第62話 意識 〜2〜

 次の日の登校日。

 昨日あんな出来事があり、秋山とはまだ顔を合わせづらい…なんて思いながらも学校まで足を運んでいた。


 そして学校へと着いて校門に入ると、何か様子がおかしい。始業時間が近いというのにまだ校内に入らず外へ出てる生徒がちらほら見える。何か変だ、妙に騒々しい気がする。

 何かはわからないが、俺は無視して校舎の中へ入ろうかとしていた時に、そのがやがやとした声がどんどんと近づいていくのに気がついた。どうやら校庭の方からそれは聞こえてくる。

 複数人の何か掛け声や声援のような声が聞こえていて、その中から微かに歌声のようなものが聞こえていた。どこかで耳にしたことのあるような歌だが…。

 女性一人の歌声で、伴奏なんか無しのアカペラだったが…お世辞にも上手いとは言い難かった。

 こんな朝一から大声で歌うなんてどんな物好きで恥知らずな奴なんだと思ってスルーしようとしていたその時だった。


 「みんな〜ありがと〜!」


 曲を歌い終えたのかそんな言葉を放っていた。どこかで聞いたような声だな…。

 俺は立ち止まってから、そちらの方に目線を向けてみると、先生なんかが乗る用の朝礼台の上に誰か一人の人物が乗っているようだ。日差しでよく見えないがスカートを穿いていて女子生徒ということがわかった。多分、今歌っていた生徒であろう。

 そして、その周辺には二、三十人程の生徒達が群がっていた。

 

 どうしてこんな人集りが出来ているのだろうと、その台の上に乗っていた人物を、日差しを手で覆って目を凝らして見てみた。 

 その容姿…というか、輝いていたそのオーラですぐに気がついた。まぁ、なんとなく察しはついていたがな…。

 その人物、それは霧島だったのだ。


 あいつ…今日は学校に来ていたのか…。しかしこんな朝っぱらから一体何をしているんだ…。


 霧島はその台の下にいる生徒達に手を振っていた。歓声が止まらず、それからアンコールまで求められていた。


 「わかったよー!もう一曲だけ歌うよー!」


 何言ってるんだ…もう間も無く授業が始まる時間だぞ…。

 そして霧島は、もう一曲別の歌をアカペラで歌い始めた。ちゃんと振り付けを踊りながら歌っていた。さすがプロだな…にしてもファンサービスが良すぎだろう。

 この曲…そうか、持ち歌か何かか。さっきの歌も、霧島のことを調べた時かどこかで聞いたのだろう。

 それよりも何をしているんだか…。

 ついその場で立ち止まって見てしまっていたが、ここで俺の存在に気付いて何かめんどくさいことにでもなってしまう前に、俺は教室へ行こうと思った。



 …そして校舎に入り、俺は自分の下駄箱を開けた。開けた途端、そこにはゴミが大量に入れられていて溢れたものが足元に落下した。

 俺はその光景に少し唖然としてしまった。


 いや、忘れていたわけではない。しかし、昨日あんな出来事があり、なんか今もおかしなことしてる人物がいるしで、こんなことに注意を向けている余裕がなかった。


 俺は面倒に思いつつも、周りから変な目で見られないうちにそのゴミを近くのゴミ箱に捨ててから教室へ向かった。



 俺はいつも通りでいられるのかと心配になっていて、気負いながら教室に着いた。

 そして、教室に入った瞬間に見えた光景に俺は困惑した。中にいた生徒の大半が窓の外を見て、スマホを向けたりしていた。

 何かと思えば、よく耳を澄ませるとまだ歌声が聞こえていた。

 霧島…まだ歌っていたのか…。


 「あーあ、先生来ちゃった」


 外を見ていたクラスの生徒達はそんな発言をして、徐々にその場から離れて席へと戻っていった。

 歌は聞こえなくなっていた。どうやら、先生が止めに入ったようだな。対応が少し遅いのではないのか…。


 そんなことを思いながら、自分も席へと座った。

 そして前を見ると、席には秋山の姿がなかった。

 どこにいるのだろうかと辺りをひっそりと探して見た。すると、前方の教壇付近にいつもの友達と一緒に話している姿が見えた。

 秋山の姿を見た瞬間に、俺は動悸が激しくなっていた。

 落ち着け…いつも通りでいるんだ…。

 そんな秋山の方を見ていた時、秋山はこちらの視線に気がついて目が合った。

 秋山はその友達に一言断ってからその場を離れてこちらに向かって来た。


 や、やばい…なんだろう、凄い緊張してしまう…。


 そして、俺の前まで秋山が歩いて来た気配を感じて、目線を上げた。


 「お、おはよう…勇綺」


 秋山は手を後ろで組んで目線を外しながら挨拶をしてきたのだ。


 まだ完全に意識しているじゃないか…。いつも通りでいようなんて言っていたが話が違う、不自然だ。


 「…おはよう…」


 かく言う俺も、目線を合わせられずにいた。秋山の顔を真面に見れず、いつもの調子の声が出せずに挨拶を返した。やはり、まだ意識するなというのは無理があるか…。


 そして秋山は体を横に向けながら自分の席へ座り、下を向いていた。


 「そんなことより勇綺…謝らなきゃいけないことがあるの」

 

 …謝る?なんだ?


 「知ってたかな、朱鳥ちゃんが校庭で歌ってたの」

 「…ああ、さっき見たが…」

 「あれね、みんなにあることを伝えて回ってから、それを聞いてくれたお礼みたいな感じの流れで歌ってたの」


 あること…?


 「ごめん…遅かったみたい。やっぱり昨日話せればよかったんだけどね…」


 …?


 「朱鳥ちゃん、今日からしばらくは仕事が忙しくないから学校にはちゃんと来れるんだって。それでね、朝早くから学校に来て、いい機会だから自分からそのしたかった企画を公表していったらしいの」


 したいこと…そうか、例の件のことか。

 まさか自分で言い回っていたなんてな…。

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