第54話 話

 次の日の登校日だった。俺は登校して間もなく、下駄箱を開けるとそこには紙屑やらビニールなんかのゴミが敷き詰められていた。

 それからその日、自分の身の回りにはおかしな出来事が多かった。些細な嫌がらせのようなことばかりだ。自分が教室を空けている間に机に落書きや、その机の中やロッカーが荒らされていたり、体操服やら教科書が紛失なんかもしていた。どこにあるかはすぐに見つかるものもあれば、どこにいったかわからないものまである。


 思った通りか、犯人は見当がついている。いや、俺がこうするように頼んであるからな。



 …俺が神崎に頼んでいたこと、それは俺に対してこのようなことをするように山口や他の三年共に仕向けさせていたのだ。


 神崎も東條同様に、自分の知られたくないような弱みを俺に握られていて、強くは歯向かえないということをその場にいた二人に伝えておくようにしていた。

 そして、そんな俺に報復するために力を合わせようとさせたのだ。神崎がこうしようと考え、そしてそれを実行させているのだ。

 

 そう、標的は俺自身になればいい。しばらくの間だけだ、今募っている不満をぶつける対象を俺に変えればいいんだ。そうすれば少しは気が紛れ、依頼の件や三年達の関係、東條への嫌がらせも風化していくであろう。

 このような嫌がらせ行為は煩わしいとは思うものの、この程度ではしょうもないことばかりだとしか思えない。こんなものならまだ生温いとさえ思える。そう、俺はこんなことには慣れているのでなんとも思わない。


 そんな仕打ちを受けている俺の様子を陰ながら美術部の三年達が見ていることにも気がついていた。

 俺はその出来事に特に何か反応を示すことはなく、三年達の存在には気づいているのだとそちらに視線だけは送っていた。

 

 神崎には自分が関わっていることを俺には知られたくないということで、あまり被害が拡大しないようにとコントロールさせている。というより、俺自身もあまり騒ぎ立てられる出来事にして欲しくはないので、この程度のことで抑えておいてほしいとは注文しておいた。こんなことを受けているということを周りの誰にも知られたくないからな。

 

 後は機を伺ってから、神崎がその行為に歯止めをかけさせればいい。

 俺がやりすぎたと反省して、そして心を改めるから神崎の方からこの行為を止めさせて欲しいと、それから神崎も脅迫されるようなこともなくなったとそう伝えさせればいい。


〜〜〜


 そして、昼休憩の時間になる。

 俺はいつものように教室で一人弁当を食べていた。

 何かされるのではないかと警戒はしつつも、何事もないままに食べ終えた。そして俺はスマホを見ながら時間を潰していた時だった。

 

 「…勇綺」


 突然後方から名前の呼ぶ声に少し驚いた。

 その名前を呼ぶ後ろを振り向くと、そこには秋山がいたのだ。

 そして、秋山は教室の周りをキョロキョロと見渡してから俺の机の右側に身を潜めるようにしゃがんでから、俺の顔を見上げるようにして視線を向けた。


 「今、いいかな」

 

 小声で問うその一言に俺は一応頷いた。一体何の用だろうか…。俺は見ていたスマホをポケットの中へとしまった。

 秋山は今日も昼食は東條の所へ行っていたのだと思っていたのだが…ここへ戻ってきたのだろうか。


 「あのさ…今からちょっと付き合ってくれない?人のいないところで二人になりたいんだけど」


 そんな思いがけない発言を聞いて、心臓がキュッとなり驚いた。

 なんだ急に…どういう風の吹き回しなんだ…。


 「…どうして」

 「話したいことがあるの。ここにはまだ友達もいるし…絵美ちゃんに会いに行くからって理由付けたのに戻ってきたの知られたくないから。…それにちょっと他の人には聞かれたくない話なの」


 な、なんだ…聞かれたくない話?すぐ終わる話ではないのか?


 「…それ、今じゃないと駄目なのか?」

 「ちょっと個人的に…今、答えが聞きたいって言うかさ…」


 答えって…何だ、この意味深な感じは…。妙なことで胸の高鳴りが止まらない。何か大事なことでも伝えられるのだろうか…。いや、ないな。変な期待はしない方がいい。

 秋山は答えを待って、こちらを上目で見つめていた。


 どうするか…。話をするだけなら何も断る理由もないのだが…。


 「いいでしょ〜?」


 そんなことを考えている時に秋山は俺の右腕を両手で掴んで揺らしていた。

 突然のことに身体がゾクゾクとした。

 そして、その腕を離させるようにして俺は立ち上がった。


 「…わ、わかったから…」


 秋山は「ふふっ」と笑ってから立ち上がった。

 こうされるとどうしても敵わないな…。

 

 「ついてきて」


 そして、ささっと廊下へ出ていく秋山の後ろを俺はついて行った。


 秋山とはいえ、女子と二人きりになるのは辛いものがある。拒もうかとも考えたが、こういうことを何度も拒否していたら流石に嫌われそうだ。最近では秋山との距離も大分近づけてきた気がする。それがわかった上で秋山もこんな風に誘ってくれたのだろう。

 

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