第11話 過去
俺は灰色の青春を送ってきた。誰かと何かすることを極力避けてきた。
俺には合わないんだよなぁ…そんなこと。
帰宅してからも、どうして俺が生徒会なんかに入ることになったのかを考えていた。仮とかいうことになったが、なんだか秋山にも上手いこと丸め込まれた気がする。
まぁ、どうでもいいことか。全てはいつも、時間が解決してくれる。どうにかなるだろ、どうにか。
〜〜〜〜〜
翌朝。
いつものように挨拶運動をする会長の姿があった。
もう普通にしてればいいことなのだが、少し気恥ずかしい。
そして校門を通り過ぎる時に、挨拶を交わしている会長と目が合った。
「おはよう!」
挨拶を返すのが恥ずかしかったので軽く会釈だけした。
名前なんかは呼ばずとも、昨日とは違い挨拶をしてくれた。それにどこか嬉しいと感じてしまっていた。
…どこか上の空のまま、授業が終わり下校の時間になる。
そしていつも通りに、俺は帰宅しようと教室を出て、階段に直行して降りている時だった。
「ちょっと勇綺、どこ行くの!」
降りていた階段の上の方から名前を呼ぶ声がした。俺を名前で呼ぶ生徒は一人なのですぐに察しがついた。そして後ろを振り向いて見上げると、秋山がこちらを見ていた。
「いや、帰るけど」
「何言ってるの!生徒会室まで来なさいよ!」
秋山は階段を降りて俺の元まで来る。
「えぇ、なんで?」
「なんでって昨日生徒会に入ったばかりでしょ?」
「あれは仮で、数合わせのために入っただけだから。そう、秋山が決めてくれたんだろう」
「そうだけど…それでも来なさいよ」
何故だ、仮だろ?行く必要あるか?
「それより秋山、部活はいいのか?軽音部だったろ?あと神崎もサッカー部だろ」
「生徒会室に行って少しだけ活動報告をして、それから部活に行ってるの。だからそれだけでいいから勇綺も来て」
活動報告?そんなのを聞いて俺は一体何をしろと?本当に行かないと駄目か?俺なんかが行っても意味を成さないだろう。
会長も俺が一応生徒会に属している、という事実だけでもいいと思っているんじゃないだろうか。
「俺なんかが行く意味なんてないだろう」
「意味とかそう言うんじゃなくて、生徒会の一人となった以上、来ないと駄目!」
そこまで必死に来させようとする意図もわからない。
「秋山も俺なんかが生徒会に来るなんておかしいとは思わないのか?」
「そりゃ…勇綺はそういうキャラじゃないけど…」
キャラじゃない、本当にその通りだ。俺はそんな所に行くような人間ではない。そんなところに行ったらみんなを驚かせるだけだ。俺はいつだってらしくない行動を取れば意外そうな目で見られる、俺はそれが堪らなく嫌なのだ。
「そうだ、俺はそんなキャラじゃない。だから帰る」
「ちょ、ちょっと待って…!」
階段を降りようとした俺の左腕を秋山は右手で掴んできた。そして再び秋山の方を向いた。
「ごめん、なんか気に障ること言っちゃったなら謝るよ。だから、気にしないで、生徒会に来てよ」
キャラじゃないと言われたのがショックだったのではない。俺はそういうことに参加すること自体が選択肢になんてあっていいものではないのだ。
俺は繋がれた手を振り払った。
「どうしてそこまで必死になる」
「勇綺が来なかったら同じクラスの私が帰しちゃったことになるじゃない!…だから来てよ」
…そうか、そう言うことか。どうしてここまでして引き止めようとするのか、それは俺をここで逃したら会長から、他のメンバーからも信頼失ってしまう、そういうことなんだな…。
昨日、会長からまた明日と言われたのは会長も来て欲しいと思っていての発言だったのか。それを秋山も理解しているから必死になっているのか。
そうか、そうなんだな秋山…。お前は変っちゃいないんだな。
〜〜〜〜〜〜
俺が人付き合いを避けるようになったのは小学生の高学年辺りだったか。
孤立しがちになった俺だが、秋山はそんな時でも俺に話しかけてくれたり、積極的にグループ内に入れようと努めてくれていた。
友達がいなく、ぼっちだったもので周囲から浮いている存在の俺はしばしばクラスのヤンチャ男子に絡まれることがあった。明確にいじめられてた、なんてことはなかったがちょっかいを出されることが多かった。
そういうことをされる生徒は俺の他にもいた。俺の場合は何をされようが特にリアクションをしない、だから面白みがないのだろうからすぐやめる傾向があった。
俺はそういうことをされることに嫌だという気持ちはあるものの、誰かに相手にされているということを感じ取れる唯一の機会なのでそこまで嫌悪はしていなかったのだ。
ただ、俺が嫌なのはそういう光景を見た人からすれば、側からはいじめのように捉えられてしまうのだろう。それが自分でも嫌だった。そういう目で見られたくなかった。
実際そう取られるのもわかる。
そういうことをされようが、周りは見て見ぬ振りをする。正義を気取ろうとするような奴でもそんな時は止めようともしない。助けた場合次は自分が標的になる可能性があるからな。自分もそっちの立場なら同じように助けようともしない。
俺がそんな嫌がらせを受けている最中だった。秋山と遭遇して、しっかり目が合ったのだ。しかし、秋山はすぐに目を逸らして無視していった。
助けてほしい、なんて思ってなかった。寧ろそうして無視してくれたほうがいい。しかし、当時からクラス委員で優等生を貫いていた彼女ですら助けてくれなかった状況に、「ああ、所詮この人もここまでの人間なんだな」なんて思った。
そんな頃の小学校生活を歩んでいた、とある日であった。俺は訳あって教室に一人残って席についていた。前のドアからすぐそこの席だったので廊下からする声がよく聞こえた。
すると、女子二人が会話をする声が聞こえていた。片方は秋山の声だということはわかった。もう一人の話している声は誰かわからないが多分、秋山の友達なのであろう。
そんな話している途中で、こんな会話が耳に入ってきたのだ。
「華蓮ちゃんはどうして影井と話そうとしてるの?」
「だって、先生に言われたんだもん、仲良くなりなさいって」
「先生に言われたからそれをちゃんとやってるの?」
「そりゃそうだよ。私委員長なんだよ?しっかり先生の言うことをきなくちゃ…」
その会話を俺はしっかり聞いてしまったのだ。
会話をしながら教室へと入ってきた二人、そしてその秋山と俺はバッチリ目が合ってしまった。
秋山はその会話が聞こえたであろうことをすぐに察したようだった。
その時の秋山の顔は今でも忘れられない。動揺して、血相を変えていた。
子供ながらにすごい気まずかった。
その友達が空気を読んでかすぐに話題を変えてその会話をしながら二人は教室にあったランドセルや荷物を持って教室から出ていった。
少し考えればわかることだったんだ、その時の俺は愚かだった。当時の秋山が俺なんかに色々世話をしてくれたり、話しかけてくれるその行為は先生からの指示だった。自らの意思なんだろうなんて思っていたのは、全て思い違いだった。
それからだった。秋山は俺にそれまで以上に話しかけたり、接触しようと測ってきた。その時の発言を帳消しにしたいがためかと言うばかりにだった。
もはやカラクリを知ってしまったのだからこんなことに付き合ってはいられないと思ったので、そういった行為を俺は露骨に避けていた。
そんなことが短い期間あった。そのうち、秋山も俺と積極的に関わりを持とうともしなかった。先生もこれ以上何しても意味はないと思い、諦めたのであろう。
そんなことがあり、俺は人間というものを簡単に信じられなくなった。元から好きではなかったが、もっと人というものに信用をなくしてしまった。
それは紛れもなく好きだった人物だったからこそ、ショックはでかかったのだ。
それから中、高と同じ学校になり、秋山も俺に対して何かすることなんてなくなっていた。性格は優しいままで、時折は何か話しかけることもあるがそれ以上は何もしようとはしなかった。俺のことを理解してくれるようになったのだろう。哀れみで関わるより、関係を持って欲しくないのだ。
秋山は今でも考え方なんかが変わっていないんだろう、優等生でいたいのだ。
その頃の出来事、それを秋山はずっと引きずっているのだろう。
責任感が強い。自分が失敗してしまったことは上の責任になると。秋山が自分の優位性を保つためにも俺は今、この状況に立たされているのだろう。
秋山は未だに俺という存在が枷になっているのだろう。もう、それから解き放たれてもいいだろう。
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