 「この役割の生徒会メンバーにこんな人数必要あるのか?」

 「そこは一人でも多い方が面白いんじゃないかって…。…まぁ、そこは相談したらいいんじゃないかな」


 とりあえず、そんな役割を俺は引き受けてやりたくもない。もしこれをやるんだったら、俺を抜きに勝手にやって欲しいところだ。


 「それで…どう?このゲーム、参加したくない人もいるって思うんだけど…」

 「当たり前だな…やるのだとしても、やりたい人だけを集めた方がいい。全生徒なんて規模でできるわけがない」

 「…そうだね。さっき私も朱鳥ちゃんと少しだけ話してみたんだけど、朱鳥ちゃんから一方的に話してきて、私からも否定しようかとしたんだけどなんだか言い出すタイミングも逃しちゃって…。それに、偶にしか来れないのに、こんなにまで計画してくれた事なんだからあまり強くなんて言えないかなって…」


 そう考える気持ちはわからなくはないがな…。


 「会長は何か言っていたのか?」

 「会長にも話していたらしいけど、一応同意はもらえたらしいよ」


 会長なら…やりたいことはやらせてあげる方へ優先してしまうよな…。


 「…先生とかは何も言わなかったのか?こんなこと勝手に企画したことに対して」

 「一応個人でやることだけだから何か小言を言われるなんてことはなかったらしいけど…。それに、朱鳥ちゃん先生達にも好かれているというか…学校のスターでもあるから、学校のためにもあまり反対は出来ないんだろうね」

 「そうか…。この用紙とかどれくらいの人数に配ってるんだ?」

 「わからない…でも、まだそんなには配れてはないはずだけど…。校内の生徒に教えて回って欲しいなんて言っていたからそれなりには広まってそうだけど…」

 「それなら、まだ修正が出来ないわけでもないんじゃないか」

 「それもそうだね…。とりあえず、もう一度しっかり話してみるよ。話が広まらないうちに一時間目が終わったら、今度はちゃんと意見する」

 「ああ、そうしてくれ。やりたいものだけにやらせて、そして俺は関わりたくないと伝えてくれ」

 「伝えておくよ…。…でも、折角考えてくれたんだよ?勇綺も一緒にやってあげたらどうなの」


 それは…まぁ、そうだがな…。


 「気が向いたら…参加する側ならやってもいいが…」

 

 そう答えると秋山は笑みを浮かべていた。


 「やっぱり変わったね。今までの勇綺ならすぐに拒否するところだけど、そんな前向きに考えてくれるなんてことなかったもん」


 そうだったかもしれないな…。

 だが、その一押しされせてくれるのは紛れもなく秋山のおかげなんだろうがな…。

 そのことを口にしようかとも思ったが、積極的にそんなことを伝えると、また変な風に捉えられそうだったので言えなかった。なんだか一線を画してしまっている。まだまだ、元通りになるには時間が掛かりそうだな…。

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