第27話 アドバイス
会長の花についての話を聞いていた最中、生徒会室のドアをノックする音がした。
なんだ…相談者が来たのか?まだ会長の席の後ろ付近の窓際に飾ってある花の途中で、この室内にある半分程度の話しか聞けていなかったと言うのに…。今入ってくるなんてとんだ邪魔が…いや、違う。本来の目的はこれでいいんだ。何を楽しく聞いてしまっていたんだ俺は…。
「どうぞ」
会長の掛け声と共にドアが開いた。そして入ってきた生徒は一年の男子一人の生徒だった。
「ご相談よろしいでしょうか?」
「ええ、もちろんよ。そこに椅子があるからどうぞ座って」
その生徒は、会長の反対側にパイプ椅子に腰かける。
会長も水やりを一旦止めて水差しを置き、自分の席に座る。
「あの…」
その生徒は俺の方へと視線を向けていた。…ああ、いつものか。
「俺は相談者じゃない、気にしないでくれ」
「影井君は生徒会の一人なの」
だから仮だって…もう修正するのも面倒だから何も突っ込まなかった。
「そ、そうでしたか…」
こんな人が?見たいな表情が見ていて辛い。確かに俺なんか似つかわしくないが…。
「それで、何かな?」
「はい、僕は一年三組なんですが、隣の席の
また、似たような依頼だ。自分からは言いづらい…あるいは言っても聞いてくれないから代わりにいって欲しいとのことだ。これは相談ではない、先に頼み事を言っているだけだ。こいつも、どこかで会長ならすぐに引き受けてくれるのではないかなんて噂でも聞いていたのかもしれないな。
俺は、これは会長がどうこうすることではないとと確信して会長の方へ視線を送っていた。
「そんなことならもちろん、私から——」
会長は相変わらず、すぐに了承しようとしていたのだろうが、その途中で俺の視線に気がついた。それはいけない、という訴えの視線を理解したのか発言を取りやめた。
「どうして…その人が怖いのかな」
そう、まずは引き受けるよりも先にどうしてなのかという理由を説くべきだ。
「それが…雰囲気とかそういうのも物凄い不良っぽくて、それが怖いというか」
まぁ、そういう人種は誰だって怖いだろ、俺も嫌いなタイプだ。
「そうなんだ…」
会長はチラッと俺の方に視線を向けた。
了承してもいいのではないかと言わんばかりの顔だが、俺は軽く頭を横に振った。
「そっか…」
会長は小さくそう呟いた。
この問題を解決して助けてあげたいなんて気持ちは俺にだってある。ただ気に入らないのはこれで会長の手間が増えることにある。さっきの書かれていた依頼と同様の問題だ、会長がそいつから何かされたらどうするんだという心配もある。
何かあったら誰かにすぐ相談する、という精神は普通のことで正しいことなんだと思う。しかし、俺には相談する相手やそんな心構えがなかった。頼れる人がいない、だから何事も一人で解決してきた。その方法がどんなものであろうともだ。
だから、これは単なる妬みなんだろう。誰かに頼めばそれが一発で解決してしまうなんてことが俺には許されないことだと勝手に思っている。
俺だって、中学の時なんかにクラスの不良のような奴になんでいつも一人なんだと茶々を入れられていた。俺はそれが嫌だった、でも何もせず耐えた。
誰からも話しかけられたり相手にされることのなかった俺だが、ちょっかいというものだがそうして話しかけたりしてもらうことで少しだが孤独ではないと感じる事もあった。そう思い込めばそこまで悪い気はしていなかった。不良だけども…寧ろ、そういう連中だからこその仲間意識とかそんなものはあるんだろう。ハブられているような俺みたいなのが見ていられなくて逆にそういった行動に出るんだろうな。…こいつがどうとかそれは知らないがな…。
「…もう少し、耐えたらどうだ」
俺が急に喋り出したもんで、相談者も会長も少し驚いた顔をしていた。
「耐える?」
「会長がそのことをそいつに言ったとして、それが気に食わなくてお前はもっと酷い目に合うかもしれないぞ」
そう、これが今回のデメリット要素。常にこの先に起こるであろうネガティブな発想を考える、そうしたらその問題を先走りして解決する必要のない理由になる。
「それは確かに…」
「それか頼むなら担任の先生に頼め、席替えをしてもらうとかな。それが無理なら学級が変わってクラス替えの時を待て、一年なんてあっという間だ」
そう、その依頼が会長だけが引き受けるべきな内容ではないことを会長にも理解してほしい。
そして、本当に一年なんてあっという間だ。俺もその不良とクラスが変わった時は少しショックだった。
「それでも…怖いんだあの人、今に何されるかわからない」
「気にしなければいい。無視して何も反応しなければそいつも自ずと飽きてくるんだ」
そう、変に反応するのは良くない。こいつの挙動なんかから察するに、変に反抗や注意をしそうな感じだ。そんなことなんかせずにとにかくスルーしろ、無視し続けていればなんとかなるもんだ。
「そんなんで…なんとかなりますかね」
「なる。とりあえず一週間耐えろ、それでもどうにもならなかった時はもう一度ここに来ればいい」
一週間、という当人にとっては長いかもしれないが実際は短い期間だ。これぐらいなら受け入れるだろう。
こいつはこうしたSOSを発信できる人間だ。本当に何も出来ないような人間だったら手をこまねくことしかできないのだ。でも、こいつは誰かに助けを求める行為ができる、会長になんか頼まなくてもどうにか切り抜けられるはずだ。
「わ、わかりました。一週間ですね、一週間経っても駄目なら会長…よろしくお願いしますよ…」
よろしくお願いしますよって…何様のつもりなんだか…。最初から頼み事だけで来るような生徒は今後はお断りすべきだ。
会長は、俺の方に答えを求めるかのように視線を向けていた。それは承諾してもいいと思い、俺は首を少し下げて頷いた。
「う、うん。わかった、そうしてもらえる?」
「はい…」
そして、その生徒は生徒会室を出て行った。
「…凄いんだね、影井君。あんな風にしっかりと相談に乗れてるんだから」
誰かに相談をされ、アドバイスを送るなんてことをしたは今のが初めてかもしれない。
「別に、意見しただけです」
「彼も受け入れてくれてよかった…。私ならすぐにその酒井君って子に話してしまうところだったの。その行為が今後どうなるかも予測できずに…そして、当人の為にもならないということも…」
別に、俺の方が正しいなんて限らない。会長の即決する方が本当は良いことなのかもしれない。これはただ、会長の施しを受けることに嫉妬をしてるだけなんだと思う。
「影井君がいなかったらまた間違えた行動をしていたかもしれない…。いざ、こうして面と向かって頼み事をされると私、断れなくなってしまうから…」
「その…俺の言うことばかりを聞き入れるのも困るんですが…。自分の意見だって尊重してくださいよ」
「…そ、そうだね。わかった、そうするよ」
本当にわかったのだろうか…そう言うところなんだがな。すぐ了承してしまうその行為をやめて欲しいと言っているのだが…。
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